統合失調症でも働き続ける

東大卒の男が29歳の時に職場のパワハラ・業務負荷増・コンプライアンス違反の強要に起因して統合失調症を発症した経緯と、3か月の病気休暇・約1年間の休職の後に働きながら回復する様子を綴ったブログです。

わかりあえないことから(書評)

今回のブログでは試験的に書評をしてみようと思います。今回ご紹介する本はこちら。平田オリザ氏の「わかりあえないことから コミニュケーション能力とはなにか」です。

この本では、冒頭で「ダブルバインド」という概念に触れ、現在日本では求められるコミニュケーション能力が「ダブルバインド」状態にあると指摘しています。

 

ダブルバインド」とは、二つの矛盾したコマンドが強制されていることを言うとこの本は解説している。例えば、「細かいことはいちいち相談に来るな」という命令と、「重要な案件を、なんで相談しなかったんだ」という詰問が両立することを「ダブルバインド」状態と呼ぶ。

 

現在、表向き企業が新入社員に要求するコミニュケーション能力は「異文化理解能力」であり、異なる価値観を持った人に対しても自分の主張を伝えることができるといった能力であると論じ、しかし一方で日本社会における従来型のコミニュケーション能力である「察する能力」「空気を読む能力」といった能力も求められていると論じています。

 

この「ダブルバインド」が私の目に止まったのには理由があります。それは、あくまで仮説であるけれども、「ダブルバインド」が統合失調症の原因の一つと考えられていると本書で触れられているからです。Wikipediaによれば、そもそもダブルバインドとは1956年グレゴリー・ベイトソンによって発表された説であり、家族内のコミュニケーションがダブルバインド・パターンであると、その状況におかれた人が統合失調症に似た症状を示すようになる、と指摘する説であるそうです。

  

思えば私が統合失調症を発症した背景も、完全にダブルバインドにありました。事業を推進しようとする上司は、事業が滞りなく進むように、設計業者がいない中で、契約期間が終了した業者に業務指示書にない業務をやらせるように指示を私に押し付ける。高いコンプライアンス意識を持った上司のもとで育った私はそんなコンプライアンス違反は出来ないと葛藤する。そんなダブルバインドに非常に苦しめられました。

 

ダブルバインド」に着目しすぎてしまいましたが、本書はそんな「ダブルバインド」状態のコミニュケーション能力をどう育むのか、と言った内容にも踏み込みながら文章を展開していきます。

 

現代演劇で使われる言語と日常生活で使う言語の違いや、ハイコンテクストな文化の中の言語とローコンテクストな文化の中の言語の違い、男女の言語の違いなどにも触れ、コミニュケーションの中に存在するずれを紹介していきます。

 

最終的に、今の日本社会が多様化していることに触れ、「バラバラな人間が、価値観はバラバラなままでどうにかしてうまくやっていく能力」が求められているとしている。心からわかりあえないということを前提として、どうにかやっていく能力が必要となっているとしている。

 

本書は、以下にコミニュケーションが多様であるかを読者に知らしめるとともに、旧来型の「空気を読む」コミニュケーションから脱却する必要があるということを示す、実用的な書であると感じました。

 

そんな本書を読んで自分の統合失調症の原因となったいざこざを振り返ってみると、上司側に求めたかったことと私の方で工夫したほうがよかったということが挙がります。

 

まず上司には、今業者にやらせている行為は契約の範囲外だと根拠をもちいて主張した私に対して、従来型の日本のコミニュケーションのように(契約の範囲内だと)察しろという指示ではなく、根拠をもって反論してほしかったです。

 

次に私は、契約範囲外のことを業者にやらせていると感じたら、しぶしぶ中途半端にその指示に従うのではなく、すぐさま別の上司に相談するか、あるいは内部通報をするべきでした。

(別の上司に相談はしましたが、既に統合失調症の前兆期に入っており遅すぎました。)

 

多少コンプライアンス違反してでも事業を進めた方が良いという価値観と、事業が滞ったとしてもコンプライアンス違反はいけないという価値観は「分かり合えない」ものと割り切ってのコミニュケーションが必要でした。

 

そんな感想を抱いた一冊でした。

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