ピロスケ | ショートショートとエッセイ

ショートショート小説とエッセイを読んだり書いたりします。 「あはは、バカだなぁ」と笑え…

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ショートショート小説とエッセイを読んだり書いたりします。 「あはは、バカだなぁ」と笑えるようなお話が特に好みです。

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最近の記事

オバケレインコート羽織

小さい頃から雨の中をパシャパシャと水しぶきをあげて走るのが好きだった。お気に入りのレインコートを身につけて。 いつしかレインコートは着なくなったが、走ることが好きなのは変わっていない。小学校のかけっこはダントツで一番だった。今でも鬼ごっこなら誰にも負けない自信がある。 中学になって陸上部に入り、大会で何度も優勝した。 でも高校になって勝てなくなった。私が速く走れるのは数十メートルまでで、その距離を過ぎるとスピードがガクンと落ちる。そういう身体なのか、どれだけ練習しても距離

    • セピア色の桜、灰色の桜

      思い出すとノスタルジックな気持ちになる桜を「セピア色の桜」と呼ぶとしたら、私にとってのセピア色の桜はいつ見たものだろうかと考えてみた。 すぐに出てきたのは通っていた小学校の中庭に植えられていた桜並木だ。 小学5年のある朝、校門を通って校舎に向かう時にグラウンドの横に植えられた満開の桜並木を見て「おお…」と感激した時のことを思い出した。 その桜並木自体は自分が入学した時からそこに存在しており毎年見かけていたはずなのに、その時に初めて綺麗だと思ったのだ。 きっと自分の中にそれ

      • サボテンとおじさんはなかなか変わらない

        変わる時といえば。 学生や新社会人の頃は新年度を特別な区切りとし、次の1年の目標を決めて何かしら変わろうとしていたものだ。 40歳を超えると当然ながら新年度という時期を既に40回ほど迎えているわけで、その特別感というのもかなり薄れている。月が3月から4月に変わったり、季節が冬から春に変わったりするのと同程度の扱いである。 そうなると次の1年の目標を決めようという神聖な気持ちも生まれにくくなるのか、ここ数年はこの時期に目標を決めた記憶がない。 ではそんなおじさんがいつ変わ

        • 命乞いする蜘蛛と画家と妻

          飲み仲間の平太郎に「金が入ったので高い酒をごちそうしてやろう」と誘われ、「はい喜んで!」とやつの住む長屋に向かう。 描いた浮世絵が売れたらしい。お前画家だったのか。 知り合ってからかなり経つが、酒を飲んでいる姿か部屋の隅に住み着いた蜘蛛に話しかけている姿しか見たことがない。 ただの無職の変人だと思っていたのに。いつ絵を描いてたんだ。 そしてそんな変人には美人で若い奥さんもいる。 軽く嫉妬を覚えつつ、いつも奢ってくれる良いやつだしまあいいか、と今日も高い酒を遠慮なくいただく

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        • サクッとかじれるショートショート
          28本
        • 羽のように軽いエッセイ
          38本
        • おいしいものの話
          8本
        • ダイエットの話
          10本

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          始まりはいつもボツになるアイデアから | エッセイ

          始まりはだいたいボツになるアイデアからスタートする。 私のショートショート小説執筆の話である。 昨年の9月にnoteでたらはかにさんの「毎週ショートショートnote」という企画を見つけて以来、週に1回のペースでショートショート小説を書いている。 私が書くショートショートは平均2000文字くらいだ。 いや企画のルール上は「だいたい410文字くらい」と書かれているのだけど、毎回2000文字くらいになってしまうのだ。どうやっても短くならないので、ワンチャン2000文字もまあだい

          始まりはいつもボツになるアイデアから | エッセイ

          桜回線を流れてきたもの

          スペースコロニー内にはパークルームと呼ばれる室内公園がいくつか存在する。そのパークルームの1つを貸し切り、矢端は一人実験の準備をしていた。 部屋の入口の正面、いつもは時間帯によって青空や夕焼け空の映像が映されている壁が今は実験の要となる特殊なシートでコーティングされ、オパールのような薄い虹色に輝いている。 矢端がシートの状況を確認しながら手元のタブレットを操作していると、入口の扉が開いて60代くらいの白衣の男性が入ってきた。 矢端の同期でこのプロジェクトをともに進めている

          三日月ファストパスは一度通ったら戻れない

          「お二人で旅行ですか~?海に行かれるなら三日月浜が景色が良くておすすめですよ~」 洋平と美佳がサービスエリアの土産物コーナーを見て回っていると、店員のおばちゃんが声をかけてきた。 3月上旬。週末を利用した一泊二日旅行の帰り道。 まだ時間があるのでどこか観光してから帰りたいね、と二人で話していたところだった。 「良いところを探してたところなんです。三日月浜はここから近いんですか?」 「はい、すぐそこですよ!こちらの地図をお持ちください。ちょっと道路から離れているので、こ

          三日月ファストパスは一度通ったら戻れない

          小説の登場人物の名前を考えるのに時間がかかるので何かないかと「小説 名前メーカー」ググってみたら、いい感じの名前を生成してくれるサービスがいくつか見つかりました。便利だ!

          小説の登場人物の名前を考えるのに時間がかかるので何かないかと「小説 名前メーカー」ググってみたら、いい感じの名前を生成してくれるサービスがいくつか見つかりました。便利だ!

          悪魔王女のお返し断捨離作戦

          「フハハ、次に我が降臨する時を震えながら待つがよい!」 玲奈がスタッフに別れの挨拶をして楽屋に入ると、マネージャーの志代が待ち構えていた。 「玲奈ちゃん大変。 玲奈ちゃんのファンから届いた贈り物が多すぎて、もう事務所に入り切らないみたい。 社長から何とかしてくれって電話があったわ」 「ククク、愚民どもが我の…じゃなかった。 そ、そんなに来てるんですか?」 「わたしもびっくりよぉ。 とりあえず事務所に向かいましょう」 タクシーで事務所に戻ると、受付から廊下まであらゆる

          突然の猫ミーム

          「今日もがんばったね…」 土曜日の午後。 膝の上で丸くなっているルナの背中をそっと撫でて労う。 ルナとの出会いは一ヶ月ほど前。 大学の授業を終え、午後の公園。 お気に入りのベンチでコーヒーを飲んでいた。 公園の隣にはペットショップがあり、ベンチに座るとウィンドウ越しにかわいいネコちゃんやワンちゃんを眺めることができるのだ。 子猫たちがじゃれ合う姿に癒やされながら、ほう…とため息をつく。 ああ、猫が飼いたい。 毎日癒やされたい。 今住んでいるアパートがペット禁止じゃな

          レトルト三角関係エンド

          ぼくは今とても傷ついている。 朝起きて食堂に入ったら、クルーのジョージが仰向けになって床に倒れていた。 目を見開き、苦悶の表情。 どう見ても死んでいる。 ジョージの動かなくなった視線が向いている先、中央のテーブルには同じくクルーの女性二人、サラとミウが向かい合わせの席に座った状態で朝食のトレイに顔を突っ込んだ状態で息絶えている。 4人しかいないクルーのうち、ぼく以外の3人全員が死んでいた。 何があったらこんな状況になるの? 船内の監視カメラの映像を観れば何が起こったか

          洞窟の奥はお子様ランチ

          「洞窟の奥はお子様ランチ…」 「はい?」 被害者の机を調べていた紗英さんが発した不可解な言葉に聞き返す。 紗英さんと僕は殺人事件の調査のため二人目の被害者、豊中康介氏の自宅を捜索している。 一月ほど前に最初の被害者である冒険家、桃山敬之氏が何者かに毒殺された。 その犯人の目星もつかない中、同じく冒険家の豊中氏が毒に侵されて倒れた。 幸い豊中氏は発見が早かったため一命をとりとめたものの、いつ意識が戻るかが分からない状態。 有名冒険家2名が相次いで毒に倒れるというセンセー

          デジタルゾンビバレンタイン | ショートショート

          『フハハハ、貴様ら全員生ける屍になるがよいわ!』 2月14日、バレンタインデーの18時を過ぎた頃。 恋人たちが愛の言葉を交わすその裏側で、恐るべき呪いがばらまかれた。 ある悪魔が生み出したその呪いは各地に潜む悪魔崇拝者たちのもとへと届き、彼らを甘い香りで惑わせる。 虜になってしまった崇拝者たちは理性を奪われ、本能のままに動く生ける屍へと変わってしまった。 そうして生まれた数万におよぶ呪われた崇拝者たちは、バレンタインの賑わいに導かれるように街へと歩き始める。 「えー、

          デジタルゾンビバレンタイン | ショートショート

          行列のできるリモコン | ショートショート

          『接続エラー発生』 気がつくとユミは道端に座り込んでおり、手に持ったスマホにはエラーメッセージが表示されていた。 「イゴーロ」との接続が不安定になり、その影響で座り込んでしまったらしい。 『至急再接続してください』 繰り返しメッセージが表示されるが、やり方も分からない。 ふらつきながらどうにか立ち上がり、近くのベンチに腰掛けた。 身体を自分で動かすのも随分ひさしぶりだ。 イゴーロを装着して以来、これまで意識して身体を操作する必要がなかった。 イゴーロは数年前に各通

          行列のできるリモコン | ショートショート

          東館の鬼 | ショートショート

          もしあの時引き返していたら…いや、結果は同じだっただろうな。 「鬼には神通力があったとか、心を読む力があったとか。 ただ暴れるだけではない話もたくさん残っているのよ」 助手席のユミがスマホをいじりながら語る。 ユミは民俗学研究会に所属しているだけあって各地の伝承に詳しい。 いつもよりテンションが高いように見えるのは、めったに見られないという鬼の遺物とやらを楽しみにしているからだろうか。 それともひさしぶりに俺と過ごす週末を楽しみにしてくれているからだろうか。 ユミとは

          プロットを決めるのに5日かかった時は2日で書き上がるのに、1日でプロットが決まっても書き上がるのに6日かかるのはなぜなのか...。

          プロットを決めるのに5日かかった時は2日で書き上がるのに、1日でプロットが決まっても書き上がるのに6日かかるのはなぜなのか...。