地獄への道は善意で舗装されている
〜ヨーロッパのことわざ
昨年の初夏だったと思う。とあるSNSのフォロワーの方から、丁寧な文章でこんな主旨のDMをいただいた。
テーマを絞ったアンソロジー(短編集)を企画している。
Amazonで書籍として来春に販売する予定である。
御作品を読ませていただき感動した。
是非ともそのアンソロジーに参加いただきたい。
原稿料などの報酬は出せないが、作家様の費用負担も発生しない。
書籍化は貴島様にとっても意味があることだと思う。
今後の作家活動にもプラスになる。
是非、ご参加を。
そのDMには、参考として、過去に行った同様のアンソロジーのAmazonへのリンクがあった(と記憶している)。電子と紙本での販売で、ちゃんとISBNコードがあった。つまり自費出版ではない。
ならばと私は「喜んで参加させていただく」旨の返信を送った。参加を決めた理由は、私の作品(官能ものじゃない)を読んだうえで打診いただいたからだ。それが嬉しかった。自分の作品が書籍化されるのは、無論、嬉しい。しかし企画したその方(編集長様)には申し訳ないけれど、世間的には無名の作家たちによるアンソロジーなんてどうせ売れやしない。作品を多くの人に読んでもらうならweb上で公開した方が良い。それらを承知で、書き下ろしの作品を無償で寄稿したのは純粋な好意からである。
アンソロジーの販売日までは、スムーズに何のトラブルもストレスも無く、スケジュールどおりに進んでいった。そう。販売日までは。
販売日が迫ってきたある日以降、編集長様からこんなDMが頻繁に来るようになった。
・アンソロジーを買って(予約して)欲しい。強制ではないが、できれば。
・買った(予約した)ら、それをご自身のSNSで宣伝して欲しい。その際はアンソロジーとできればご本人が一緒に写った写真を添えて欲しい。
・周囲のお知り合いにも宣伝して欲しい。
・宣伝媒体はSNSやYouTubeなどで広くお願いしたい。
・販売日以降、Amazonにてレビューを書いて欲しい。強制ではないが、できれば。
・宣伝にご協力いただく理由は、出版には多大な費用がかかっており、アンソロジーが売れないと回収できないから。
過去に書籍化した時には、出版社様から完成した本を頂戴した。自分で買ったことなど一度もない。違和感を覚えながらも、そこはまあ、ISBNコードがあっても自費出版に限りなく近いのだろうと好意的に解釈し、自分が無償で寄稿したそのアンソロジーをお金を出して購入した。
しかし、細かな注文が添えられた、度重なる宣伝の要請には辟易した。私の責任は、書き下ろしの作品を寄稿した時点で果たしたつもりだ。
言い方は悪いが、アンソロジーの販売実績については企画側の責任であり、本がどれほど売れようとも私には印税が入るのでも報酬が支払われるわけでもない。もうすでに私の手を離れている。だから宣伝はあまり積極的にやらなかった。
アンソロジーの販売から十日ほど経った頃、YouTubeチャンネルで小説の朗読動画を公開している方から、そのアンソロジーに載った私の作品を朗読動画にしたいという打診をいただいた。私はオッケーだが作品の著作権は企画者側にも半分ある。しかしYouTubeでも宣伝をして欲しいと要請されたのを思い出し、編集長様へ、ダメ元で聞いてみたところ、こんな返事をいただいた。
・あなたの作品全編の朗読動画はダメ。
・もしも全編の朗読動画を公開したら販売に影響が出るのは明白であり、損害を被った際には顧問弁護士を通じて法的措置を取らせていただく。
私は編集長様へ「こんな打診をされたけれどいかがでしょう?」と聞いてみただけ。それなのに、いきなり、一方的で高圧的なことを告げられたので驚いてしまった。
…法的措置だなんて。そもそもYouTubeでも宣伝してねって言ったのはあなたじゃないか。
驚いたあとは腹が立ってきた。好意の結果がこのような仕打ちとは…。
結論 ただほど高いものは無い。
人の好意を無駄にする奴はろくな死に方をしないぞ
〜アムロ・レイ