鬼熊俊多ミステリ研究所

鬼熊俊多のブログ。『名探偵コナツ』連載中!

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 名探偵コナツ 第65話  江戸川乱歩類別トリック集成(65)

 制服姿の私がリュックサックを背負って事件現場にやってくると、ちょうど容疑者らしき男が神津刑事に突っかかっているところだった。
「だからその死体はどこだって言ってるんだよっ? ないだろ? 存在しない死体のためになんで俺を捕まえたんだ?」
 ハッチバックのボンネットに手を置いた容疑者の男が怒鳴った。二十代前半、金髪で眉毛がなく、アロハシャツを着ていた。
「おまえがここで人を刺してるのを見たって目撃証言があったんだ」
「そいつ連れてこいよ。おまえの目は節穴だって教えてやるから。さあ連れてこいよ」
「それは相手の安全を考えてだな」
「なあ、おかしくないか? 警察が通報を受けてよ、近くにいたあんたが五分ぐらいでここに来たわけだ。その間、俺はこの車を動かしてないわけよ。死体を引っ張ってどっかに運ぶにしてもよ、辺りは耕された畑で死体があればすぐ目につくし、五分かそこらで埋めることもできないわけよ。そんな状況で死体はどこに行ったって言うんだよっ?」
 容疑者の声はどんどん大きくなっていく。
 私は横から口を出す。
「死体は見つけた」
「ああ?」
 眉の剃り跡をつり上げ、容疑者が私の方を見た。
「どこだよ? 適当なこと言ってんなよ。なんだその格好? 高校生か? 大人をなめんなよ。ぶっ殺すぞ」
「車の下」
「・・・・・・」
「そんな子供だましな・・・・・・」
 容疑者が黙った代わりに、神津刑事が呆れたように言った。そして、車の下を見てから、あんぐりと口を開けた状態のまま直立の姿勢に戻った。
 車下にちゃんと死体はあったようだ。
「ミステリオタクでもない、ケチなチンピラだから一時的にごまかすのが関の山って思ってた」
 と私。
 神津刑事は責めるような顔で容疑者を見た。
「おまえ、すぐにばれると思わなかったのか?」
「俺はなあ、一瞬一瞬を懸命に生きてるんだよ。先のことなんて知ったことか。けっ」
 私と神津刑事は顔を見合わせた。

 

 名探偵コナツ 第65話
 江戸川乱歩類別トリック集成(65)
 【第五】人及び物の隠し方トリック
 (3)死体移動による欺瞞
 【短距離移動】