入園して1ヶ月が過ぎると保育参観がある。
幼稚園ホールの壁際に ぐるっと保護者が陣取り、中には三脚までスタンバイ、ポジションをキープした最高のアングルで、我が子の勇姿をビデオに収めようという猛者も大勢いる。
そんな中 私は、姿を見つかってしまうとチビハルが不安定になったり、ママの所に駆けて来てしまうかもしれない…
胸中の僅かな期待を薄暗い不安が押しのけ、ひたすら低姿勢で他の保護者の影に身を潜めていた。
そんな中子供達は、1人1人前の子の肩につかまり、しゅっしゅっぽっぽの歌を歌いながら、電車のように一列に繋がって入場して来た。
そのあまりの可愛らしさに、身を隠していた私でさえ、思わず背伸びで顔を出し、ビデオ片手にチビハルの姿を血眼になって探したのだが…
我がチビハルはというと列の1番後ろで、前の子の肩をつかむのを嫌がり、グズグズ状態で先生に連れられての入場であった。
その後、子供達が実に可愛らしく歌ったり踊ったり行進したりと、並み居る保護者を歓喜の渦に巻き込む中、チビハルは1人フテて座り込んでしまったり、先生に抱っこされてばかり。
や…やっぱりね…
そそそうだよね……
再び他の保護者の影に隠れて小さくなっていた私の耳に、軽快な先生の言葉が流れ込む
「じゃあ〜 今日はみんな頑張るよぉ〜!グルグルグルグル…エイエイオー!」
子供達は一斉に手をグルグル回し、エイエイオー!と元気良く拳を上げた。
だが…
おお、なんとそれを…
我がチビハルもやったではないか!!!
1人先生に背を向け、後ろ向きに座っていた異端児チビハルであったが、
そのグルグルグルグル…エイエイオー!だけは…
みんなと一緒に出来たのだ!!!
…こ、こんな物凄く些細な事で恐縮だが、
今日は1日良いトコ無しかな…
やはりチビハル、何も出来ないのかな…と、萎みかけていた私の心に、
その姿はこれ以上になく可愛らしく、眩しく鮮明に焼き付いた。
その後の懇談会で私は、始業式の挨拶で言い忘れた「療育に通う」という事を、無事に保護者達に伝える事も出来、少しだけ…ホッとした。
そしてお帰りの会になり、私はチビハルから思わぬプレゼントを貰った。
それは幼稚園で作ったニワトリのタオル掛けであった。
大きなハートの折り紙と、カラフルなちぎり紙に彩られ、それはキラキラとまぶしく輝いていた。
そしてそこには、先生の手によって書き込まれた、
「母の日 おかあさんだいすき」
の言葉…
おかあさんだいすき…
おかあさん、だいすき…
おかあさん…
…
成長したチビハルの、眩しい笑顔が目に浮かぶ…
お母さん…
そんな魔法の言葉が
いつの日かチビハルの口から
当たり前のように聞ける日々が訪れますように…