[3mm]Analys.
穏やかな街並み、いつもの日常。
ボクはこの街が好きだ。
今日は久しぶりにお出かけをしている。穏やかな街並み、いつもの日常。こんな晴れた日に予定があるというのはとても幸福感を憶える。
こんにちは!
あら、こんにちは!今日も元気だね!
うん、お出かけなんだ!
そうなのね、ウキウキが顔にも出てるよ!え~っと…
…ねぇおばさん。おばさんも外の世界から来たの?
外の世界?何言ってるんだい。この世界の他に世界があるっていうのかい?
(………)
世界は一つだし、街だって一つしかないじゃないか。このムジカ以外に街があるってのかい?
…ううん、なんでもないよ。それよりおばさんも行くんでしょ?
おや、よくわかったね。私も行くよ。この子とね。楽しみだね。
そうだね、それじゃーね!
ボクは知っている。この世界はあの部屋のジオラマだ。何が起こるかも知っている。この街の全体を把握している。
ボクは今ガラス越しにムジカを見ている。
低い空を見上げる。ペンキで塗られたかのような色。そこは壁なのか、先が見えないだけなのか。向こうの世界などないのではないかと思ってしまう。
どこだ、あの向こうにボクが…。
根拠の無い確信。ボクの意識は外の世界にもある。ボクは意図してこの世界に入り込んでいる。どうにか外の世界の意識を持ち込めないか、思案しながら歩みを早める。
魔法のような…そうだ!妖精コダーにお願いしてみようか。
天を仰ぐ。相変わらずまばゆいくらいの輝きを放つコダーの姿が容易に見つかる。
ねぇ、コダー。ボクは今ジオラマの中にいるんでしょ?
答えることなく淡いオレンジ色から黄色になるコダー。なんだか優しい気持ちになる。
少し休憩しよう。
足を休め、穏やかな面持ちでコダーを見つめる。
この世界の外にもボクがいるんでしょ?ジオラマをきっと見てるんだよね?
変わらずムジカを照らすコダー。薄い緑色を帯びている。そろそろ行かなくちゃ。
よし、行こう。
歩みを進めながら考える。コダーはもしかしたら何も知らないのかもしれない。人によっては見えなかったり、ただのヒカリに見えたり、見える人には妖精だと認識できる精霊。そしてムジカを照らす太陽、神様ではない。
神様…
そうか、聖書を見に行こう。深緑のコダーを背に図書館へと入った。
分析視点
おや、こんにちは。
はい、こんにちは。
何をお探し?
聖書…なんだけど、ボクでも読めるのってないかな。
ほぉ立派だね。えーっと、わかりやすいのはこの『猫でもわかる聖書のすべて』なんてどうかな?
ありがとう!
おじいさんのメガネに写る薄赤紫色のヒカリ。ハッと上を見上げるとコダーの姿。
なぁんだ、着いてきたんだね。
聖書を入手した小さな達成感に両腕で伸びをする。
聖書は偉大だ。この世界の全ての知が集結されている。この世界を司る理だ。ボクには難しすぎてとても読める気がしない。
くぅー。やっぱり無理!
水色のコダーに照らされて頭を抱える。重みで閉じる聖書。裏面の落書きがふと目から入って口から出ていく。
アナ…リス?
呟いた途端に色味を増すヒカリの粒。いや、色味を増した訳では無い、一つ一つがクリアに見えだしている。漠然と見ていたヒカリも、あるヒカリは小さな妖精としてくっきり捉えられ、あるヒカリは煙のようなもののままである。窓の外ではヒカリが風に飛ばされる煙のように常に流されている。東から赤、北東からは緑、西の方からは青いヒカリと妖精が。
飛び出している。
妖精が。
ヒカリが。
色が。
ボクは知らなかった。でも私がソレを知っている。7つのヒカリが出現する場所、ジオラマ周囲のレールとマテリア、7CM!
回り出す世界、ボクの意識が薄れていく。
この言 を 唱 ては ない コンポス に う
『猫でもわかる聖書のすべて』の落書き
霞む文字の意識を最後に景色が途絶えた。