最近日本でも物価上昇が懸念されるとか、円安がその進行を進めているという論調のマスコミ報道をよく耳にします。しかしそれは片面的であり狭視野的な見方でしかないという話をします。というか2022年1月現在の日本においてまだ極端なインフレは発生していません。1月21日現在の消費者物価指数は総合が+0.8%、生鮮食料品を除くコアCPIは+0.5%、コアコアCPIはは-0.7%(ただし携帯電話値下げによる引き下げ効果は1%ほど)であり、かなり低インフレです。
 

結論を先に言いますと、日本の場合は物価上昇の懸念があるといってもそれは円安要因だけではなく、原油や食糧品などの資源価格急騰によるところが大きいということです。。仮に円高に誘導できたとしても資源や輸入食糧品等の価格が高騰しているので、それでフォローできないと考えねばなりません。そして金融緩和政策を早く解除すれば物価上昇や円安進行を簡単に抑制できるというのは単純すぎる見方でしかないのです。何度も申し上げてきましたが、早すぎる金融緩和政策の打ち止めで雇用を悪化させたり、企業の倒産・廃業を進めてしまったら元も子もありません。「円安のせいで一般庶民の生活が苦しくなる」というのは消費者が同時に生産者や労働者でもあるということを忘れた人たちがいうことです。物価が下落してもそれ以上に所得が落ち込んだら生活はかなり苦しくなるでしょうし、失業という事態になったら不安が増大するでしょう。円安で輸入物資の価格が上昇したとしても、輸出増加や収益性の改善というメリットがそれを上回れば全体の国民益が向上します。

 

昨年末にまとめた「金融引き締めでコロナ禍後のインフレを抑制できるのか?」という記事においても、金融引き締めが原油や食糧品などの資源価格急騰と、生産供給側の回復遅れを起因とする物価上昇を抑え込めない可能性があると自分は予測しました。場合によっては物価がさほど下がらないのに、景気や雇用だけが悪化するような状況になりかねないとも述べています。これは日本においても同様というか、さらにまずい状況を招きかねないでしょう。金融引き締めは資源価格急騰や民間の生産・供給能力低下に起因するインフレには対処できません。世界的に発生しているインフレの要因に半導体などの生産能力が追いつかないこともあげられますが、金融引き締めをしたところでその生産が伸びるのでしょうか?そんなわけはありません。

アメリカの場合は緩和マネーが原油や食糧品などの市場に流れ込んで、その価格を押し上げていたという見方を否定できませんが、日本の場合は日銀の量的金融緩和で殖えたマネーが原油や食糧品市場の相場を動かすのだろうかという疑問があります。

 

とにかく世界的な高インフレ傾向は新型コロナウィルス感染の収束と、それによる生産供給力の回復や一時的に伸びるペントアップ需要の鎮静化、原油などの生産力増大がなければ収まらないと考えた方がいいです。とくに日本においてですが投資や消費の拡大を促す金融緩和政策や積極的財政政策はまだまだしっかりやらないといけない状況でしょう。消費者がインフレに耐えられるだけの所得分配の加速を進めるべきです。あるいは資源価格高騰などが一時的であるならば政府が減税や給付金の支給を行って家計支援するという考えもあります。

 

円安についてはこればかりに目を奪われてはいけないと申しましたが、今回はこれについても少し突っ込んでおきましょう。まず為替の相場というものがどのように決まるのかについて知っておかねばなりません。単純にいえば円がたくさん求める人や企業、投資家がいれば円高になるし、ドルの需要が高ければドル高になります。もちろんある両国の貨幣供給量の差も大事になってきます。多くの人たちが想像するようにアメリカのFRBが金融引き締めを行ってドルの供給量を減らしていくのに対し、日本がいまの緩和基調(といっても岸田政権に移ってから金融引き締めの可能性が高まっている)でマネーの供給量が増えたままだとドル高・円安になるということになります。ただし今回の話はそれだけがドル高・円安になっている要因であると断言しにくいですよということを申し上げたいと思っています。

 

為替相場の変動について参考になりそうなふたつの記事を見つけました。

ひとつは今とは逆に円高が懸念されていた2020年に飯田泰之さんが書かれていた記事です。リーマンショックや東日本大震災など日本にとって有事であるときになぜ円高が進んでしまうのかというメカニズムについて解説されています。

新型コロナの脅威で「安全資産としての円」が買われる理由 - wezzy|ウェジー (wezz-y.com)

 

飯田さんの解説によれば自国が経済的危機にさらされたときに、企業が自国通貨で支払っている社員の給与や借入金の返済に備えて(自国にとって)安全資産と思われている自国通貨をたくさん抱え込もうとするホームバイアスが働くそうです。

記事から引用させていただくと

日本円は世界の誰にとっても安全資産というわけではない。単純化すれば、日本円は日本企業・日本人にとってのみの安全資産である。

 典型的な日本企業は、主に、日本円で社員の給与を支払い、日本円で借り入れを返済し、日本円で税金を納めている。優先度が高い支払いに円が必要となることから、経済の先行きに不安が高まったとき「ひとまず支払いを滞らせることのないように円を保有しておく」という行動が選ばれる。

と述べられています。

 

最近起きたドル高・円安の動きについては、円が弱くなったというよりもドルの需要が急増して強くなりすぎたという見方をした方がいいのかも知れません。

 

もうひとつNHKがまとめた記事を読んでみましょう。

円安どこまで進む?裏には「ドル不足」【経済記者コラム】 | コラム 株・円相場 | NHKニュース

 

 

上の記事を読んで気がついたことは、ドルで取引される原油や食糧品等の価格が急騰して、その支払いに必要なドルが不足してしまっているということです。それがドル高・円安に結びついています。

 

他にもこんなツイートがありました。

 

 

ここ最近ですが円安が起きた原因について「日本の国力が低下したから円が弱くなった」という発言をする人たちが目立っています。しかしこれは的外れな指摘ではないかと思われます。原油や食糧品などの資源価格は金融政策や財政政策よりも外交や防衛を含めた経済安全保障で対応すべき事柄でしょう。自動車や電化製品などの生産に深く関わる半導体の生産供給が滞っている問題も経済安全保障の問題です。

 

そしてさらに円安を加速させている原因として岸田総理の発言の数々が、市場関係者の不信を買って資金が日本国内から逃げてしまっている可能性があると筆者は想像しています。岸田政権は就任直後から金融所得課税などの増税や国民負担増加をチラつかせ、日銀人事においても金融タカ派の人材を指名してしまうのではないかという憶測を呼んでいます。安倍・菅政権時代に勝ちとった経済政策の成果をぶち壊しにかかっているのが岸田政権です。大橋ひろこさんとたけぞうさんがこんなツイートをされていました。

 

 

 

いまの岸田政権の経済政策では成長期待がもてず、日本の企業に積極的に投資したいと思う投資家はいないでしょう。この政権になってから株の下落が続いています。円の需要が下がって当然です。

 

岸田政権の顔ぶれをみると、財務省官僚や旧い日銀理論に囚われた者が多く、「アメリカのFRBがインフレ抑制のために金融引き締めをはじめたから、日銀も異次元金融緩和を縮小すべきだ」と考えだしていることでしょう。こうした短絡的な思考でこの政権が金融引き締めを始めだすと、物価がさほど下がらないのに、企業倒産や廃業、雇用悪化だけが進む危険性が出てきます。もしかしたら金融引き締めをしているのに円安が止まらないなどといった怪現象を起こしても不思議ではないでしょう。(FRBの金融引き締めが強すぎてアメリカの景気を再悪化させ、再度の金融緩和を始めだすと円高になる可能性があるかも知れませんが)

 

とにかく景気や雇用を無視して金融引き締めばかりを急ぎたがる旧日銀理論に取り憑かれた人の言うことを信用してはなりません。資源・半導体などの供給不足問題やその価格高騰が高インフレや過剰なドル高を招いているとみていいでしょう。緻密な原因把握と慎重な判断が求められます。

 

関連記事

金融引き締めでコロナ禍後のインフレを抑制できるのか? | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

「新・暮らしの経済手帖」は国内外の経済情勢や政治の動きに関する論評を書いた「新・暮らしの経済」~時評編~も設置しています。

 

画像をクリックすると時評編ブログが開きます。

 

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

 

人気ブログランキングへ

 

バーチャルアイドル・友坂えるの紹介です