鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第19話   江戸川乱歩類名探偵別トリック集成⑲

 

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 友人の父親が階段から足を滑らせて転落、首の骨を折って死亡しました。
 買い物から帰ってきた友人が発見したときには父親はもう息をしていなかったそうです。 そこで少し不思議に思うことがありました。
 その友人の家を訪ねたことは何度かありますが、二階には二部屋あって、それぞれ友人とその弟が自室としていたんです。
 つまり、父親が二階に行くのはおかしいとは言わないまでも、少し不自然なんです。
 その事故があったとき、友人は買い物に出かけていました。だから友人と話をするために二階に行くことはあり得ません。
 そして弟は引きこもりで部屋に人が近寄ることを嫌っていました。
 では友人の部屋に何か用があって行ったのか?
 それもやはりおかしいのです。
 引きこもりの弟は神経質で姉以外の人間が二階に上がってくることを極端に嫌がっていました。
 その上すごく物音に敏感だったそうで、足音が聞こえたらそっと部屋のドアを開け、そこから廊下を覗くのです。そして、やってきた人物が姉以外だった場合、改造エアガンを相手の顔目がけて撃つのです。
 もしかして父親はそのことを知りつつも、その日こそは息子と話し合うのだという決意の元、階段を昇っていったのかもしれません。
 そう考えるとあれは事故でなかったのではと思われるのです。
 息子にエアガンで撃たれ、驚いたのか、痛みによって生じた不注意によるものなのか、階段から足を滑らせたのではないか、と私は想像するのです。
 あくまで想像なのですが、その裏付けと言っていいのかどうか、友人は父の遺体を発見して念のため救急車を呼んだ後、弟の部屋を訪れました。そこには階段下より恐ろしい光景が広がっていました。弟はナイフで首を切り死んでいたのです。
 そのナイフは弟が所有していたもので、指紋も弟のものしかついていませんでした。
 もしかたしら父親を死に至らしめたショックから自殺を図ったのかもしれません。少なくとも警察はそう結論づけたようです。

 

 それはブログの記事であり、私のクラスメイト・三浦ハナが書いたものだった。ちなみに記事に出てくる友人とはやはりクラスメイトの秋月早苗だった。
 私は病院前の歩道に立っていて、ちょうど出てきた三浦ハナと顔を合わせた。あちらもすぐに私の存在に気づいたようでこちらにやってきた。
 挨拶もそこそこに私は本題に入った。
「ブログ記事読ませてもらった」
「そう? ありがとうって言えばいいのかな……」
 明らかに戸惑っていた。特に仲がいい間柄というわけではない。
「それでね、この文章おかしいと思ったの」
「どこが?」
「この事件があった日、三浦さん、秋月さんの家にいたって聞いてる。それなのに伝聞形式になっているのがおかしい」
「確かにいたよ。でも私は早苗の部屋にいて何も目撃してないの。早苗のお父さんが階段から落ちるところも見てないし、早苗の弟が自殺するところも見てない。あの家、割と防音がしっかりしてるから全然気づかなかった。一つ屋根の下にはいたけど、私は部外者だよ」
「私はこう考える。秋月さんは自殺じゃなく、あなたが殺した」
「なんでそんなひどいこと言うの?」
「なぜあの日、秋月さんの父親は階段を昇ったのか? それは娘が買い物に出ている間に、娘の友人に乱暴をしようとしたから。そして犯行を成就し一階に下りようとしたその背中をあなたは押した」
「…………」
「それを目撃していたであろう秋月さんの弟も部屋にあったナイフで殺した。買い物から帰ってきた秋月さんはあなたから事情を聞き、父親の名誉とあなたを守るためにあなたの犯行を秘密にすると約束した。だけど、いつその約束が無効になるかわからないと恐れたあなたは自殺に見せかけて秋月さんを殺した」
「証拠――」
 途中まで言って三浦は口をつぐんだ。
 ここは産婦人科の前だった。
 もしあの日、私の言ったとおりのことが起こったとしたら、秋月の父親のおぞましい行為の結果が出ている頃だった。

 

 名探偵コナツ 第19話 
 江戸川乱歩類名探偵別トリック集成⑲
 【第一】犯人(又は被害者)の人間に関するトリック
 (B)一人二役の他の意外な犯人トリック
  (4)事件の記述者が犯人