マルチリンガル医師のよもやま話

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中国高速鉄道の光と影

世界で一番最初に200km/hを超える高速鉄道が走ったのは1964年の東海道新幹線の開通です。以降、欧州を中心に高速鉄道が普及しました。

アジアでは2004年に韓国でKTX開通、2007年に台湾高速鉄道と、中国高鉄が開通しました。その後、中国は社会主義の力全開で国内の高速鉄道網を築き上げ、いまや海外へ売り込みをかけているほどです。

飛ぶ鳥を落とす勢いの中国高鉄。今回はその光と影について学んでいきましょう。

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多国籍車両

そもそも高速鉄道を走らせるには強い地盤が必要です。日本と比べると欧州や中国・韓国などの大陸は地盤がしっかりしているので高速化はしやすいんです。

スピードを出すだけならモーターの出力を上げればなんぼでも可能です。問題は安全性と騒音と費用対効果の兼ね合いです。これらを無視すればいくらでも速くできます。

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中国高鉄は多国籍車両

2003年の時点で中国は日本の新幹線技術を取り入れようと*1考えていましたが、世論が受け入れず、他国にも窓口を広げました。

結局、日・仏・独の様々な車両を購入し、大部分はその技術をもらい中国内で製造しました。つまり、国内向け発表は『国産車両』なわけです。

死亡事故でもすぐ再開

2011年7月、有名な温州衝突脱線事故が起こります。事故車両が埋められたのは記憶に新しいですね。証拠隠滅。40名が死亡しました。そして、なんと2日後に運転再開しました。

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温州衝突脱線事故

後の調査*2で、落雷により制御システムが故障した上に、状況がわかっていないまま運転再開したことなどがわかっています。

複雑な高速鉄道のシステムを各国から寄せ集めで作ったことが裏目に出ました。さらに非常時の対応がまずすぎる人災でした。

高鉄と経済効果

South China Morning Postの記事*3をかいつまんでみていきましょう。

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中国高鉄の影

先日、Geographical Research*4という雑誌に報告されたのは、高速鉄道による経済効果について面白いものでした。

研究者たちは2004年以降の、527駅の周囲の夜の明かりの経時的な変化を調査しました。

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多くの地域では経済効果あり

すると、ほとんどの地域では駅から半径4km圏内での夜の明るさが大きく上昇していることがわかりました。つまり、高速鉄道による経済効果が見られています。

中国高鉄は最初、発展して人口の多い東部の路線から始まりました。なので、これらの相乗効果は誰もが納得します。

社会主義の強み

鉄道の大きいメリットは大量輸送です。だからメリットが生かせる都会で発展し、田舎では衰退します。

つまり、新規路線建設をするには、人口動態などを考慮して行わなければ、閑古鳥が鳴いて大赤字となります。田舎で新線がなかなかできないのは費用対効果のせいです。

ところが、社会主義の中国では、そんな理屈を無視して、建設ができるわけです。

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田舎にもどんどん新規路線を作る

中国では現在人口の少ない地域での建設が続いており、2035年までに総路線距離は7万kmに及ぶといわれています。もちろん既に世界一です。

副作用:頭脳流出

中国の西部は人口も少なく、発展も遅れた地域が多いので、高鉄の路線開業には大きな期待が寄せられていました。しかし結果は、

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西部では経済効果はマイナス

高鉄の開通後、経済活動が1.5%以上低下していました。これは、非常に意外なものでした。しかし、詳しく調べると、その理由も見えてきました。

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西部から頭脳流出が加速

先日China Industrial Economics誌*5に発表された研究によると、高鉄開通により西部から東部への”頭脳流出”が加速したといいます。

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『プラスの経済効果はない』

また別の研究でも、内モンゴルなど中国西部では、高鉄開通によるプラスの経済効果はなく、むしろ人材の流出で産業的には被害が大きいとまとめています。

海外への売り込み

高々15年弱の歴史ながら、社会主義の超高速建築で世界一の路線距離を誇る中国高鉄は今や海外進出にも力を入れています。

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インドネシアの裏切り

インドネシアの高速鉄道プロジェクトは、日本が最初交渉を進めていました。ところが、後から急に現れた中国に持っていかれました。理由は「安いから」

インドネシアの高官が日本の調査書を中国に流したことが原因*6と言われています。中国は調査費用を使わずに安く入札したのです。

ところで、この高速鉄道、元々は首都のジャカルタから第2の都市スラバヤを結ぶ予定でした。

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インドネシア高速鉄道の予定

しかし、その距離は730kmほどとなり、巨額な費用がかかります。当時のインドネシアの財政事情的に厳しいと判断し、とりあえず第3の都市であるバンドンとを結ぶことにしました。

ジャカルタとバンドンの距離は142kmしかない為、大きな経済効果が見込めません。さらに、バンドンが高地にあることで建設費用がさらに高くなってしまったのです。

工期の遅れ

2019年開通予定のその高速鉄道は実はまだ工事中です。また、当初想定していた予算を大きく上回り、4割増になる*7ようです。

工期の遅れは、土地確保が遅れたり、反対運動があったり、コロナ蔓延などと中国側の問題だけではありません。しかし、費用に関しては、元々の見積もりがテキトーだったことがわかっています。

そして、2020年になって急にインドネシア側は日本に助け舟を求めましたが、過去のインドネシア側の裏切りもあり、日本としては気は進みません。当たり前。

中国の野望?

財政状況が厳しいインドネシアにとって工費の増加は厳しいものです。

この高額な建設に融資したのは中国の国家開発銀行です。そう、中国がお金を貸し付けて、そのお金で建設を行います。そして、貸し付けたお金はキッチリその国から返してもらうのです。

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うまくできたメカニズム

先ほど書いたように、たった140kmほどの距離に高速鉄道が開通し、高い運賃であれば利用する人がどれだけ見込めるでしょう。

つまり、ジャカルタとバンドンの開通後も黒字化は望めないのです。となると、金利が高い国家開発銀行から受けた融資を返せない可能性が・・・

そうなると、国家開発銀行が債権回収するでしょうから、高速鉄道のインフラは抑えられ、さらに不足の分は周辺の土地なども抑えられるなんてこともあるかもしれません。

おそろしや。これが一帯一路ですかな~

さいごに

いかがでしたか。

まだできて15年もたたない、中国高鉄はいまや世界一の路線距離を誇ります。最初は海外の寄せ集めで作ったのですが、今はそれらを自国開発しています。

海外にも、日本などより圧倒的に安い価格で勝負をします。しかし、その裏には巧みに仕組まれたワナもあるので、発展途上国は安さだけに気を取られてはいけないんですね。

では、また(^.^)ノ