本当はもっと前に取り上げるべき事柄だったのですが、多くの人が気にしているであろうアメリカや欧州で発生した銀行破綻についてです。このことは2007年~2009年に発生したサブプライム住宅ローン金融危機の再来を懸念させてしまうのですが、今回破綻したシリコンバレーバンクやシルバーバンク、シグネチャーバンク、ファーストリバブリックバンクはいずれも地方銀行で、中央銀行FRBによる経営の健全性を審査するストレステストの対象外となっていました。厳しいストレステストの対象となっている大手主要銀行34社は規則で求められる水準のほぼ倍の資本を維持しており、かなり厳しい経済状況に置かれたとしても、経営の安定が保つことが可能だという判定結果が出ています。そういう意味でサブプライム住宅ローン金融危機のようにアメリカや世界全体を巻き込んむような深刻な金融危機・信用不安を招く危険性は高くないと思っておいていいのですが、SNSなどネットを通じて一気にある銀行の経営不安の噂が伝播してしまうといった恐れがあり、油断ができない状況であることも確かです。

 

今回アメリカなどで起きた(地方)銀行の破綻が連続して起きた原因ですが、いずれの銀行も保有していた資産の内容や運用の仕方が悪く、ここ数年間FRBが行ってきた極端な金融緩和(利下げ)と引き締め(利上げ)の動きに対処できなかったことにあります。

 

元大蔵→財務官僚で数量政策学者の高橋洋一さんが、シリコンバレーバンクが経営破綻した理由について解説されていますのでご参照ください。

737回シリコンバレー銀行破綻【中・上級編】 - YouTube

 

 

高橋洋一さんはバランスシート(貸借対照表)を通じた金融機関の資産管理責任=ALM(Asset Liability Management)についての本を書かれていたことがあったのですが、シリコンバレーバンクが破綻したのもALMのミスであると指摘されています。動画の内容を少し詳しく紹介させていただくと、まず多くの場合銀行は預金者から預かった預金(バランスシートの負債側)を企業や個人などへの貸出と有価証券の買い入れといった形で運用します。バランスシート左側の資産側になります。

短期金利でかき集めた預金を長期で貸し出して、その金利差で銀行は収益を得ます。リスクが含まれる長期債は金利が高くなります。しかし預金をすべて貸出に回してしまうと、預金者が一気に預金払い戻しを求めたときに応じられなくなる恐れがあるために、資産の一部を(短期の)有価証券という形にしておくのがセオリーです。そうしておけば今回のように短期金利がどんどん高騰しても、同じく短期の有価証券から得られる高い金利収入で資産側と負債側のバランスが保てます。ところがシリコンバレーバンクの場合、有価証券の運用を短期に切り替えず長期のものにしたままでした。通常だと長期運用の方が高い金利を得られるのですが、FRBは新型コロナウィルス感染収束後に起きた物価高抑え込みのために低く抑えていた政策金利を逆に大きく引上げはじめます。それも短期間の間に連続して行いました。そのために長期債の金利よりも短期債や預金金利の方が高くなってしまい、シリコンバレーバンクは巨額の含み損を発生させてしまいます。一時的に含み損を抱えても、インフレとFRBの利上げが落ち着くまでしのげれば良かったのですが、預金の流出が発生してしまうと含み損が出たままの形で評価が確定してしまいます。こうなると資産よりも負債の方が多くなってしまい経営破綻です。


もうひとつアメリカの地方銀行破綻についての解説動画を紹介しておきます。

経済学者の田中秀臣さんが文化放送のラジオ番組「おはよう寺ちゃん」においてシリコンバレーバンクの破綻劇について解説されています。

田中秀臣 (経済学者)「アメリカ銀行相次ぐ破綻」「#日韓通貨スワップ協定 再開はあるのか?」おはよう寺ちゃん”残業中!”3月14日(火) - YouTube

 

 

田中さんも高橋さん同様にシリコンバレーバンクの資産運用の悪さについて指摘されております。パンデミック(コロナウィルス感染拡大)によって経済活動が著しく抑制されてしまい、世界中の多くの企業が倒産・廃業に追い込まれかけ、失業者があふれかえってしまう状況に陥っていたのですが、各国政府は空前といえる規模の財政出動を行い、中央銀行も同じく金利を思い切り下げた上にマネタリーベースを高く積み上げるといった大規模な金融緩和を敢行しました。それによって市場に大量のマネーが送り込まれ、株式市場などに流れ込み、チャラい(?)投機家やスタートアップ起業家たちは巨額の泡銭を得たのですが、彼らはそれをシリコンバレーバンクなどに預金したのです。シリコンバレーバンクは2年で預金を3倍にも膨らましたのですが、その資産運用を国債に振り分けてしまいます。FRBが大胆な金融緩和を行っていたうちは良かったのですが、パンデミック収束後に高いインフレが発生し、一転して政策金利をガンガン引き上げはじめます。政策金利を引き上げると当然のことながら国債の価格は大幅に下落し、シリコンバレーバンクなどは巨額の含み損を抱えることになります。そこに預金していた人たちは大慌てで預金を下ろし始めました。バンクラン(取り付け騒ぎ)の発生です。

 

結果的にパンデミック下に行った極端といっていいほどの金融緩和と引き締めといったFRBの金融政策がコロナバブルというべき状況を生み、その後にシリコンバレーバンクやシグネチャーバンクなどの地方銀行が破綻してしまったわけですが、このような副作用(?)があったとしても、産業基盤や雇用の壊死を防ぐことを各国政府や中央銀行は優先せざる得ませんでした。バブルの発生については中央銀行が過剰な金融緩和をやってしまうといった金融政策の判断ミスなどが関わっているのですが、バブルの発生を恐れすぎるあまりに金融政策を引き締めすぎて企業の生産活動を抑圧してしまったり、失業者が大量に溢れかえってしまうような状況を招く方がまずいです。

 

現在FRBは物価を抑え込むために政策金利をどんどん上げていっていますが、このことが実体経済においても大きな歪を与えることになる恐れがあります。金利の引き上げは企業になるべくお金を遣わせないようにし、一般消費者についてもローンによる自動車や住宅の購入を手控えさせることで投資や消費を抑え込むことで、物価の抑制を計るものです。企業が金利上昇で事業活動を抑制するようになれば、新たに人を雇うようなことをしなくなり、賃金も下がっていきます。現在FRBの金融政策はアクセルをドカ踏みしてクルマを急加速させたかと思ったら、今度はブレーキペダルをドカ踏みで急ブレーキをかけるといった感じになっています。

 

さらに地方銀行を中心に信用不安が再び発生した場合、貸し渋りによってアメリカの地方経済が苦境に陥る可能性があります。倒産や失業が増えてしまうと若い人たちが困窮し、社会から疎外されてしまいます。経済格差や貧困増加につながってしまうことになります。

 

こうした事態を回避するために、ある程度の物価高を容認し、それを賃上げ促進でフォローするといった考え方が出てきます。インフレ目標を2%から3%程度高めるのです。この件については改めて記事を書く予定です。

 

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