建国記念日の11日、恒例の「第15回くにまもり演説大会」が開催されました。今年もハイブリッド開催(現地+オンライン)とのことで、オンライン配信の動画を視聴しました。

<第15回くにまもり演説大会>

㈱キャリアコンサルティングが主催する演説大会。「世界の手本となる国、日本。その為には、良い文化は伝え、悪くなったところは直す。国の未来は若者の質で決まる。公を考え、やさしい若者をつくる。実力者が要職に就き、誠実に働けば、国はすぐに良くなる」という趣旨の元、29歳までの成人による日本の未来を考えることを演説のテーマとした大会。演説時間は8分(今年から?)。今回で15回目となる。1498名の応募者から3次まで有る予選を突破した8名による熱弁が振るわれる。

 

 審査員は保守系論壇で活躍される方々であり、日本という国とどう関わるかということに対して若人が思うところを述べるという大会です。

 

 

1.「国語から日本を守る」 小西 沙紀さん

「子供のころの読書が、今の私の根となり翼となる」上皇后の言葉である。幼いころから母に読み聞かせをしてもらい、今電子書籍の出版の仕事をしている私が思うのは、「日本語が日本人の心をかたち作っている」ということ。しかし、国語の授業は戦後GHQの政策で制限を受け、さらに近年は授業数が減り、文学に触れる機会もままならなくなる。言語が失われれば国が失われる。移民の多い国には国語の保護法があるのだ。国語教育は今、危機に立たされている。

自分は今、読み聞かせのボランティアをしている。草の根活動に不安があるが恩師をはじめ多くの人に支えられ、活動を広げている。母国語の教育は日本人の感性を養い、そうした感性を持つ人々を増やすことこそが国を護ることに繋がるのだ。

 

 ご自身の経験と歴史的な経緯の両面から深い考察がされているお話ですね。表現も緩急が非常に上手く、前回拝見した土光杯よりも磨かれているように感じました。

 日本人の感性を磨くとあるので、私もそうした伝え方や日本人の感性の言語化体系化に取り組んでいることも有り、小西さんが見つけた日本人の感性というものについてお話の中で踏み込んで聴いてみたいと思いました。

 

2.「輝く日本の未来は私達の手で」 嶋崎 彰人さん

 子供たちが夢や希望を持てる未来は我々の手にかかっている。児童虐待の相談は現在年間6万件近くに上っている。そして「東横キッズ」に代表される、そうした家庭環境にから家出した子供たちによる犯罪が問題となっている。

私は学生のときにそうした未成年犯罪の実態に触れ、何かできることはないかと児童養護施設でアルバイトをした。施設での子供たちに触れるなかその子達に「将来の夢は?」と聴くと、沢山の夢が返ってきた。どんな子供達にも未来、夢があるのだ。そしてそれが日本の未来を創っていく。私は、社会人として児童養護施設に就職し、そうした子供たちのサポートをし、将来は法人を作りたい。児童虐待は近くの大人たちがアンテナを張ることで防ぐことができる。小さな活動が、子供たちの運命を変える。そんな温かい世界をともに作っていこう。

 

 児童虐待の問題を正面から捉え、そこに取り組んでいく気持ちの乗った演説でした。児童養護施設でのご本人の実感が、言葉に現れていますね。

一方で本対策が対処療法でもあり、その在り方について、少なくても言及がないとこの問題の本質は捉えきれないようにも感じました。語尾のイントネーションが上がり気味という癖もあり、人によっては気になるので、そこも注意すると良いでしょう。

 

3.やり直せる社会へ「見えないホームレス」を無くそう 廣瀬 優理愛さん

 ホームレスの方々への炊き出し活動中に言われた「ありがとう、来週もお願いね」の言葉。厚生労働省によると、日本のホームレスの数は現在3500人。日本で路上生活をしている人は少ない。一方で、ネットカフェ等で生活する「見えないホームレス」の数は多い。私の住む横浜にも寿町という地域が有る。そこで配食活動を行い、子供達にも啓蒙を続け、満足していた。

しかし冒頭の言葉に、自分の活動ではホームレスの人々を無くすことに繋がらないと気づく。そして、聴いてみたところ、多くのホームレスの方々は、働きたいがその求人に応えられるスキルがないために働けないことを知り、就職支援プログラムを作るべきだと考えた。AIや外国人労働者に依存を考えている日本の労働人口問題への解決への一助となり、なにより人生をやり直せる社会を実現する、これが私のくにまもりなのだ。

 

ご自身の気付きをベースにした、力強い決意と展望が印象的なお話でした。取り組みの実績も素晴らしいですね。

演題からは「見えないホームレス」へのお話と受け取りましたが、ホームレスと見えないホームレスとの間で、アプローチが異なるのかどうかは話の中で分かるとよいように思えます。違わなければ、演題を見直しても良いでしょう。

 

4.「地方から創る減税大国日本」 和氣 千郷さん

 政府は防衛費のために1兆円の増税を決めた。総理は増税したい人の話しか聴いていないのだろうか。消費税が10%の日本社会はGDPの低迷、自殺者失業者の増加している。税金を増やすと経済は回らなくなる。不景気だからこそ減税が大切なのだ。参院選を前に政治家に減税を訴え、理解してもらえたが選挙後にやはり今は増税だという言葉を聴き自分の無力を感じた。

そんな時に勉強会での「地方から変えていく方が近道」という言葉を聴く。地方の税率は地方が変えられる。名古屋では市長の英断で減税を実施し人口を増やしている。しかしこのことを地方議員の中にも知らない人もいる。事務事業評価という税金の使途が分かる資料も用意しない自治体もある。我地方政治は思うよりも身近なのだ。地方が動けば国も動く、だから我々が勉強して発信していこう。

 

 地方からの減税、前回大会でも拝聴させて頂きましたが続編という気持ちで聴かせて頂きました。相変わらず、着眼点が面白いですね。ところどころのユーモアも飽きさせませんね。

減税の効果への言及はあるのですが、今減税することに問題がないという裏付けが、今回の演説ではなかった様に見受けました。ここも含めて聴けるとより納得させるお話となります。

 

5.「産まれてきてくれてありがとう」 池田 明日香さん

 子育て罰という言葉がある。子を産んだ人に対する政府の罰則の様な制度や、周りの人々の態度を示す言葉だ。私も1子を出産し、2人目をお腹に宿す母として、席を譲ってもらえず寂しい思いをしたことがある。今の日本は親子に無関心なのだ。現在は教員としての仕事を休職し、子育て中だが子育ては大変だ。出産後に産後鬱にかかるお母さんは10人に1人、中には命を絶ってしまうお母さんもいる。

 誰かに寄り添ってもらうことがどれだけ助けになるかを実感した私は、母子手帳トレーナの資格を取得した。その勉強の中で出会った「子供だけなくお母さんも生まれてきてくれてありがとう」という言葉に、この言葉を多くの人が受け取る社会を作りたいと思う。子供時代に受け取った「ありがとう」を次世代に渡すこと。それが日本の国を護ることに繋がるのだ。

 

ご自身の子育て経験が、他者の思いやりから社会への提言と1本にまとまった素敵なお話でした。最後の行動を促す語り掛けも柔らかくて良いですね。

一方で、出産という女性については大きな共感を得る話題であると同時に、男性に何を感じどう寄り添ってもらうかというところは難しい演題でもあります。そこにひとつ言及しても良かったかもしれません。

 

6.日本を守る ~防衛業界の活路を作る~ 高橋 未来さん

日本の防衛費は過去最高額となる。台湾有事、ウクライナ侵攻といった動乱は日本でも起こり得るのだ。しかし、日本の防衛のためには、防衛費を増やすだけではいけないのだ。私が仕事としている、日本の防衛産業は危機的な状況である。その理由は、ハードルが高い上に儲からないという現状にある。

その状況の中で業界の人々は頑張っているが、日本のためにという想いだけでは立ち行かない。その現状の打開、そして日本を守る意識を高めるべく、私は防衛に特化したメディアを立ち上げ情報を日々配信している。平和団体や過去の戦争からくるアレルギーから心無い言葉を言われることもあるが、国を守るための力が有るから平和が実現できることを知ってほしい。

 

普段知りえることのない、防衛産業という立場からの提言。防衛についてもっと知ってほしいという訴えには見えないとこらから迫る危機感が現われていました。

同時に、国産の防衛産業の活性化と発展の意義についてはより時間を割いて話していただいても良かったかもしれません。そうすることでより主張が聴衆にいきわたったように感じました。

 

7.若いけど、でも若いからこそ ~在宅医療の現場で働く私の決意~ 竹原 葉月羽さん

 2025年、日本国民の半数が高齢者となる超高齢社会を迎える。しかし医療費の増大に伴い、病院への入院期間は大幅に短縮され、在宅での医療が主体となる。家族の介護のために、自分の人生を諦めるという人々の問題が出てきている。そんな在宅医療を支えるのが訪問看護師である。しかし、国内の訪問看護師の数は圧倒的に足りないのが現状だ。訪問看護師はベテランでなくてはできないという考えが現状の打開を阻んでいる。

しかし、若くても訪問看護師はできる。私がそうだ。先輩看護師の励ましや葛藤もあったが担当した患者さんの中で80台のお婆さんからの「若いあなたを見ると元気が出る」という言葉に支えられた。今は多くの若手訪問看護師を育てるべく、大学の教員となってそのことを伝えていく。訪問看護師を増やし、在宅介護にとらわれることなく誰でもいつからでも自分の人生を輝かせることのできる、そんな社会を創りたい。

 

 在宅医療という大きくなりつつある問題の周知、そしてその解決への取組みへの理解が深まるお話でした。知る⇒学び⇒実践し⇒教えるという考え方、在り方の流れがスムーズですね。

 冒頭から新規の情報量が多く、聴衆への質問後に直ぐにその情報が展開されたため、冒頭付いていくのは少し大変だったところがあります。聴衆への言葉の浸透を見て、一呼吸入れて話を展開していくと良いでしょう。

 

8.世界一を目指す 塩澤 駿一さん

「日本の車は世界一売れているんだ」子供の頃、そう父が話してくれたことに日本の技術の凄さを誇らしく思い、技術者の道を選びドローンと出会った。これからは空の時代、だがドローンは隣国中国の技術が日本の5年先を行っている。その技術を学ぶべくドローン技術の本場中国の深圳で現地の技術者と話し、「中国を復興させたい」「頑張る仲間に負けられない」という言葉に、自分の周りにはそうした仲間がいないことに気づく。

そんな中でも自分にできることをと、日本のドローンを世界一へという気持ちの元に活動。開発した計測レーザーは自身の訴えと多くの人たちの支援により国に認められシェアNo1となり、会社もドローンの普及会社として世界第二位となる。挑み続ければ社会のルールも見える景色も変わる。いつか、それを飛ぶドローンをみた親子が、自分が父と交わした話ができる様な、そんな景色を創りたい。

 

 ご自身の先人への畏敬から始まった技術者としての願いが、国の在り方に繋がり、そして未来の誰かにとっての先人となる。余韻の残る素敵な物語を聴かせて頂きました。

 ドローン技術の発展が、命題となるくにまもりにどの様に繋がるかについての言及は欲しいところ、また話のテンポが一定でしたのでそこは緩急をつけられるとより良いと感じました。

 

結果の方は、下記と相成りました。入賞された皆様おめでとうございます。

 

優 勝:和氣 千郷さん

準優勝:塩澤 駿一さん

第三位:小西 沙紀さん

 

審査委員の講評では、倉山先生が仰った、①ユーモアを入れること、②指示語を減らすこと、③しかしという展開の言葉を活かすことは、長丁場となる話である程に効果が有ります。演説に対する明快なご指摘ですね。

この大会の特徴として、「言動+行動」が必要、ある種の決意表明がコンセプトであり、出場者の皆さん全員が実施している点も素晴らしいと感じました。出場者の皆さんの、決意、是非これからも実行して頂きたいと思います。