鬼熊俊多ミステリ研究所

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 名探偵コナツ 第18話   江戸川乱歩類名探偵別トリック集成⑱

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 敷地の中央に、頂上の高さが人の身長ほどあるある公園、通称・丘公園。そこで殺人事件が起こった。
「私、丘のところで人が倒れているのを見たんです」
 携帯を使って警察に通報した田之倉葉月はそう証言した。田之倉は二十代前半の美人で、ウォーキングの途中だった。
 死体はこの近所に住む女子大生。
 死因は銃殺。
 近隣住人も何人か銃声を聞いていた。
 死体の第一発見者ということで神津刑事は田之倉を犯人と疑っていた。硝煙反応が出ないのは何かトリックを使ったせいだと思っている。
 私がそのトリックを見破ると期待して、先ほどからちらちらとこちらを見てくるのがうっとうしい。
 新たに佐竹剛毅という証言者が現れた。公園近くのアパートの住人だ。田之倉葉月と警官のやりとりを見ていて助けに入らねばと思ったらしい。
「僕、見たんですよ。銃声がしたから窓から外を見たんです。そしたら丘のところに人が倒れていて、公園前の道路にそこの女の人がいました。そのときその人は銃を持っていませんでしたよ」
 佐竹は田之倉にウインクした。僕が来たから大丈夫ですよって表情をして、まるで王子様気取りだ。
 一方の田之倉は愛想笑いを浮かべるばかりで心ここにあらずといった様子だ。お姫様役を引き受ける精神的余裕はなさそうだ。
「あなたはそれをどこから見たの?」
 私は佐竹に聞いた。
「だからアパートの窓からだって」
「案内してもらっていい?」
「その制服……君、高校生ぐらいだよね。俺、大学生なんだけど」
 文句を言う佐竹を尻目に、私は神津刑事を見た。
「……そこに案内してもらおうか」
 神津刑事の一言で私たちは佐竹のアパートにやってきた。二階だ。
 窓から公園に目をやり、私は気づいた。
 田之倉も気づいたようだ。顔が青ざめていた。
 丘を挟んで田之倉のいた道路とこのアパートはちょうど正反対に位置する。
「もう一度言ってもらっていい? 佐竹さん、死体はどこにあったの?」
「だから丘のところだって」
「もっと詳しく。丘のどの場所?」
「あ? 頂上付近だよ」
「そうすると、田之倉さんの話と矛盾する。田之倉さんは丘の下、道路側に倒れている死体を発見した。もちろん警察もそこに死体があるのを確認した。今は死体のあった場所に白線が引かれている。一方で道路側と反対のこの部屋からは丘が邪魔になって角度的にその死体を見ることは不可能よ。道路にいた田之倉さんを目撃することは可能でも、死体は絶対に無理」
「それは――」
「この部屋の窓からあなたは丘の下に倒れている死体を見ることはできなかった。それなのに見たと言う。単純に嘘をついたか、あなたが見たとき被害者はあなたの証言通り丘の頂上に倒れていたか、そのどちらかが考えられる」
「そ、そう! 俺が見た後に動いたんだ。即死じゃなかったから移動したとか、体勢が不自然で丘の下に落ちたとか……」
 私は佐竹を無視して、田之倉を見た。
「田之倉さん、あなたが道路までやってきて公園内の死体を発見したとき、死体はどこにあったの?」
「……丘の下です」
 田之倉はますます顔を青くした。真相に気づいたようだ。
「だそうよ。つまり、田之倉さんが公園前にやってきたとき、すでに死体は丘の下にあった。つまり、田之倉さんと丘の上の死体を同時に目にすることはできない。でも、あなたは見たと言ってる。
 あなたがここから被害者を銃で撃ち殺したばかりの時は確かに丘の上に死体があったんでしょう。でもさっきあなたが言っていた理由、あるいは別の理由で死体は丘の下、あなたのこの部屋から見えない死角に転がり落ちてしまった。
 結論、あなたこそ死体の第一発見者であり、犯人よ」
 額に手をやり、天井を見上げるように顎を上げると、佐竹は哄笑した。突然の豹変ぶりに神津刑事がぎょっとした。
 笑いながら佐竹は叫んだ。
「犯人は大抵一番に死体を発見するだろうよ!」
「なんで犯行がばれるような真似をしたの?」
「無実の人間が捕まりそうなんだ。それは助けるだろ」
「善人みたいな発言ね。でも、なんでそんな善人なあなたが被害者を殺したりなんかしたの?」
「親切にしてやったのに俺を振ったからさ。ひどい女だ。恩を仇で返しやがった。あんたは違うよな?」
 佐竹は笑顔で田之倉をにらみつけた。ひぃ、と短く悲鳴を上げて田之倉は私の後ろに身を隠した。そもそもが佐竹のせいだというのに、自分が救ったと恩を売ろうとしている。やばい奴だ。
 神津刑事は佐竹の腕に手錠をはめた。
 それでも佐竹は田之倉から目を離さない。顔を背けない。心を離さない。
「なあ、俺と付き合おうぜ。今度デートしよう!」
 震える田之倉の肩にそっと手を置くと、私は前に出て佐竹の鳩尾に拳を入れた。派手に見えるような動きではなかったが、その場で佐竹は昏倒した。
「おい」
 神津刑事は非難の声を上げたが、責めるような表情ではなかった。

 

 名探偵コナツ 第18話 
 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成⑱
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (3)事件の発見者が犯人

 

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