357話 事後処理15
357話 事後処理15
ルークの説明に考え込むティナ。確かに時間は無いが、だからと言って考えなしに行動すれば良いものでもない。
一方のルークもまた、ティナの思考を妨げるような真似はしない。下手に煽るような発言は、ティナを怒らせるだけだと知っているからだ。しかも、出来れば一刻も早くティナには立ち去って欲しいが、迂闊な事を言えば勘繰られる可能性がある。ポーカーフェイスで静観するのが最善なのだ。
しかも、幾らティナを信頼していようと心配が無い訳でもない。さっさと行って欲しいが、出来れば行って欲しくないというジレンマ。複雑な心境なだけに、表に出せない気持ちが大きかった。
1分程の静寂を破り、ティナが口を開く。だがそれは行く、行かないの2択ではなかった。
「ルークは・・・どうするのが正解だと思いますか?」
「どっち、じゃなくて、どうする?」
「はい。先程の、弱いゴブリンと強いゴブリンが混じっていた場合の対処です」
「あぁ、それか。オレの場合、可能なら大規模な魔法で一掃する。どうしても無理なら・・・遠距離と近距離を交互に、かな」
可能なら。立地如何では、派手な魔法が使えない状況もあるだろう。その場合、普通に考えると魔法で牽制しながらの近接戦闘だろう。他にも手段はあるのかもしれないが、そんなのはその時になってみないとわからない。
「では、お母さん達の場合はどうです?」
「う〜ん、そうだな・・・魔法を使える者が雑魚を一掃、残った強敵は他のみんなが対処するしかないんじゃないかな?魔の森側に人員を割く必要は無いけど、それでも都市の半分をカバーしなくちゃならない。範囲的に見て20人やそこらじゃチーム分けも無理だろうから、数人ずつ順番に休むしかないと思う。長引けば疲労から脱落者も出るだろうから、敵を掻き回して勢いを止める存在は重要だろうな」
「それが私、ですか・・・」
ティナの問いに頷くルーク。充分過ぎる程理解しているティナに対し、それ以上説明する必要は無い。
彼女は基本、狩場を縦横無尽に駆け回り、ほぼ一撃で魔物を仕留める。手負いの獣や魔物は危険だが、一撃で仲間が殺られれば警戒もする。勢い良く押し寄せる魔物の足も止まると言うものだ。おまけに危機的状況に陥れば魔法も使うだろうから、ルークの代わりは充分に務まるはず。
仮にそれがカレンならば、強力な一撃による牽制も行える。だが現時点のティナに、そのような真似は出来ない。神族となった事でこれまでよりも強い力を手に入れたが、確立された戦闘スタイルを崩すというのは簡単な事ではなかった。
連携が得意とは言えないティナ。誰かを庇えば負担は増す。それが1人や2人ではないのだから、時間が経てば経つ程のしかかって来るだろう。だがそれを踏まえても、ティナが居るのと居ないのでは天地程の差があるのも事実。
「・・・村のみんなは、ほとんどが獣人。例えどれ程魔物が弱くとも、数が多ければ体力は削られますね。しかも今回は防衛戦。魔法を使えるのはエルフ族のお母さん、ララファールカ、エルヴィーラ、マルトノーラ、トルトレロッソ、それとフィーナさん。ですが・・・」
「回復役は必要だから、母さんとフィーナ以外は攻撃に魔力を回せないだろうな」
大群を相手にする場合、魔法による範囲攻撃は不可欠。それを考慮すると、強力な攻撃魔法を放てるエレナとフィーナだけでも攻撃に回さねばならない。
「回復役が4人では全員をカバー出来ないでしょうから、私も入れて回復役が5人」
「どの程度回復役に回るかはティナ次第だけど、緊急回避用に転移を温存しないといけない。さらに言えば、身体強化するのにも魔力は必要だ。幾ら神力の効率が良いと言っても、今の内に配分を考えておく必要がある」
「あ・・・私自身の持つ力では数回しか転移出来ませんから、半分を身体強化。もう半分を回復と転移に回すと考えると、攻撃魔法に回せる余裕は・・・」
そう、神力を手に入れたティナではあるが、神族として見ればまだ0歳。力の保有量だけを見るなら、産まれたての赤子同然である。しかも今回の場合、ルークの加護には期待出来ない。加護は与える側の余った神力を分け与える物であって、ルークが消費するような状況では供給がストップする。つまり今現在分け与えられた、蓄えた力でやりくりしなくてはならないのだ。
嫁1人1人に対し、個別に自動設定された配分量。ティナに関して言えば、ティナ換算で約1人分。これは相当なチートと言えるのだが、今回のような場合は心許ない。エリド村の者達全員なら圧倒出来るが、魔物の大群相手の持久戦となれば別。身体強化の上昇率は2倍なのだが、言い換えればティナが2人増えたのと同じ。要はエリド村の住人が21人から22人になっただけの事。
因みにだが、もしも加護を与えられたのがティナ1人であれば、無双してあっさり解決していた事だろう。つくづく人生とはままならないものである。