臨床検査のお役立ち情報

臨床検査技師が臨床検査を勉強する備忘録ブログです

畜尿に使用する添加剤や保存剤

一日に排出される尿量や尿成分を調べるために蓄尿を行う場合があります。

しかし尿を長時間放置すると、増殖した細菌が尿素を分解してアンモニアが生じ、

尿がアルカリ性となり検査に影響を及ぼす場合があります。

また尿中に含まれる酵素により成分が分解されてしまう場合があります。

そのため畜尿の際には項目に応じて添加剤や保存剤を添加します。

 

酸性畜尿

酸性添加剤を添加して蓄尿します。

従来使用された6N塩酸は劇物であるため、

現在ではその代替品が使用されています。

尿を酸性にすることで尿中カテコールアミンやその代謝産物の分解を防いでいます。

アルカリ性蓄尿

炭酸ナトリウムを含む安定化剤を添加して蓄尿します。

従来使用されたアジ化ナトリウムは劇物であるため、

現在では炭酸ナトリウムが使用されています。

尿をアルカリ性にすることでC-ペプチドの分解を防いでいます。

 

M蛋白と測定試薬の反応による混濁の発生

M蛋白

正常な血液中には、様々な抗原に対応する、様々な抗体が含まれています。

これは抗原の種類に対応して、抗体を産生する形質細胞が複数存在するためです。

一方、多発性骨髄腫などでは、単一の抗原に対応する抗体のみが増えます。

これは多発性骨髄腫などでは、様々な抗原に対応する形質細胞のうち、

一種類の形質細胞のみががん化することによります。

このように単一の抗原に対応する抗体をモノクローナル抗体といい、

多発性骨髄腫などで産生される場合にはM蛋白と呼ばれます。

M蛋白と試薬の反応による混濁の発生

M蛋白は検査に使用する測定試薬と反応して混濁を生じる場合があります。

M蛋白により混濁が生じた場合、検査結果に影響を及ぼすことがあり、

特に比色反応を用いる生化学検査では、吸光度の偽高値化が生じることがあります。

抗体である免疫グロブリンが異常高値であり、M蛋白の存在が疑われる場合、

生化学検査の結果の解釈には注意が必要となります。

尿酸分解酵素製剤ラスブリカーゼによる尿酸の偽低値化

腫瘍崩壊症候群

 がん化学療法によりがん細胞を急速に破壊した際、細胞の内容物が血中に流出し、

 様々な症状を生じることを腫瘍崩壊症候群と言います。

 腫瘍崩壊症候群の症状の一つとして高尿酸血症が知られています。

 尿酸は血中濃度が高くなると結晶化し、腎臓に蓄積して急性腎不全を生じます。

尿酸分解酵素製剤ラスブリカーゼ

 腫瘍崩壊症候群に伴う高尿酸血症に対しては、

 ラスブリカーゼという尿素分解酵素製剤が投与されます。

 ラスブリカーゼは尿酸を分解して水溶性の高いアラントインに変えることで、

 血中の尿酸値を低下させます。

 市場ではラスリテックという商品名の薬剤がよく使用されています。

採血後検体におけるラスブリカーゼ活性の残存

 しかしながらラスブリカーゼは採血後の検体中でも室温下で酵素活性が残存します。

 そのため採血後の検体でもラスブリカーゼにより尿酸は分解され続けてしまい、

 尿酸が測定感度以下まで偽低値化してしまう場合があります。

 そのためラスブリカーゼ投与患者で尿酸を正確に測定するためには、

 採血後の検体は測定まで氷冷条件で保存しておくのが好ましいとされています。

特殊な検査に用いる採血管

採血管の中には特殊な検査項目にのみ使用する採血管があります。

今回は特殊な検査項目にのみ使用される採血管について解説します。

※使用する採血管は施設により異なるため、あくまでご参考にして下さい。

ACD-A入り採血管

・ACD(Acid-Citrate-Dextrose)とは輸血用製剤にも使用される血液保存液であり、

 クエン酸クエン酸Na、デキストロースの混合液です。

・組成の異なるACD-AとACD-Bがあり、血液との混合比が異なります。

・主に血小板の表面に結合しているIgGを測定する検査に使用します。

・項目:血小板関連IgG

抗血小板剤入り採血管

・生体内における血小板の活性化状態を把握する検査に使用します。

・具体的には、血小板内のα顆粒にのみ含まれるタンパク質の血漿中への放出量から、

 血小板活性化の程度を検査します。

・抗血小板剤として、テオフィリン、アデノシン、ジピリダモール、クエン酸Na、

 クエン酸が含まれています。

・血小板の活性化や血漿への混入を避けるため、採血管の冷却、厳密な遠心条件、

 分注時の血小板混入の回避等、検体の前処理に注意を要します。

・項目:血小板第Ⅳ因子、β-トロンボグロブリン

アプロチニン入り採血管 

プロテアーゼ阻害剤であるアプロチニンを使用することで、

 ペプチドホルモンの分解を抑制しています。

・アプロチニンとEDTA-2Na入りの採血管が使用されます。

・項目:グルカゴン、ANP

除タンパク液入り採血管

・乳酸・ピルビン酸は採血後に全血のまま放置すると上昇するため除タンパクする必要があります。

・除タンパク液としては0.8N過塩素酸が用いられています。

・項目:乳酸、ピルビン酸

遮光採血管

・一部の検査項目は光により分解され低値となる場合があるため、

 遮光された採血管が用いられます。

・コプロポルフィリンの場合、ヘパリンNa入りの採血管が用いられます。

・項目:コプロポルフィリン、ウロポルフィリン、プロトポルフィリン

 

採血検体の遠心条件

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採血検体の遠心条件

血清、血漿を検体とする場合、検体を遠心分離する必要があります。

今回は採血検体の遠心条件について解説します。

※あくまで一例ですので、遠心条件は各施設の規定にお従い下さい。

室温遠心する採血管

生化学検査

採血直後に遠心すると凝固が不十分でフィブリンが析出する場合があるため、

凝固促進剤を含む場合、遠心前に5分間ほど室温放置する必要があります。

・2500~3000rpm/5~10分 (室温)

凝固検査

血小板が血漿中に残存すると、抗リン脂質抗体症候群に関する項目が偽陰性する場合があります。

よって残存血小板数が1万/μL以下となるよう、厳密に条件が定められています。

・1500G/15分 (室温)  ※低温では残存血小板数が増えるため

冷却遠心する採血管

アンモニア

タンパク質の分解、赤血球からの遊離で採血直後からアンモニアが上昇するため、

採血後すぐに提出するか、氷冷保存して提出して、すぐに冷却する必要があります。

・2500~3000rpm/5~10分 (冷却)