ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「じゅんみま」と「みまじゅん」

……NDANDANDANDANDANDAND……
これは確か、民族楽器の演奏家(…という肩書きでいいのかどうか)若林忠宏さんがどこかで聞いた話として紹介していたと思うが、上のアルファベットの連なりを「読んでみてください」と言われると、三通りの読み方(区切り方)があるが、日本の人の多数派はDAN・DAN…と読み、アメリカの人はAND・AND…と読み、アフリカの人はNDA・NDA…と読む、と(「アフリカの人」というのはちょっと乱暴過ぎるくくり方だが)。そういうリズムの世界に暮らしているという話をされていた。そう言われると、DAN・DANのリズムが最も自然な感じがする自分などは、日本の「多数派」なのかと思ってしまう。
 
 一昨日オリンピックの卓球・男女混合ダブルスで優勝した日本ペア。準々決勝でドイツ・ペアに大逆転勝ちした試合をテレビでたまたま見ていたこともあり、決勝での再度の逆転は二度目の驚きだった。昨日の朝からテレビ・ニュースで二人の金メダル獲得がやや過熱気味に報道されていた。同郷でもあるようだし、話題性に富んでいると思うが、ひとつ気づいたこともある。二人の「呼称」が統一されておらず、テレビ局によってちがうのだ。
 水谷隼じゅん)選手と伊藤美誠みま)選手の名前をこの順に並べて「じゅんみま」とするのは、調べてみると、日本テレビ、フジテレビ、テレビ東京。スポーツ紙では、スポニチ、サンケイ、東スポ東京中日スポーツなど。他方、「みまじゅん」としているのは、TBS、テレビ朝日、FNNプライム。スポーツ紙では、スポーツ報知、デイリースポーツなど。そして、NHKはこの「略称」を公式上は使っていない。

 最初に引用した若林さんの話からすると、日本の多数派に受け入れられやすいリズムは「みまじゅん」だろう。しかし、報道の現状ではどちらかというと、「じゅんみま」の方が多い(今後変わっていくかもしれないが…)。しかも、ポイントだと思うのは、NHKはどっちの「略称」も採用していないこと――これは何か変だなと感じた。そして、これには理由があるように思えてきた。

 男女の順、長幼の順を当てはめて、二人を呼ぶと、「じゅんみま」が穏当になるだろう。しかし、これには日本語の自然なリズムとして違和感を覚える人が多いはずだ(「アフリカ」の人には違和感がないかもしれないが)。だったら、「みまじゅん」にすればいいのだが、そこに「男女」や「長幼」の序列意識が差し挟まると、この「自然なリズム」をすんなり受け入れられない。何でわざわざ「みま」を先にするのか、と。そう思う人にとっては、「みまじゅん」の方がよっぽど〝不自然〟なのだ。
 とはいえ、平等と多様性を建前とするオリンピック期間中だけに、この種の問題に世間はいつも以上に敏感になっている。そうでなくとも、開会まで「御難続き」だった大会である。調子に乗って他のメディアに追従して、どちらかの「呼称」を使うと、後で何らかの説明(釈明)が必要になるかもしれないし、場合によっては「めんどうな事態」になるかもしれない。そう気づいたNHKは、先回りしてこの「略称」使用を控えたのでは…。そんな気がした。しかし、ここにも軽微だが根を張る「性差」の意識や構造があるのではないか。

 個人的には、「じゅんみま」でも「みまじゅん」でも、どちらでも(どうでも)いいことだと思うが、時代はできるだけ「性差」をなくす方向で動いているのは確かだ。日本の学校では男が先・女が後の従来の名簿(名票・名表)に替わって男女混合名簿が一般化しつつあり、集会でも男女別に整列するようなことはなくなってきている。この点、スポーツ界にはむしろ「遅れ」が感じられるくらいだ。オリンピックはもちろんのこと、スポーツ界全体で、今後見直さなければならないものが、いろいろと出てくるだろうと感じる人は多い。たとえば、女性選手のユニフォームやコスチュームのこと。

ビキニ拒否の女性選手への罰金、ピンクが肩代わりを宣言「性差別にこそ罰金を」 | ハフポスト

ビキニ拒否の女子ビーチハンド代表に連盟が罰金、米歌手「連盟が性差別」 - BBCニュース

 小生も2000年代くらいから陸上競技の女性選手がヘソを出すようになったのはどうしたことかと思った。それで記録がよくなるのなら「合理性」もあるだろうが、それだったら男性選手も同じようにヘソを出さなければおかしい。先頃は、ビーチハンドボール欧州選手権では、女性選手がビキニパンツで出場しなかったところ、何と「罰金刑」に処せられた(!)。「性的対象」の視線にさらされ、撮影された写真や動画が悪用されて嫌な思いをしている選手から対処を求める声が多く上がっているのに、その誘因をルールで強制してよいはずがない。

 試合開始前に人種差別に抗議するのが許されて、性差別に抗議するのが許されない道理もない。女性からの異議が通るかどうかは男性選手が共感して動くかどうかにもかかっていると思う。男性選手もこれに黙っているべきではない。

性的視点へ抗議のユニタード ドイツ体操女子、足首まで覆う衣装 | 毎日新聞


↓ よろしければクリックしていただけると大変励みになります。


社会・経済ランキング
にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ
にほんブログ村