そもそも、工務店ジャンパーと嘲ったその口さがない友人は、私の父親が町の小さな工務店経営だと知っていてわざとそう馬鹿にしたのである。単なるお笑いのボケではなく、チクリとトゲが刺さり、そこにはいささかの毒が含まれている。
「豆腐屋のオッサンやんけ!」
と言われてたら
「あいよ、厚揚げ一丁お待ちぃ!」
などと返したかもしれない。
自分はそのジャンパーを着なくなった。その後も見るたびに、何だかもモヤとしてドス黒く苦々しいものが胸に広がる。やがてジャンパーは押入れの奥に眠ったままになった。
それが今回発掘されたものである。
ちょっとダークな記憶はあるが、ジャンパーには何ら罪はない。あるとすれば、その場の笑いをとる為に友達を平気で馬鹿にする人間の方だ、ということを今では分かっている。捨てるべきはどちらか、自明であろう。
別にブランドものを崇拝する趣味はないが、自分はコイツをもう一度着ることにした。
今では自分も工務店のオッサンである、もはやなんと言われようが気にする事はない。むしろ工務店のオッサンが着ている一見作業服っぽいジャンパーが、その実はバーバリー製で、さらに何十年も前にロンドンの本店で自ら買い求めたモノである、という方がよほどイワクが付いていておもしろい。
生地はしっかりしていて傷みはない。
シンプルなハリントンジャケットスタイルで流行も廃りも無縁の定番デザインだから、今でもそんなに古く見えない。ファッション方面から見ればイマドキではなかろうしオヤジっぽかろう。軽佻な雀はピイチクパアチクさえずってればいい。断捨離の精神とは、何も服を捨てる所にだけ存する訳でもあるまい。