アン・キャロル・ジョージ(1927 - 2001 )は米国の詩人、作家。南部、アラバマ州の東部カルホーンで生まれ、バーミンガムにある大学で英文学を学び国語教師を23年間勤めた。誌や小説も書いているが、1996年「おばあちゃん姉妹探偵シリーズ」Southern Sister Seriesが好評で、代表的なコージー作家として知られている。

 本シリーズはアラバマ・バーミンガムの外見もキャラも全く違う高齢姉妹メリー・アリス(シスター)とパトリシア・アン(マウス)が主役で、マウスが語り手となって綴られる。推理小説のフォーマットの中で二人のコミカルな掛け合いを楽しむ趣向である。コミック小説的だが、文学的素養を背景に持つ作者が書いただけあってレベルは高い。
 それゆえ、探偵小説の基準で評価するのは野暮である。初巻は、米国推理作家協会のアガサ賞新人賞を受賞しており、推理小説としての評価は高いとも言える。

 シリーズを8巻あるが、日本語版(寺尾まち子訳 原書房コージー文庫)は3巻目まで刊行されている。優しく、正しい英語なので原文でも読みやすい(作者もパトリシア・アンも英語の先生だったので誤った言葉使いには厳しい)。

 本書はシリーズの7巻目で、2000年に刊行されたもの。ガラガラヘビを弄ぶことでキリストに触れることが出来ると信じる人たちがいるアラバマの田舎町が背景になっており、南部の風俗が興味深い。


<ストーリー>
 外見もキャラも全く違う、仲良し高齢姉妹メリー・アリス(シスター)とパトリシア・アン(マウス)、夫フレッドは、ポーランドでクリスマスを過ごし、コンコルドでアラバマ州バーミンガムに戻ってきた。ワルシャワにフィリップと結婚したばかりのヘイリーを訪れたのである。ヘイリーはマウス、フレッド夫妻の娘で、フィリップはシスターの2番目の夫フィリップの甥である。バカ高い3人分のコンコルドの乗車券は大金持ちだった3人の夫の遺産で暮らしているシスターが支払った。

 時差ボケのマウスをルーク・ネルソンが訪ねてきた。彼は父の妹の一人息子でミシシッピー州コロンバスに住んでいる。子供時代から親しんだ従弟である。車に乗るとすぐに酔うので「ヘド吐きルーク」と呼んでいた。ヘイリーの結婚式には妻バージニアと出席してくれた。独身でハンサムなひとり息子リチャードは下院議員2期目で、ワシントンにいる事が多い。
 ルークは無精髭を生やし、やつれていた。

 シスターはバーミンガム市街を見下ろす丘レッド・マウンテンの上にある高級住宅地の、最初の夫ウィル・アレックから引き継いだ屋敷に住んでおり、マウスの住宅はは丘の裏手の郊外住宅地にある。市街に出る際にはマウスの家に立ち寄るのが習慣である。
 来ていたシスターと、ルークの話を聞いた。10日前に、妻バージニアが男と家を出たと言って、「もう十分、ホールデンと行きます」と書いた彼女の書置きを見せた。ホールデンは、家のペンキ塗り替えを頼んだ男で、仕事が終わった3日目にバージニアと消えたのだという。「バージニアを愛していた。助けてくれ」と泣いた。
 慌てたルークはホールデンを追った。バーミンガムの北方にある町ギャデスデンにある小さな教会の牧師だがペンキ屋もしているのだと分かった。ギャデスデンに行って聞き回ったが教会を知っている者はいなかった。ルークは途方に暮れていた。

 バージニアは美人だが、酒好きで、お高くとまったすました女である。あまり好意は持てない。ルークは意気地なしだが従弟である。頼まれれば嫌とは言えない。だが、バージニアは63才で、ホールデンは年下とはいえ50代である。こんな話、信じられる? 非常識な一族のなかで、常識あるのは長く教師をしてきた自分しかいない。シッカリしなければとマウスは思うのだった。

 マウスは、クリスマスにフレッドにプレゼントしたIBMシンクパッドを起動した。ホールデン・クロフォードで検索すると、彼はギャデスデンの西南の田舎町スティールに住んでいると分かった。ルークが電話すると留守電が対応した。「モンキーマンに御用の方はメッセージをどうぞ」と。スティールへはバーミンガムから1時間程度である。毎年カントリーフェスティバルが開催され、草笛大会や木こり競技があり、農家が手作りの品を門前に並べて売る。マウスは行ったこともあるので案内すると申し出るとルークは喜んだ。もちろん、シスターも連れて行く。

 1月のアラバマは、大雪が降ることは滅多にないが寒い。シスターは、ワルシャワで買った深紫のブーケに紫のブーツという北国のハイファッションで現れた。シスターのジャガーではなく、ルークのリンカーンで行くことになった。買ったばかりのジャガーにヘドを吐かれてはたまらない。シスターの魂胆は、マウスにはお見通しである。

 スティールの郵便局で聞いてホールデンの教会が分かった。牧場の先のチャンドラー山の中腹だった。教会の前にはペンキ屋のトラックが駐車しており、裏は自宅になっている。ホールデンの教会に間違いなかった。僧(モンク)なのでモンキーマンと言ったようだった。
 ルークは、「ホールデンには会いたくない。バージニアが会いたくないと言ったらどうしよう」とうじうじしている。マウスは、代わって住宅を訪ねたが誰もいなかった。トラックがあるので教会にいるのかもしれない。雪が降り出していた。ルークは教会を見てくると車を降り、表のドアから入って行った。雪は強くなってきた。早く帰らねば危ない。車内で待っていたふたりはルークを呼びに教会に行った。教会にルークが倒れていた。教師だったマウスは救命手当の訓練をしてきた。ルークの横に跪くと、シスターが「後ろを見て!」と叫んだ。長椅子の上に女性が横たわっていた。首を捻られて死んでいる。長い髪が床に落ち、スカートは揃えられていた。愛する者を置くように。

 ルークは気絶して額から血を流していた。シスターの電話で救急車が来た。係員はルークに近づくのを躊躇し、「蛇はいないか?」とマウスに確認して介抱し始めた。蛇を見ていないので、「いない」とは行ったがマウスには意味不明だった。
 保安官代理も二人来た。話を聞きたいと言っているが話せることはない。
 パラメディックが、「ご主人をオネオンタの病院に運びますが同行しますか?」というので余計な説明をせずに救急車に乗り込んだ。後は、庭でゲロ吐いているシスターが面倒を見る筈。
 パラメディック、タミー・パーソンズは寝台の上のルークの手を握って話し続けた。ルークは彼女に答え始めた。教会でバージニアを見たと言って、また意識を失った。タミーは、「彼も蛇使いなの?」と聞く。驚くマウスに、「キリストは我らが現世と後世の天国」教会は、蛇を使う事で神に触れる事が出来ると信じる者たちが集まる場なのだと教えてくれた。事故が起きる事もあり、タミーは何回か出動したのだという。チャンドラー山には世界最大、最強のガラガラヘビがいると言われていると自慢している。だから、テネシーやジョージアからも信者が集まるのだと。
 タミーは、チャンドラー山の怪獣ブーガーも教えてくれた。熊と山猫の掛け合わせで人を襲うのだという。死んでいた女性やルークを襲ったのかもしれないと。マウスは目まいがして来た。コンコルドで大西洋を横断したのは4日前。未来と未開。

 救急棟にルークを送り込み手続きを済ませたところに、シスターが雪の中、リンカーンを運転して来た。教会に置き去りにして来たのに上機嫌である。シスター好みのノーマン・シュワルツコフ(イラク侵攻時の米軍司令官)似の男性が現れて理由が分かった。シスターは、セント・クレア郡の保安官バーギル・スタッキィだと紹介してくれた。ホールデン・クロフォードは有名な蛇使いの牧師だと話してくれた。死んだ女性の身元は確認中だという。
 彼のシスターを見る目が違う。完全にシスターに引っ掛っている。66才のシスターは、先日、賞味期限が切れないうちに結婚すると宣言したばかりである。前の夫は、3人とも30歳近く年上だったが、さすがに年下でもよくなったようだ。バーギルは60才で、リタイアを予定していた。
 ルークは検査のため明日の午後まで様子を見ることになった。

 翌朝、バーギルから電話があった。ルーク名義の車がテネシー州プラスキで見つかったという。バージニアの車である。林に乗り捨てられ、なかにはホールデンの死体が残されていたと。車のコンパートメントには、バージニアが彼に車を売った書類が残されていた。重要参考人になったバージニアを捜索中だが、行方は知れないと。
 マウスは、バージニアの息子で下院議員のリチャードに連絡し、その後、病院に行ってルークに伝えると請け合った。

 マウスはシスターの屋敷に行った。派遣メイドのティファニーが迎えてくれた。シスターにバーギルの話を伝え、リチャードに電話するように言った。繊細な話は無神経なシスターにさせた方が早い。彼は不在で、シスターは留守電に、あからさまに事実を吹き込んだ。

 シスターの娘で弁護士のデビーは妊娠8か月半である。彼女が来たのでルーク騒動の経緯を話した。シスターはケリー・グラント似の保安官に出会ったと話した。姉思いのマウスはコメントはしなかった。デート相手が次々に現れる母に、デビーは動じる事はない。
 姉妹はルークを迎えにオネオンタの病院に向かった。

 ルークは弱っていた。シスターは自分の屋敷に留まるように勧め、近くのレストランに昼食に行った。バーギルがいて、食事に加わった。教会で殺された女性は、ホールデン・クローフォードの息子エサンの妻スーザンだったと教えてくれた。エサンは昨年、蛇に噛まれて死んでいた。スーザンも蛇使いで、南部各地で集会を開いていた。小さな子供がふたりいる。
 バーギルは神への信心を明かすため、命や子供を犠牲にしてガラガラヘビに触る者たちの気が知れないと嘆いた。
 シスターの携帯が鳴った。ワシントンのリチャードからで、驚いた彼は駆けつけてくることになった。バーギルはテネシーの事件現場へ出かけて行った。

 ルークの検査は長引いていた。退院は明日、午後に延期された。シスターはジャガーで迎えに来るからと、ルークを喜ばせた。本当は、ゲロ吐きには新車に乗せたくない。
 帰りに、バージニアがいるとは思わなかったが教会に寄ることにした。教会には事件現場の立入禁止テープはなく、庭の車はホールデンのペンキ屋トラックだけだった。
 駐車場に赤のピックアップが入り、若いカップルが降りた。スーザンの姉ベッティー・マホールと夫のテリー。マホールで、教会に花を持って来たのだった。彼女はスーザンの子、ジャミーとエサンJrを預かっていた。昨日、保安官からスーザンが殺されたと知らされ、今朝、ホールデンの死を伝えられたと嘆き、混乱していた。結婚して蛇を使い始めたスーザンが蛇に噛まれるのを心配していたが、殺されるとは思わなかったと。
 シスターは涙にくれるベッティ―を後席に座らせ、サーモの珈琲を差し出した。彼女は蛇を恐れながら教会に入って行った。姉妹は、寒いなか、山を降りてバーミンガムに戻った。

 夜になって、ディビーから生まれると電話があった。フレッドと病院に駆け付けた。彼女の夫ヘンリー・ラモントはマウスの教え子で、文才があるので作家になると予想していたが独創的なシェフになっている。ヘンリーが赤子を抱いて出てくるのをディビーの双子の娘メイとフェイと一緒に迎えねばならない。双子は数年前、母親にはなりたかったディビーがアラバマ大の精子バンクに頼って生んだ子である。
 シスターは廊下でバーギルと楽しそうに話している。マウスはディビーに付き添った。陣痛が始まり、待合室でみんなで待った。部屋は華やかで、看護士たちはローラ・アシュレイを着ている。フェスティバル会場?
 ラモント家のアナウンスがあり、全員でガラス窓に押し寄せた。ヘンリーが赤子ディビッド・アンソニーを抱えて現れた。応援団は狂喜してみせた。

 翌朝、ベッティーから会いたいと電話があった。ベッテーには、預かっている幼い子供がいるので遠くまではいけない。近くの町スリングヴィルで会う事になった。シスターに電話すると、リチャードはルークに会いに病院に行ったという。ディビーが戻ってくるので準備に忙しい。出産の翌日に出てくるとは信じられないと。双子も来る。リチャードは、病院に一緒に行って欲しいと言ったが、メイドのティファニーも奮闘しているが手が回らないと。シスターは、ホールデンは蛇に噛まれて死んだと、バーギルから聞いていた。事故ではなく、犯人は彼を縛って蛇に噛ませたのだと。

 スプリングヴィルはバーミングハムとスティールの中間にあり、今ではベッドタウンになっている。マウスはベッティ―に会いに行った。約束の時間に早かったが、彼女は既にベーカリーに来ていた。
 彼女は背はマウスと同じく低かったが美人だった。彼女が18才、スーザンが15才の時、両親が飛行機事故で死に、彼女は大学生だったので自立したが、スーザンは叔母パールの元に行った。パールは未亡人で子供はなく、蛇使い信者だった。熱心なバプチストで、未亡人になって、神に触れたいと熱望するあまり蛇使いになった。ベッティ―は休暇には二人の家に戻っていたが、蛇の話はしなかったので知らなかった。3年後、パールは癌で死亡し、スーザンは牧師ホールデン・クロフォードの息子エサンと結婚した。17才だった。事情は明らかになったが、スーザンはベッティ―に蛇の話はしなかったという。エサンが蛇に噛まれて死に、スーザンは、なにかあれば二人の子を頼むとベッティ―に頼んだのだと。涙を止めどなく流しながらベッティ―は話し続けた。彼女はスーザンの二人の子供を養子にするという。テリーも喜んでいると。結婚8年目にして彼女は、諦めていた妊娠をしていた。

 ベッティ―は、スーザンの義父ホールデンの話を始めた。彼は小作農の出で、貧しく教育もなかったが生真面目で誠実だった。神を信じ、あの教会を建て蛇使いの説教師として近隣に知られるようになった。だが、妻が病死し、イサンが蛇に噛まれて死んでから信心を失っていた。テネシーの屋外集会で蛇に噛まれて死にそうになって以来「神は私に背を向けた」とさえ言い始めた。蛇に触らなくなり、片手間だったペンキ屋が本業になっていたと。そして、集団の中ではリーダー、ホールデンのポストを巡って争いが生じた。スーザンの継承が自然だったが、女だと納得しない者もいた。ベッティ―はスーザンはポスト争いに巻き込まれて殺されたのではと疑っていた。

 ベッティ―は、スーザンの家で昨日見つけたと、バージニアの電話番号が書かれたメモを渡してくれた。バージニアを見つける助けになれば嬉しいと。
 スーザンが身に着けていたカメオを見なかったかと聞かれたが、マウスは気付かなかった。彼女達の祖母から引き継いだ大切な品なのだという。

 自宅に戻って、ベッティ―から貰ったメモの電話番号を呼び出した。留守電で、ゴードン家だと言われた。電話先ははるか離れたシアトルで間違い電話だった。メモは引き出しに仕舞った。

 シスターから夜のCNNにバーギルが出るのでTVを見るようにと電話があった。TVでは蛇使いの女性が教会で殺され、リーダーは車の中で蛇に何か所も噛みつかされて殺されたと報じていた。バーギルは、現時点では詳しい話は出来ないと話した。アラバマは蛇使い信者がいる地として世界中で有名になっている。TVでは、リポーターが住民達にインタビューを始めた。老婆ベラ・パッカードが「殺したのはブーガー(山の怪獣)だろう」と言っている。
 一緒にTVを見ているフレッドは、おかしな人たちにマウスが巻き込まれているのではないかと心配した。

 翌朝、外は凍り付いていた。フレッドは4WDに乗っている部下が迎えに来て仕事に出かけた。昨日、ルークの検査が長引いて退院が翌日に延び、ひとりでシスター邸に戻って来たリチャードがマウス宅の台所に座っていた。父母は仲がいいものだと思っていたと言う。クリスマスの時だって彼女は幸せそうだったと。リチャードは、マウスが教えたシアトルの電話番号を試したが、ゴードン氏からバージニアという者は知らないと言われた。
 リチャードは教会を見たいという。ルークは教会でバージニアを見たと言っている。母の手掛かりがあるかも知れない。リチャードの気持ちは分かる。ベッティ―から鍵を貸してもらい案内しようと申し出た。
 午後には、書店で数年前話題になったアラバマの民俗、蛇使いを取り上げた本を買って読んだ。神に触れ、贖罪を得る事を願う人たちは珍しくないと分かった。酒とゴルフが好きな63才のバージニアが目覚めたとしてもおかしくはない。

 翌朝は頭痛がして起きられなかった。昼前に起きて、病院のルークに電話すると、朝から起きて待っていると言われた。リチャードとシスターは、テネシーにバージニアの車を引き取りに行くので、ルークはマウスが連れ帰る約束だった。
 ルークは早く教会に行きたいという。トーマス・ベンソンという老人が来て、バージニアは大丈夫だと言ってくれたのだと。教会の信者たちに話を聞かねば。彼らは週末にはウエスト・バージニアでの集会に行くと。

 午後一番に病院に着き、ルークを連れ帰った。焦るルークに、明日リチャードとシスターも一緒に教会に行こうと宥めた。シスターの屋敷にはバーギルも来ていた。彼は、トーマスはスティールで飼料店を営んでいるが、今は息子が仕切っている。昔気質のいい男だと教えてくれた。リチャードとルークは疲れ果てて、「お休み」と2階のゲストルームに早々と入った。
 バーギルが、バージニアはホールデンと一緒にナッシュビルに行っていたと教えてくれた。ガソリンスタンドで目撃されていた。トーマス老人の話は役に立ちそうになかった。
 バーギルは、バージニアの車の中にあったと、ポケットからカメオを取り出してマウスに渡した。バージニアのものだからルークに渡してくれと。マウスは、スーザンのカメオだと気付いた。バーギルは、カメオをポケットに戻した。

 翌日、チャンドラー山の教会に向かった。マウスはシスターのジャガーでベッティ―宅に行き、教会裏住宅の鍵を借りることになっている。探しながら訪れると、「風と共に去りぬ」に出てくるような豪壮な屋敷だった。主のユージーン・マホールが車椅子で出てきた。狷介で不機嫌そうな老人だった。ベッティ―は。すぐに出てきて鍵を渡してくれた。教会の蛇を恐れるマウスに、昨日行ったが宅内に蛇はいないと請け合ってくれた。昨日はスーザンの葬儀だったので取り込んでいると、もてなせない事を詫びた。シスターは、ひたすら屋敷に感心している。大きな噴水のある庭も美しかった。

 ルーク、リチャード親子と教会で待ち合わせる事になっている。山を登り教会に着いたが彼らは来ていなかった。クロフォードのペンキ屋トラックしかない。信者たちもいなかった。
 早くトイレに行きたいというシスターと住宅に入った。居間には、クロフォード家のファミリー写真が飾られていた。幸せそうなホールデン、息子イサンの結婚写真が悲しい。4人ともいない。

 後ろから、「手を挙げろ!」と怒鳴られた。シスターは飛び上がって手を挙げた。手を挙げながら振り向くとオーバーオールを着た髭面の男と、TVで見た老女だった。老女は「手は降ろしていいよ。バーティは悪戯好きなもんで、悪いね」と笑いながら言った。
 彼らに聞かれて、従弟の妻を探す手がかりを探していると事情を説明した。シスターが、「私はマリー・アリス・クレインで、こちらは妹のパトリシア・アン・ホロウェル」と紹介すると、老女は「ベラ・パッカードで、あっちは息子のバーティ、アルバート・リー」と名乗った。ベラは近所の住人だった。預かっている、ホールデンの猫フロッシーの面倒を見て行く積りと言う。先週金曜日、数日いないので預かってくれと頼まれたのだと。車は年配の女性が運転していた。いつもの事なので行先は聞かなかった。彼らは蛇使いではなく、信者集団とは無縁だった。
 バーティは大学で英語を教えている。家を出ているので、ホールデンがベラの農場を手伝ってくれていたという。バーティは冬休みで帰省しているだけで、専攻はチョーサーだと言った。マウスも英語教師だったが専攻はない。11年生クラス担当だった。

 ホールデンは、時々、「救うため」に女性を連れ帰っていたという。数日後にはいなくなっていた。バーティは、彼は不幸な女性を救い出す地下トンネルの組織の一員だったのかもと言う。怒り狂った夫が来たと聞いたことはないがと。
 二人はホールデンとスーザンの死を悼んでいた。ベラは、バーティ―はスーザンが好きだったのにねと言った。彼は、スーザンは誰からも愛されていたと言った。
 姉のベッティ―と夫テリーも好かれている。だが、車椅子の義父ユージーンはクソだと。撃たれたが、自分がやったと云う者が多すぎて保安官は犯人捜しを諦めたと。
 時間があれば食事に来てくれ、得意のスープを食べさせると言ってベラ親子は帰っていった。

 居間や台所を探したが手掛かりになりそうなものはない。ナッシュビルのホームステッドホテルのマッチ箱があったのでポケットに入れた。留守電が入っていたが暗証番号が分からないので聞けない。

 テリーが、ベッティ―に手伝えと言われたと、やって来た。教会の前に車が集まり始めていた。ホールデンの葬儀の準備が始まっていた。
 リチャードとルークが着いた。父の車酔いで遅くなったと詫びた。リチャードは集まってきた信者集団にバージニアの情報を聞き回ったが得るものはなかった。
 リチャードの目に涙が溢れた。「父さん、母さんに何をしていたんだ」 ルークは「40年間、食わせて、好きなようにさせてやった」と言った。リチャードは、「だからだね。出て行くのも当然だ」と。手掛かりはない。リチャードは母は死んでいると思った。親子は激しく罵り合った。

 帰ろうとしたが、ジャガーは信者集団の車に挟まれて出せない。オーバーオール姿の年配ジョー・ベーカーが手伝ってくれた。ホールデンの義弟だという。先週木曜日にホールデンに会った時、彼はナッシュヴィルに仕事に行くと言っていたという。ホームステッドホテルは彼の常宿だったようだ。

 帰りに、シスターはベラ宅の車道に乗り入れた。バーティが。「ユリシリーズ」を小脇に現れた。家中に本棚があり、床にも積み重ねられていた。彼は稀覯書、初版を集めていたが、今ではインターネットで骨董本売買を始めていた。
 バーティは、ベラは田舎の老女を装うのが得意だと言った。フェスティバルでは、メキシコから持ち込んだ「手作り」民芸品を、町から来た観光客に売って大稼ぎしていると。彼らは無知で無学な老女から安く買った積りでいるが、実は反対だと。マウスは自宅の居間にもフェスティバルで買った民芸品があるとは言えなかった。
 スープとコーンブレッドの夕食をご馳走になった。会ったばかりのジョーの話を聞いた。ベラは、ジョー・ベーカーの最初の妻は蛇使いでもないのに蛇に噛まれ、次の妻は井戸に落ちて死んだと。誰もがジョーが殺したと思っている。彼にはドラッグや暴行など限りなく犯罪歴がある。スーザンとホールデンを殺したのもジョーだろうと。ジョーは、リーダーのポストを欲しがっていた。だが、ホールデンはスーザンにポストを渡した。二人が死んで好都合なのはジョーだと。

 雑談が始まり、ベラは金が手に入ったのでバーティを大学にやれたと言う。当時の夫ジェイクは鉱山で働いていたが原因不明の事故で死んだ。40年前で、当時17人が犠牲になった。補償金を学資にした。事故の後、数人の男と一緒になったが金目当てなので、みんな追い出した。シスターは、「いくら貰った?」と聞いた。ベラは怒りもせず答えた。だが、同じ事故に遭って不具になったユージーン・マホールは会社から得た金で綿畑を買ったり、立派な家を建てたりした。バーティは「賢く投資したんだろう」と言ったが、ベラは鉱山会社を強請り続けていたと信じていた。バーティは、ユージーンは違法な金貸しで荒稼ぎした教えてくれた。彼のマフィアだという噂は商売の助けになったと。マフィアに金を返さない者はいない。今では町の銀行を持っていて、合法的にテリーと共同で経営している。カントリーシンガーのローエレンはユージーンの屋敷に魅かれて結婚したが、すぐに逃げたと笑った。マウスは知らない歌手だった。
 ベラは、ユージーンは25才年下の若い女と結婚したものの、自殺未遂を重ねるローエレンを工事現場に埋めたと噂されているという。彼女は行方不明のままである。バーティは、ブーガーが連れ去ったのかもと言った。

 バーミンガムに戻って、愛犬ウーファーに散歩を約束し、ワルシャワに行っている間、娘ヘイリーから預かっている猫マフィンを撫ぜてやった。習慣となっているヘイリーのメイルをチェックした。夫フィリップとローマで法王に会うと興奮している。留守電が3本入っていた。最初の二つはセールス。三つ目は、バージニアが「電話して」と言い残していた。
 電話すると、バージニアはナッシュビルのホリディ・インにいた。「殺人犯で捕まりそう、助けて」と。「クロフォードもスーザンも殺していないんでしょ」と言うと、「当然でしょ。そうじゃないの、目の前で男が倒れているの」と言う。
 男はスペンサー・ゴードンだと。警察に電話するように言ったら電話は切れた。慌てて電話をしまくり、一番冷静なディビーが現地との対応を引き受けてくれた。やっと、リチャードが出たのでナッシュビルでバージニアが男を殺したと言っていると伝えた。ルークには言えない。

 シスターから電話があり、男は病院に運ばれたという。持病で倒れたようだと。ホールデンは、バージニアをこの男スペンサー・ゴードンに引き合わせるためにナッシュビルに連れて行ったようだという。

 翌朝、裏ドアがノックされ、黒人パトロール警官のボー・ミッチェルが来た。以前の事件で親しくなってから、彼女はコーヒーを飲みたくなれば寄ってくれる。シフトが終わって、ワルシャワ旅行の話を聞きに来たのだった。ヴァージニアの事件を話し、ディビーが出産したことも話した。ボーは、心配し、喜んでくれた。彼女は勇敢なだけでなく心優しい聞き上手でもある。
 無残に殺されたスーザンは身なりが整えられて残されていたと気になっていた事を話した。ボーは、アルツハイマーの妻を殺した夫が、死体を綺麗にしていた体験談を話し、殺人者または死体を残した者はスーザンを愛していたのかもと言った。

 ボーが出て行き、ウーファーを散歩に連れ出した。戻ってシャワーを浴びていると、シスターがキッチンに座っていた。リチャードから今朝、バージニアは元気だったと電話があったと言う。殺人犯でないと分かって、ルークと別れると息巻いていると。

 シスターの屋敷のサンルームにはバーギルが来ていた。リチャードはバージニアを連れ帰った。非公式な尋問だが彼女は無造作だった。バージニアは話し始めた。インターネットでスペンサー・ゴードンと知り合い、ダンス好きが共通なのでチャットは盛り上がっていった。タンゴを踊ればパートナーの肩より上まで足を上げることが出来ると。誰も知らなかった。
 ナッシュヴィルのシニア・ダンス大会にスペンサーから誘われた。彼も、伴侶から理解されていなかった。ペンキ仕事で来ていたホールデンは聞き上手のいい人だった。相談すると、助けてくれるという。抑圧されて暮らすのは人間の本来の姿ではないと。だが、スペンサーをよく知っているわけではない。彼は弟だと称して付き添ってくれることになった。安心して彼と会うことが出来た。
 ダンスの打ち合わせをしている時、TVでホールデンが殺されたというニュースが流れた。スペンサーはたじろぎ、持病を発して倒れた。蛇使いの姉?

 教会でスーザンや孫たち、義弟に会った事は話したが、役に立ちそうな話はなかった。ホールデンもスーザンも孫たちも良い人たちだったと言うばかり。彼女は、本心から二人の死を悼んでいた。居たたまれず、ルークとリチャードはいなくなっていた。
 翌日、保安官事務所で調書を取ることになった。二人は、バージニアを連れて行くと申し出た。バーギルに首ったけなシスターは、彼に会う機会は逃さない。マウスはベッティ―に鍵を返す用事もある。それなら、ベッティ―に渡してくれとバーギルはカメオをマウスに渡した。

 翌朝は、曇りだが冷え込んでいた。ベッティ―に電話して都合を聞いた。彼女は整理に行きたいからと、教会で落ち合うことになった。鍵を返すと言ったがカメオの話はしなかった。スプライズで喜んで欲しかった。
 保安官事務所の分署のあるアシュヴィルでバージニアを降ろし、教会に向かった。シスターも一緒だ。タンゴに夢中なバージニアに気が狂いそうになって逃げ回っている。昨夜も今朝も屋敷中響き渡る大音量で、ティファニーを相手にタンゴを踊っていたという。

 教会裏の住宅にベッティ―は来ていた。子供たちはベラに預けていると、カメオを渡すと、彼女は逆上してバスルームに駆け込んだ。バーティがジャガーを見かけたと寄った。ベッティには後で会うからとすぐに帰っていった。
 ベッティ―は大丈夫だと言うので帰る事にし、ジャガーに乗り込んで走り始めた。後ろでガラガラと不審な音がする。振り返ると蛇がいてマウスは悲鳴をあげた。手凭れにはシスターの手。シスターはパッカード家の門前郵便箱に衝突し、エアバッグが開いた。蛇はシスターの手を噛んでいた。

 この前と同じ救急車、同じ二人の若い女性がシスターを病院に運んだ。気付いたバーティが電話したのだった。マウスは、疑うタミーに蛇使いではないと釈明した。シスターの手は腫れあがりスチロフォームで保護されている。シスターは目まいがする、吐き気がする、車を壊したと喚き続けている。マウスのせいだと。意味不明だが過去の習慣で謝り続けた。
 蛇を車内に放った者は姉妹を追い払おうとしている。姉妹は犯人に迫っている。問題はマウスには犯人の見当もついていない事。あやしげな者たちがいるばかり。

 病院にいる姉妹をバーギルが見舞った。フレッドも来た、手当てを受けて自宅に戻ることが出来た。
 翌朝、シスターが来た。アスピリンはいらなくなったと言っている。リチャードはワシントンに、頭痛の種だったルークとバージニアはコロンバスに戻ったからだ。上機嫌で、買い物に行こうという。

 初巻の事件で知り合った気の合うボニー・ブルーの店に行った。彼女はシスター並みの大女で数少ないシスターに張り合える女性である。黒人で父親は有名な民族芸術家。ファッションショップ”ビッグ・ボールド”のマネージャーで、姉妹のファッションアドバイザーでもある。二人の傷ついた姿に驚くボニーに、事件の話をした。
 ユージーンの行方不明になった妻ローエレンはバーミンガムに住んでおり、店の客だと言い出した。ボニーは電話してくれた。ローエレンは、姉妹になんでも話すと言ってくれた。悪口ならいくらでも言えると。事件の裏に見え隠れする不吉な男の正体がわかりそうだ。

 帰宅し、曇り空なので、ウーファーを散歩に連れ出そうかと迷っているとバーティの車が入ってきた。彼は大学に戻る途中で、母ベラに頼まれたと自慢のスープを持って来たのだ。コーヒーを飲み、英語の教師同士らしい雑談もし、トイレに行き帰った。
 バーティはローエレンがバーミンガムに住んでいると知っていた。ブーガーと同じで、田舎ではみんな知っていても、面白い噂にするのだと。テリーはスーザンに執着していたが、エサンと結婚したので姉のベッティーと一緒になった。エサンが死に、テリーは離婚しようとしていたと聞かせてくれた。ベッティーには子供がいなかったので追い詰められ、ベラに相談に来ていたと。ベッティ―にも動機がある? だが、義父のクロフォードを殺す必要はないだろう。彼に気付かれた?
 わからない。バーティに「犯人は?」と聞くと、「ブーガー」と答えた。

 ローエレンから電話があった。結婚後、彼女は不妊症だと知ってユージーンは興味をなくし、自分は飲んだくれなので家を出たのだと言う。彼が望んだのは、子供をつくりマホール王朝を築く事だったと。不機嫌な彼がスーザンの子たちを可愛がり、テリーの養子にするのを歓迎しているのも理解できた。家から連れ出してくれたのは、ペンキ屋ホールデンだったという。

 翌朝、シスターが寄り、一緒にディビーと赤ん坊に会いに行った。戻って、シスターはトイレに行き財布を持って出てきた。床に落ちていたと。ゲスト用トイレに前に行ったのはバーティだけである。
 免許証が入っており、46才だった。鬚面の見かけより、はるかに若い。シスターは1束の写真を取り出した。スーザンの写真ばかり。1枚には「ブーガーへ スーザンより」と書かれていた。スーザンを殺したのはブーガーで、バーティはブーガーだった。マウスは殺人犯を直感し、震えた。財布には高価な指輪の領収書も入っていた。

 ドアベルが鳴った。マウスは、バーティだと直感し、シスターに財布を元に戻してトイレに置くように言った。案の定、バーティで、トイレに財布を落としたかも知れないので調べさせてくれと言った。彼は財布を拾って、キッチンに戻って来た。
 シスターはキッチンで新聞を読んでいた。バーティを見て、片付けようとした新聞の間から領収書が落ちて叫び声を挙げた。バーティは指輪の領収書だと気付いた。姉妹は財布を見ていたのだと。ポケットから拳銃を取り出し、姉妹に、「ベラに会いにいかなければならなくなった」と言った。姉妹は白昼、公然と誘拐された。シスターは後席に押し込まれ、マウスが命じられてガムテープで手足を縛った。マウスは助手席に座らされた。シスターは文句ばかり。丘の上のバッカス像が見えるとか、20番通りだから降ろしてだとか。
 マウスはバーティに話させた。バーティはスーザンに婚約指輪を持ってプロポーズした。笑われ、逆上した。気付いたらスーザンは倒れていた。ママに電話した。彼女が来たのでスーザンを長椅子に横たえた。入り口に男の声がしたので隠れた。ママが男を殴り、彼は気絶した。二人は教会の裏ドアから逃げ出した。
 バーティの目に涙が溢れてきた。バーティにはホールデンを殺す理由はない。殺したのはジョーだ。
 シスターは周りの観光客でもないのに、周りの景色を語りながらはしゃいでいる。なんという無邪気な女。

 アシュヴィルでハイウェイを出たところでパトカーがロードブロックをしていた。携帯電話を持ったバーギルがいた。シスターは携帯電話で車の場所を話し続けていたのだった。バーティは誘拐の現行犯で逮捕された。

 やはり、自慢の姉だ。