鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第58話  江戸川乱歩類別トリック集成(58)

「被害者はアパート通路の壁から身を乗り出して転落、死亡か……。自殺じゃないよな?」 神津刑事は自信なさげに言った。
「自殺するのに二階の通路から飛び降りるって事はないでしょ。頭から落ちて運悪く首の骨を折ってしまったけど、本気で死ぬつもりだったらもっと高いところから飛び降りる」 私は一般論を口にした。
 アパート通路の壁は私の胸の高さまである。
 でも身長二メートル近くあった被害者にとっては低い壁だった。よろけた拍子に壁を乗り越えて転落するのはあり得ることだった。その場合は、事故だ。
「そこまでまぬけかね?」
 神津刑事が自分のまぬけを棚に置いて言った。
 私は被害者の足下に屈んだ。
「足首を見て。ちょうど足首前方があざになってる。何かを引っかけてこのあざができた。そのせいで壁から身を乗り出して転落した。何に足を引っかけたのか? 棒状のものかひも状のものか。そして、誰が引っかけたのか?」
 被害者がアパート自室前の通路から転落したのは、部屋から出た直後だっただろう。
 ただ単に通路に出ただけなら、足に何かを引っかけても転落まではしなかったかもしれない。だから被害者は部屋から勢いよく飛び出したと考えた方がいい。
 それに犯人も被害者がいつ出るか分からない状態でずっと待ち構えているはずがない。目撃されるリスクもある。
 勢いよく飛び出てくるように、すぐに出てくるようにするため、何らかの仕掛けをしたはずだ。ちなみに被害者のスマホにここ数日着信履歴はなかった。スマホを使ったトリックを頭の中から除外した。
 私と神津刑事は被害者の部屋に入った。
 靴を脱いでキッチンに面した通路に上がった。
「うわっ」
 と神津刑事がその場を飛び退いた。
 足下に蜘蛛がいたのだ。
 壁にも蜘蛛が這っていた。
 通路を抜けた先にある部屋の床にも這っていた。窓にも、カーテンにも蜘蛛が這っていた。
「犯人は室内に大量の蜘蛛を放って、被害者を外に出るように仕向けた。被害者は大の蜘蛛嫌いだったんでしょう。それで部屋から飛び出した」

 

 名探偵コナツ 第58話
 江戸川乱歩類別トリック集成(58)
 【第四】兇器と毒物に関するトリック
 (A)兇器のトリック
 (9)動物利用の殺人