大輝のセクハラがあまりにしつこいので脇腹に中断蹴りしたら、その場にうずくまりそのまま顔を地面につけてしまった。腕を取り脈を確認したが、痛みのせいで気を失っただけのようだ。
私はほっと息をつく。
名探偵が殺人なんてしゃれにならない。
廊下の向こう側から足音が近づいてきた。
私は大輝の両腕をそれぞれつかむと、引っ張った。幸い、化学室の入り口ドアはすぐそこにあった。
この状態で見つかったら大騒ぎになることは目に見えている。隠さなければならなかった。
私が作業を終えて廊下に出ると、
「あ、なっちゃん」
と言って、由乃が声をかけてきた。足音の主は由乃だったようだ。
「大輝君見なかった?」
私は由乃と連れだって化学室に入ると、教壇を指さした。
由乃は不思議そうな顔をしながらも、はっと気づいたような顔になり、黒板前の台に載り教壇内を覗いた。
そこには大輝が体を丸めた状態で入っているはずだ。
由乃が教壇内から私に目を移した。
「死んでるの?」
「まだ生きてる」
「え、殺すの?」
「冗談よ」
痛っ、と教壇内から声がした。
目を覚ましたであろう大輝が不用意に立ち上がろうとして頭をぶつけたのだ、と私は推理した。
名探偵コナツ 第63話
江戸川乱歩類別トリック集成(63)
【第五】人及び物の隠し方トリック
(1)一時的に隠す