オタク文化の切れの端

基本的にweb小説を紹介するブログです。普通のラノベも読みます。批評とかもします。たまに一般文芸とか映画の感想とか思ったこととかが入ります。

【小説紹介と雑談】『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』

全員が性格破綻者で構成される、懲罰勇者部隊の刑務記録。
世界史上最悪のコソ泥、詐欺師の政治犯、自称・国王のテロリスト、成功率ゼロの暗殺者――

彼らを率いる《女神殺し》の重犯罪者、ザイロ・フォルバーツは、今日も無茶な作戦に投入される。
その任務の最中、深刻な盗癖を持つ仲間が、一つの死体が入った棺桶を盗んでくる。

……だが、その棺桶の中に入っていたのは死体ではなく、《女神》であった。

いかにして彼らが魔王現象と戦い、また恩赦を勝ち取ったか。

 

おすすめ度☆5

 

 この小説は異世界ファンタジーです。特に転生とかはないハイファンタジーです。

 ざっくり内容としては人類の敵が攻めてきていて、それを一癖も二癖もある人物で構成された懲罰部隊とそれを率いる主人公が無茶な局面を何とかしてくみたいな話しですね。こんな適当に書いたあれより上のあらすじ見てください。そんな感じです。

 この小説のすごいところはキャラクターの個性で地固めされた物語の展開のうまさです。

 この小説は一人称で進んでいくんですが、主人公のザイロ視点からほぼブレない一視点で統一されています。この書き方だと主人公の視点で進んでいくので他のキャラクターはあまり心情描写し辛い問題があります。他の作品だと他のキャラ視点での話を入れたりしてその辺を補うんですが、この小説にはそのあたりの描写がかなり遅くに書かれています。そのまま普通に読んだとして単行本何冊か読んだあたりで、他キャラクターの視点からの話が展開するのです。

 それでまあ上にあるあらすじの通り、結構な独自言語が入ってる上に、ハイファンタジーなので読者にはなじみのない世界を説明するところから始まるわけです。そんな中で序盤に主人公以外の視点が出てこないというのは世界観説明やキャラクターの説明がめちゃくちゃハードになるということです。導入でこいつはこんなキャラだ! ここはこんな世界だ! っていうのをうまくやらないと「なんか説明多いな」とか「つまり……どういうこと?」みたいになりかねません。

 その辺りのめちゃくちゃ難しい塩梅をこの作品は練り上げられたキャラクターの個性と非常に高い筆力でとてもうまく描いています。

 読んでいるとわかるのですがキャラ一人一人の解像度がとても高く、場面場面でこういうキャラなんだというのがはっきり理解できる個性が三人称の小説でも浮かび上がってきます。

 もちろんそういう場面を描いているのもありますが、割と地の文自体は淡白な描写にもかかわらず、キャラクターの個性がここまで浮かび上がるのは、作者の方の高い筆力と非常に練られたキャラクターの高い解像度あってこそだと思います。ぱわーですね。

 元々作者さんはTRPGをかなりやっていた方らしく、そう思ってみるとキャラクターの解像度が高いのも、章ごとの区切り方がキャンペーンっぽいのも納得というか。私の中でTRPG出身者は大体お強いの法則が着々と出来上がりつつあります。

 この作者さんの小説は他にも読んだことがあるのですが、この小説が一番好みですね。あとは文体や内容的にも電撃で出てもおかしくないけど、文庫の方で出るにはちょっと淡白かなーっと思ってたら電撃の新文芸で出ると聞いて電撃の編集さん目ざといなーと思いました。さすがだなー。 

 

 いつも思ってるんですが、あんまり読みたいってなる紹介じゃないですねこれ。ネタバレ防止で私がどこに感銘を受けたかを適当に書いてるのであんまりこれ読んで読もうとはならないかもしれません。おすすめ度だけ見て参考にしてください(無)。

 とりあえずめちゃくちゃに出来がいいのでみんな読んでみてください。面白いので。

 

 

kakuyomu.jp