映画「アイム・ユア・マン 〜恋人はアンドロイド〜」(2021年) | 明日もシアター日和

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今週末に観る予定だった歌舞伎公演「いぶき、」と、東京シティ・バレエ「トリプル・ビル」が相次いで中止になり、虚無空間に陥っています😑😑😑

 

監督・脚本 マリア・シュラーダー

マレン・エッゲルト/ダン・スティーヴンス

 

 ドイツ映画です。ドイツではかなり高く評価されたようで、ベルリン国際映画祭でマレン・エッゲルトが主演俳優賞を受賞、監督はコンペティション観客賞と金熊賞にノミネート。またドイツ映画賞では、女優賞、監督賞、フィクション映画賞、脚本賞を受賞、ダン・スティーヴンス(「ダウントン・アビー」のマシューね)は男優賞にノミネートされた。

 さらに、2022年度アカデミー賞国際長編映画賞の最終候補リストに選ばれている。ここから想像できるように、これは軽いタッチのラブコメディーではなーい👍  テーマは割と哲学的で、AIロボット社会に一石を投ずるようなメッセージ性のある作品でした。

 

 ネタバレあらすじ→現代のベルリン。博物館で楔形文字の研究をしている40代前半?の考古学者アルマ(マレン・エッゲルト)は、出張研究費をもらえるという条件に惹かれ、ある企業の実験プロジェクトに協力する。それは、AI(人工知能)を搭載した人型ロボットと3週間生活を共にし、ロボットを評価すること。その結果によりロボットに何らかの人権を与えることが可能かどうか決めるのがプロジェクトの目的。被験者がロボットを気に入れば引き取ってもいいらしい。

 トムと名付けられたそのロボット(ダン・スティーヴンス)は、ドイツ人女性のデータとアルマ自身のマインドファイルをインプットされ彼女の性格とニーズを把握して、アルマに完璧に対応するようにプログラムされている。トムの目的はただひとつ「アルマを幸せにすること!」。恋人と別れたばかりのアルマは、もはや恋愛や結婚は望んでおらず、だから伴侶候補としてではなく、あくまでもテストの対象としてトムと生活する。

 最初アルマは、トムのぎこちない礼儀正しさ、正確な返答、大げさな気遣いなど、完璧すぎる彼にイラつくが、トムはその都度アルマの欲求を分析・学習して適応するので不自然さは薄れていく。アルマの気持ちは揺れるものの、最終的には、パートナーとしてのロボットに限界と疑問を覚え、契約を終わりにする。トムはアルマの家を出るが、自分を作った企業には戻らなかった。アルマは何故か喪失感を覚え、初恋の思い出の場所に行くと、そこには彼女を待つトムがいた……。終わり。

 

 う〜む、どのようにも解釈できるエンディングだったなー。もう少し詳しく触れると、アルマは少女の頃の、叶わなかった初恋の相手と出会った場所でトムと再会するんだけど、映画は、目を閉じてトムの隣に寝転ぶアルマの横顔のカットで終わり、その画面にトムは映っていません。アルマが目を開けたとき果たしてトムは彼女の隣にいるのだろうか🤔

 私は最初、そのトムはアルマの願望が生み出した幻影だと思いました。でも、もっと希望が持てるエンディングだとすれば、トムは実際にそこでアルマを待っていた、彼女の初恋の場所を2人の第2の出会いの場にすることで、アルマの初恋の続きを紡ぎ直そうと思って……とも取れるね。アルマはきっとここに来るとトムは分かっていただろうし。

 

 想像しうる最大の悲しみは「一人で死ぬこと」と、トムはアルマの心情を的確に代弁します。もう子供を産めないアルマは、世話をしてくれる人がいないまま、認知症を患う父のようにひとりで老いていくのを恐れている。これは、アルマは潜在的には生涯のパートナーを欲している、と暗に匂わせているのかな。

 でも、自分の望み通りに作られたロボットは憧れと欲望を満たし孤独を取り払ってくれるけど、それは人間にとって健全なこと? そういう社会は果たして理想的といえる? 何でも望み通りになってくれるロボットとの生活は本当に幸せ? もはや目新しいテーマではないけど、解答は永遠になさそう。アルマが悩むのも分かります。

 

 初対面のアルマの手をいきなり取り「なんて美しいんだ💓」「君の湖のような瞳に引き込まれそうだ💖」とささやき、ドイツ人女性の93%が好むことだと言ってバスルームにバラの花びらを散らしシャンパンとイチゴを用意して「プリティ・ウーマン」を演出し、アルマにドン引きされるトムが健気😅  でもシミュレーションを通してアルマの感情のメカニズムを学習し、トムは彼女を理解していくんですよね。人がドジって転んじゃうことの面白さが分からずYouTubeでその手の映像集を見て学習するし、草っ原を素足で走って「自然」を体に感じようとするし、そんなトムが結構いじらしい😢

 ダン・スティーヴンスの、完璧なイケメンだけど体臭を感じさせない無機質な表情(笑顔は見せるけど)がツボでした。なぜロボット役をイギリス人俳優に?と思ったら、アルマは「エキゾティックな人が好みで、でもあまり遠くない国がいい」という設定にしたからで、だからトムはイギリス訛りのドイツ語をしゃべる。ダン自身はケンブリッジ大学で英文学を学んだ秀才だとは知っていたけど、ドイツ語ペラッペラでびっくりしました。

 

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