プロ野球、新庄BIGBOSS(監督)率いる日本ハムファイターズの様々な試みが話題になっていますね。結果を出すのがプロ、ですが様々な試みの中で選手たちが活き活きと自分達の可能性を追求する環境というのは見ている側としてもワクワクしてきます。

 

既存の常識やセオリー、いわゆる「定石」本質を今一度見つめ、そのうえで、他の可能性や現在の自分達にとって重視すべきものかどうか主体的に考える。それは、野球のみならず、様々な分野に応用できるものなのでしょう。

 

さて、この考えはもちろんスピーチの世界も応用できます。いくつか考えてみましょう。

 

1:「開始1分以内に笑いを取れ!」

スピーチの定石としては、中々の鉄板です。

話を聴いてみたいと思わせるには聴き手の感情を序盤に揺さぶるのが手っ取り早いのです。そのうえで、それが負の感情(怒りをぶつける、同情を乞う)であれば、聴衆はその湧いた感情の責任を無意識に自覚する、つまり残るため、その諾否のため懐疑的な視点で聴いてしまうのですが、正の感情(楽しんで、面白いと感じる)であればすぐに揮発します。

興味を持たせつつ、後に引かせない。という理由からスピーチの最初に「笑いを取る」のは有効な手段です。

 

2:「言いたいことは一つに絞れ!」

よく、話し方の指導で言われますね。話を分かり易くするうえでは大切です。

しかし、注意しておきたいのは話し手にとっては言いたいことはひとつであっても、聴き手にとっては捉え方が無数にあるということです。

そもそも事象や思考はリニアに繋がっており、話し手がスピーチを作っていくうち思考が当初考えていたことから広がっていくことが多々ある様に、聴き手もまたスピーチを聴いていくうちに思考がどんどん広がっていきます。日本語は特に想像力が問われる言語であり、言いたいことを絞る程にこの想像力を発揮する機会を狭めてしまうことに、ベテランの話し手は悩むことになります。スピーチの目的ごとにどこまで絞るか、余地を残すかの使い分けが問われます。

 

3:「力強く主張しろ!」

これも、スピーチや弁論・演説の指導でよく言われていますね。

社会生活で、自分の意思を明示するためにも大切なところです。

ただこの定石については、最大の効果を上げるためには必ずしもそうとはかぎらないと私は考えます。

聴衆に対して「喫緊の問題解決」「具体的な知識の取得」「行動の変化」を促すうえでは効果が有るのですが、対して「継続的な思考」「抽象的な概念の提示」「思考・思想の変化」にはアンマッチです。このため、話し手と聴衆の間に先生と生徒・上司と部下の様な上下関係が有る場合はスムーズに受け入れられますが、対等な立場で互いを尊重する場では意見を出しづらくなる、自主性が抑えられる印象を受けます。結果的に反発を産み聴衆の変化に繋がらないのであれば本末転倒になり、そのため後者の様な状況では自己の意見を提案する様に伝えることがカギとなります。

 

定石とは「こうすれば、大体は上手くいく」という先人が築きあげてきた規範ではありますが、改めて見つめることで、数少ない例外の対処方法や新たな考え方、方法論が見えてきます。

話をすることの難しさ、と同時に話をすることの奥の深さと面白さに気付かされます。

 

もし、話し手としての自分のスピーチに行き詰まりを感じているのなら、一度自分が学んできた定石を見つめ直してみませんか。