社会人になりたての頃
仕事が終わり一人時間を持て余していた週末の夜に
ふらりと立ち寄った渋谷のバーが人生初のバー体験となった
アナログレコードが流れる
オーセンティックなシガーバーだった
バーテンダーの登竜門としても有名なその店には
将来本格的なバーテンダーになることを真剣に志している
若手のバーテンダーが多く働いていた
年齢が近いこともあって
音楽の話題や
バーやお酒の話題から始まって
時には客とスタッフとの関係を超えるかのような
随分と個人的な話まで
彼らとの話題は尽きることがなく大いに弾んだものだった
渋谷でのライブ後の
バンドのささやかな打ち上げもここで開かれた
20代の
随分と多くの時間をこのバーで過ごした
自分にとって当時は敬遠しがちな音楽ジャンルであった
ジャズとの出会いもここでの出来事だった
それがきっかけとなって
その後とりわけマイルスディビスの作品群に大きな衝撃を受けた
モード奏法を確立した彼のサウンドには言わば着地という概念がない
そのことから彼の生み出した作品は
無重力の音楽とも呼ばれている
一切の無駄な音を排除したそのサウンドや
常に変化し理想を追い求めた人生は
今でも多くの音楽ファンやバンドマンから多大なるリスペクトを集め続けている
またこのバーで
他の様々なバーやクラブを紹介していただいたことがきっかけになって
学生時代には出会わなかった様々な音楽に触れる事にもなった
バーのマスターから教わった
渋谷の小箱と呼ばれるクラブでは
新旧の刺激的なアンダーグラウンドの音楽を耳にすることが出来た
思いがけず足を踏み入れたことから始まって
気が付けば様々な思い出を残すこととなったバーだった
当時の若手スタッフは
西麻布、札幌、銀座など各々別の道へと進み
いつからか自分自身も渋谷からは足が遠のくこととなったが
先日思わぬところで当時のバーテンダーと偶然の再会を果たした
今も変わらずにバーテンダーを続けている彼との再会には懐かしい気持ちになった
当時の渋谷での出会いと別れを
スクランブル交差点のイメージに重ね合わせて
後に”lines”という楽曲が生まれた
この曲はRed Colored Gunの大切な楽曲となっている