今月2021年2月中旬に日経平均の株価が1990年8月以来、30年6カ月ぶりに3万円台まで上昇したため「バブルが発生した」と言い出す人たちが出てきました。前回の記事で村上尚己さんの動画や記事で使われていた日米の株価のグラフを引用させていただきながら、バブル発生だというのはあまりに大袈裟だという話をしました。

いまはバブルなの? | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

アメリカで「ひどいインフレが起きる」は本当か | インフレが日本を救う | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)

 

日本の株価は3年前の2018年1月までぐんぐん伸びていたのですが、そこで頭打ちとなり以後コロナ禍をはさんだ今日まで足踏み状態だったのです。また最近やっとそのときの水準まで回復できたというに過ぎません。むしろ日本の株価の動きはアメリカに比べて遅れていたぐらいです。

高橋洋一さんのコラムで使われたグラフをみるとさらにわかりやすいです。

日本の株価は2009年以降から回復がはじまったアメリカから数年遅れ、2012年ごろから伸びます。それ以後は日米ともに足並みをそろえるように株価が上昇しています。

 

そもそも株価というものは経済活動の発展とともに上昇し続けるのが当たり前のことで、日本のように鍋底みたいなかたちで株価のグラフが推移するのは異常なことです。

 

それと株価というのはいまの企業の業績とか経済状況ではなく、将来の予想や期待によって動くものです。多くの人はコロナ禍で多くの企業が打撃を受けている現在の状況をみて「株価だけが高くなっていて実体経済と乖離している」などと勘違いした発言をしますが、株式投資家の目線は先を見ているのです。新型コロナワクチンの接種が進み、アメリカのバイデン新政権が大型の金融財政政策を打ち出す姿勢をみせていることを好感して買いに走っているのです。

 

もちろん中央銀行がETF(上場信託投資)やリスクの高い債券を積極的に買い入れすることで株価が高く維持されています。しかしこのオペの目的は株式投資家の利益を守ることよりも、企業が保有する株式などの資産価値が縮小してバランスシート(貸借対照表)の右側である資産側の方だけが縮小、負債側だけが高いままになって財務状況が悪化することを防止します。1990年代に民間企業のバランスシートが崩れて、債務超過になって経営破綻したり、原材料費や関連企業への支払い、研究開発、そして雇用といった投資を大幅に抑制せざるえない状況に陥っています。

(バランスシート不況)

 

おまけに日銀が株式を購入を増やしたといっても、昨年3月にETF購入枠を6兆円から12兆円へと拡大しただけです。購入枠は6兆円の増加です。株式市場全体の時価総額は700兆円もあり、その1%にも満たない額にすぎません。「大河の一滴」です。

 

私は「実体経済と乖離した株価の上昇」とかいっている人ほど、実はいまの企業が置かれている状況をわかっていないのではないかと思えてなりません。

 

コロナ禍という極めて理不尽な理由で巨額の負債を抱えなくてはならなくなった民間事業者・個人の債務負担を少しでも軽くするためには金融緩和政策が不可欠です。金利負担を軽くし、資金繰り悪化を防止しないといけないからです。

 

そんな中でおかしなコラム記事を目にしました。

原油高などによる思わぬ物価上昇に注意(久保田博幸) - 個人 - Yahoo!ニュース

 

 

奇妙な記述を抜き書きしておきます。

 今回も同様の事態になる可能性もある。これでやっと日銀にとって念願の物価目標が一時的に達成するかもしれない。しかし、これによって日銀が出口に向かうかといえば慎重姿勢を示すことが予想される。一時的と考えれば当然ではあるが。

 

 しかし、1990年台のバブル崩壊時のように1980年台の日銀の長すぎた緩和策がバブルを引き起こしたのではとの批判も出ていた。今回はいろいろとバブルが起きつつあるように思われる。それにブレーキが掛けられる体制作りが必要なのではないか。そのための日銀の3月の点検でもあってほしいのだが。

どうも久保田氏ですが、いまの状況を「バブルだ」と言っているだけではなく、原油価格の上昇による物価上昇で「日銀にとって念願の物価目標」が達成などと短絡的にとらえているようです。この方はリフレーション政策におけるインフレターゲットの意味が全然理解できていません。

 

2013年以降の日銀による異次元金融緩和において物価上昇率2%のインフレターゲットを導入した理由は単純に物価を上げることが目的ではありません。このことは元日銀副総裁であった岩田規久男氏らが以前よりしつこく説明し続けていることです。「2%の物価上昇が達成できなかったからリフレーション政策は失敗」などというのは半可通です。

 

なぜリフレーション政策で中央銀行が物価目標をコミットメントするのかというと、その目標達成まで金融緩和の手を緩めないという強い意志を銀行などから資金を借り入れる民間の経営者たちに示すことで、安心して大型投資や事業拡大を計ってもらうことが狙いです。マネタリーベースをじゃぶじゃぶにしておけば金利が上がりにくくなります。そういう状況を中央銀行が自らつくっておいて身を切る覚悟を市中に示します。

 

そしてやがて物価が上がるという予想は資金を投ずる企業経営者からみて実質金利を下げることになるという説明もしました。フィッシャー方程式です。

実質金利=名目金利-期待インフレ率

 

インフレターゲットの意味は実質金利を下げて民間企業にお金を積極的に遣わせることが目的です。資金調達や借入れコストの負担が軽くなった企業が事業を積極的に拡大すれば雇用も改善し、就労者への所得分配が加速します。所得が増えた就労者は積極的にモノやサービスを買い求めて消費活動が積極的になるでしょう。となってくると最終的に需要増加で物価も上がってくるというのがリフレーション政策の筋書きです。物価上昇といっても企業の投資・事業拡大や雇用回復、消費増大を伴わないものならばリフレーション政策の成功だとはいえません。原油価格上昇だとか不作などによる生鮮食料品などの価格上昇による物価上昇で、金融引き締めなどありえません。

 

元FRB議長のベン・バーナンキらは「体系的な金融政策と石油ショックの影響について」という論文にて「石油ショックは国内の消費者の購買力が産油国に移転することに他ならないから、景気を維持するためには、失われた購買力を何らかの手段で補填する必要があり、このような局面でさらに購買力を削減する金融引締めは逆効果」と述べていたようです。

バーナンキは短絡的に物価上昇が起きたら金融引き締めではなく、消費者の購買力の方を注視して判断すべきだということを言いたいのでしょうね。

 

もうひとつ変な記事です。

株価3万円でも景気に慎重 政策修正控える日銀の真意: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

 

こちらは株価の動きだけをみて金融政策の動向を騙ってしまっていますね。

 

金融政策の判断は民間企業がどれだけ積極的にお金を遣って事業を活発に進めているのか、そして雇用や就労者への所得分配と彼らの消費意欲が高まっているのかをみてすべきです。原油価格高騰による物価上昇とか株価だけをみて金融政策を引き締めるのか緩和するのかを判断するのは愚の骨頂にもほどがあります。

 

ほんとうに情けない日本の経済評論家とマスコミです。

 

 

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