359話 学園都市防衛戦1
359話 学園都市防衛戦1
ティナが三振りの刀を仕舞って頷いたのを確認し、ルークはティナを連れて学園都市の防壁上へ転移する。
「・・・ルークの言っていた通りの状況ですね」
「いや、もっと悪いかもしれない。あそこを見てみろ」
「あれはっ!?」
ルークが指差す方向へと視線を向けたティナが目を見開く。そこには地面に横たわるドワーフとウサギの獣人らしき者と、それを守るようにして取り囲むエルフ達の姿があった。
「おそらく、ランドルフさんとターニャだろうな。敏捷性に劣るランドルフさんを、俊敏なターニャが庇った。その治療に慌てて駆け付けたのはいいが、敵が邪魔で身動きが取れなくなったってところかな?」
「何を呑気に分析しているのです!?早く助けに行かないと!!」
「おっと!気持ちはわかるけど、今行くのはマズイ」
救援に向かおうとするティナの腕を掴み、引き止めたルーク。だがその視線はティナではなく、上空へと向けられていた。
「何を・・・グリフォン!?」
「みたいだな。でも、幾ら数が多いからって、あれは警戒し過ぎなんじゃないか?」
ルークの認識では、グリフォンはそこまで強敵でもない。確かに厄介ではあるが、些か大袈裟に見えたのだ。そんなルークの間違った認識を改めるべくティナが説明する。下手に動けばみんなの気が逸れる。そうなれば被害が増すのだから、今は口を動かす事しか出来ないのだ。尤も、誰かが即死しそうな状況になれば、ルークもティナも迷わず動くのだが。
「そう言えば、ルークは村周辺のグリフォンしか知らないのですね」
「どういう意味だ?」
「エリド村周辺のグリフォンは発見次第定期的に討伐している為、若い個体しかいません。その為、高く見積もっても精々が群れでBランクなんです。一方で、他の地域のグリフォンは老齢で群れの規模も大きく、並の冒険者では手が出せません。ですから高ランクなんです」
「・・・すると、あれは高ランクのグリフォンの群れって事か?高ランクって?」
「単体でAからSランクです。しかもあれ程の群れとなると・・・」
「なるほど。しかも他の魔物を相手しなきゃいけないのに、グリフォンの大群がその上を飛び回ってるのか。これは・・・ピンチだな」
「何を呑気な事を言っているのですか!」
「いや、そうは言ってもさ・・・」
他に表現のしようもなかったのだから、叱られても言い返しようがない。黙っていれば良かったものを、一言余計だったのである。とは言うものの、ルークの感想が間違っているわけでもなく。
「確かに、この状況で私が向かっても解決しませんね」
「ミイラ取りがミイラになるだけだな。が、手をこまねいてもいられない訳だ」
「何とかなりませんか?」
「う〜ん、みんながオレ達に自然に気付くか、やり過ぎに目を瞑って貰って禁呪で一掃するか・・・」
「今やり過ぎるのは良くありません」
「そうなんだよなぁ。こっちに向かってる魔物が他所へ向かっちゃうだろうから、余計な被害が増える。けど、このままじゃそうも言ってられないだろうし・・・」
ルークが一掃するとなれば、自然に対する被害が甚大ではない。一面を焼き尽くすか、氷漬けにするかなのだ。どちらにせよ、待っているのは動植物が死滅した広大な荒れ地である。おまけに、禁呪の直撃を免れた魔物達が一斉に逃げ出す。それも四方八方へ散り散りに移動するのだから、今後何処へ向かうのか予測するのは困難となるだろう。
「飛んで1体ずつ始末してしまえば・・・」
「突然空から魔物の死体が降って来たら、みんなの邪魔になるだろ?それに殲滅する前に逃げられると思う」
「では、魔法で1体ずつ吹き飛ばせば・・・」
「狙撃って言わなかったのは流石だけど、吹き飛ばすだけじゃ戻って来るでしょ?」
「・・・・・」
高ランクの魔物は賢い。自分達が不利だと悟れば、まず間違いなく逃走するだろう。そして確実に報復する。それが何ヶ月も先の事であれば、それまでの間にルークやカレンが討伐すれば良い。だがそれが数時間後であったら。結局は元通り、どころか戦況はさらに悪化する恐れがある。
つまり斬撃だろうと魔法だろうと、今に限っては討ち漏らしが許されないのだ。これがスタンピード本番となれば別である。押し寄せる魔物の勢いに押され、如何に高ランクのグリフォンだろうと逃げるに逃げられなくなるはず。時間を稼げば良いのだが、それはスタンピード本番を無事に乗り切れる程の強者に限っての話。ナディア達がそんな事をすれば、命を落としかねない危険な賭けとなる。
「戻って来る・・・待てよ?戻って来れない場所に落とせばいいのか!」
「そんな場所が何処に・・・」
「すぐそこにあるじゃないか!魔の森だよ!!」
「あっ!」
どういう仕組みか知らないが、何故か入った魔物が出て来れない不思議な場所。そんな魔の森が目の前にある。仕留められなくとも吹き飛ばす、であれば威力を抑えた魔法でも不可能では無い。
それが後にどのような事態を引き起こすのか。当然ルークが知る由もなかった。