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Shining Rhapsody

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360話 学園都市防衛戦2

360話 学園都市防衛戦2

 

 

方針が決まり、あとは行動に移すのみ。だがそう単純な話でもない。

 

「この位置だと魔の森には落とせないな・・・」

「そうですね。背後・・・いえ、せめて左右どちらかへ回り込まなければ難しいかもしれません」

「いや、高さはどうにでもなるけど、正面の敵をオレの背後に撃ち落とすのは失敗する可能性がなぁ・・・」

 

ルークが自信なさげなのも無理はない。これがドラゴンやワイバーンといった、大型の魔物であれば心配は要らない。防御力は高いだろうが、今回に限っては吹き飛ばすだけで良いのだから。だがグリフォンが相手となればそうもいかない。当然それなりに大きくはあるのだが、流石にドラゴン程のサイズではない。

 

更に困った事に、グリフォンの飛行速度はその辺のワイバーンやドラゴンよりも速い。その上、群れ全体がエレナ達の隙を伺うよう、グルグルと上空を旋回している。これでは仮に反対側へ回り込もうと、何匹かにとっては真正面という事になる。ルークが言っているのはそういう意味だ。

 

「・・・みなさんの隙を作らずにグリフォンの注意を引きつける、というのが最善ですか?」

「まぁ、言うのは簡単だけど・・・出来そう?」

「少し考えさせてください」

 

ティナの言葉に頷くルーク。だが彼女の思考を妨げないよう気を使った、という訳ではない。実はルークも考えていたのだ。

 

(本当の最善はみんなに気付かれずにグリフォンを仕留める事なんだけど・・・ティナの手札じゃ難しいだろうな。それに、正直オレがその気になれば簡単に終わるんだが、それだと駄目だ。これを切り抜けられないようじゃ、向こうの大陸で生き残れない)

 

大した強さではない魔物の群れに混じる、強者と呼ぶべきゴブリンやコボルト。しかしルークが想像したのは、全く異なる魔物の姿。

 

(そういう意味じゃ、あのスタンピードは辛うじて首の皮一枚で繋がったとも言える。あのスライムの群れがこっちに来てたら、防壁もあっさり破られてただろうし。だが、こっちに来てない理由も気にはなるんだよな。こちら側に興味が無かったのならいい。でも、単純に移動速度が遅いだけだとしたら・・・後で確認しに行くべき――)

「ルーク、準備出来ました」

「ん?あぁ、わかっ・・・へぇ」

 

結論が出掛けた所で、ティナに思考を遮られる。てっきり考えが纏まったのだろうと思い込んだルークだったが、ティナに視線を移して思わず感嘆の声を上げる。何故なら、ティナの手には弓矢が握られていたのだ。

 

10年ぶり位に見たような気がするけど、自信の程は?」

「昔程の精度はありませんけど、今回は命中させるのが目的ではありませんから」

「まぁ、下手にみんなの真上で仕留めると落ちて来るからね。でも、オレが言ってるのは威力と手数について。単発だと気付いた個体に風魔法で防がれて、群れ全体の注意を引けない。そして距離が離れている上、向こうが居るのは上空だ。かなりの威力が必要になるぞ?」

 

ルークが心配しているのは今回、魔力や神力による身体強化を使ってはならないから。使えばエレナ達の注意がこちらへ向いてしまう。グリフォンの注意も向くかもしれないが、それでは当然駄目だ。

 

「身体強化無しで全力の連射は流石に腕に負担が掛かりますが、出来ないと言う訳にもいきませんから」

「そうか。まぁ、駄目な時はフォローするよ」

「ありがとうございます。ですが・・・ルークの方はどうするのです?」

「オレ?あ〜、大丈夫大丈夫。みんなに察知されない距離から石をぶつけるだけだし。じゃあ、早速行って来るから、ティナの好きなタイミングで射っていいよ」

「・・・は?」

 

何を言っているのかティナが理解出来ないうちに、忽然とルークの姿が消える。間抜けな声を上げてしまうのも無理はない。恐らく、ティナが無理をして矢を射ても5発が限度。それも狙いを付けずに、である。だがあろうことかルークは、石をぶつけると言う。旋回しているグリフォンの数は少なく見積もっても30以上。そんな真似が出来るなら、果たしてティナが矢を射る意味はあるのだろうか。そんな事を思ったのだ。

 

しかし、ティナの矢に意識を向けるからこそ、グリフォンの動きが単調になる。或いは一瞬止まるかもしれない。そう思い直した。思う事にしたのだった。

 

「・・・ふぅ」

 

下向きに矢をつがえ、目を閉じて息を吐く。弓矢の訓練は最低限しているが、身体強化無しで矢を射るなど百数十年ぶり。しかも今回は連射というほぼ曲芸。練習する時間も無いため、集中してイメージを固める必要がある。おまけに筋肉の負担を考えると、弦を引き絞った状態で準備する事すら許されないのだ。その緊張感たるや、普段のティナからは想像出来ない。

 

 

かつてない程真剣な表情のティナだったが、伊達に修羅場を潜り抜けていない。僅か数秒の沈黙の後、カッと目を見開き目にも止まらぬ早さで何度も矢を放つのだった。