陰謀論というのは一般的には否定的な意味で使用されていますが、私は陰謀論全体を一括して否定するつもりも、肯定する立場にはありません。実際に私自身も特定の他者からみれば間違いなく陰謀論者に見えることでしょう。

今回は、陰謀論として一括りにされがちな思想・信条を持っている人々を、タイプ別に分類したいと思います。非常に様々なバリエーションがありますので、誰がどのタイプであると断定することは難しいかもしれません。また精密に分類しきれない部分もありますが、少なくとも意見の異なる人間を無意味に同じ考えの存在であると認識することの誤りを指摘することの重要性から分類を試みたいと思います。

人によって、どのタイプの傾向が強いのかは多様で複雑で、厳密に特定の人をどのグループに属するかを断定することが難しい所もあります。


オカルト的観点からの陰謀論


まず、陰謀論を語る上で外せないのが、オカルト情報を重視するグループです。オカルト的観点から陰謀論を論じるタイプにも様々なグループが存在します。

このタイプは科学に批判的か、あるいは信じない、あまり重視しない場合が多いと思います。このタイプは特に古代文明から近未来的なSFなど、比較的幅広く論じることが多いと思います。

また、ニューエイジ運動やサタニズム、あるいは特定の新興宗教を信じている人も一定数おり、布教的な活動にも熱心です。良し悪しはともかく科学的な分析を重視しないのも特徴だと思います。従って反証を重視せずに、自分たちの論理が如何に正しいかというこの点に時間を割く人が多い印象を受けます。




代表的なオカルト雑誌『ムー』

 

Qanon的観点からの陰謀論


アメリカで始まったQanon現象から、Qanonによる情報を元に陰謀論を議論するタイプがいます。大抵の場合、多かれ少なかれ、Qanonによる情報はどのようなタイプでも情報として重視している部分がありますが、中にはQanon運動の参加者として、あるいはエージェントを名乗って活動をしている人たちがいます。

日本でもいくつかの団体が組織されていたようですが、極端な例としては、Qanonが提示する情報に対して一切の疑いを示さない場合や、またQanonが提示する情報とは別に、彼ら独自の理論を展開してそれを拡散している人たちも多くいます。一部のQanon支持者の皇室批判などが日本のQanonに特有の主張の一例として捉えることもできるでしょう。

 


2017年に匿名掲示板に現れたQというハンドルネームから始まった

 

キリスト教的観点からの陰謀論


キリスト教的観点からの陰謀論の歴史は古く18世紀末から続いています。フリーメイソンやイルミナティ批判など、様々なタイプの陰謀論もその根源はキリスト教的観点からみた陰謀論にあると考えることもできるでしょう。このタイプは基本的にキリスト教を前提としており、部分的に科学的観点を度外視するためオカルト的観点からみた陰謀論と部分的に情報を共有します。

インテリジェントデザイン説やフラットアース説などがしばしばこの立場から提示されますが、キリスト教的観点から陰謀論を論じるタイプでもこういった議論には積極的にかかわらない場合もあります。

欧米社会の歴史的な文脈から陰謀論を論じるタイプが全てこのタイプとは言えませんが、歴史的な事実や仮説から提示される情報には現代社会からもたらされる情報では捉えきれないものも多いため、キリスト教的観点から論じられた陰謀論には歴史的な意味で重要な情報が眠っているのは間違いないと思われます。
 

 


フラットアース説は一定数の支持を獲得している

 

科学的観点からの陰謀論


科学と一言で言っても、人それぞれ科学についての考え方が異なるため、一概に科学を重視するタイプがすべて同じような考えだとはいえません。しかしこのタイプを分類的に振り分けることによって見えてくる部分も多いと思います。

科学を重視する場合、現代科学を無批判的に正しいものと考えて論じるタイプもいれば、批判的合理主義の立場から現代の科学についても批判的に論じるタイプもいることでしょう。また、方法論的アナーキズムの立場から、あまり現代科学の仮説そのものを重視しない立場もあると思います。

これらのタイプは誰がどのタイプに属するかを断定することは難しいですが、少なからず、現代において正しいとされている科学的前提は間違っているかもしれないという、科学哲学的前提を提示するタイプとそうでないタイプで分類が可能だと思われます。


政治的観点からの陰謀論


政治的観点から陰謀論を論じるタイプには、それぞれ支持する政党や思想によって信じている内容が異なります。必ずしも次の分類は厳密な分類ではありませんが大きく分けて次のような分類は可能でしょう。

第一に自民党をサポートする保守派、第二に自民党に批判的な保守派、第三に特定野党をサポートするリベラル、第四に与野党ともに批判的なリベラル、第五に日本共産党を支持する共産主義者、第六に中国共産党を支持する共産主義者などがあげられます。自民党の支持・不支持が明確なタイプと、あいまいなタイプ、特定野党の支持・不支持が明確なタイプと、あいまいなタイプなど、中間的な立場も多く見られます。

政治的観点からの陰謀論は主に現代社会の問題についてフォーカスしている場合が多く、一部歴史的な経緯を重視するタイプもいます。

また、Qanon支持者との結びつきが強くない場合が多いのも特徴的ですが、日本のQanon支持者あるいは自称エージェントの多くはリベラル派あるいは共産主義に対して無批判な傾向があり、アメリカと日本でねじれ減少が起こっていると捉えることも可能かもしれません。


利用される陰謀論


陰謀論はメディアや知識人層、あるいは諸外国や諸集団のエージェントにとって様々な利用可能性があります。陰謀論を利用しない手はないでしょう。陰謀論を批判的に論じることでこれらを利用して、自分たちの考えの正当性を主張したり、あるいは批判するのではなく、積極的に陰謀論を展開することで、その支持者を自分たちにとって利益がある方向に導いたりと、陰謀論それ自体利用可能です。

キリスト教・イスラム教・ユダヤ教などのアブラハムの宗教の諸団体、それ以外の宗教の諸団体、オカルト集団、諸国家の情報機関、秘密結社、政治諸団体、反社会的諸勢力、起業家やビジネスマンがそれぞれの立場に利益をもたらすために、あるいはそれぞれの立場を守るために、陰謀論を巧みに宣伝している、あるいは悪用しているという部分がないとは言えないでしょう。

その一方で、これらの団体が、実際に何かしらの真実を提示している可能性もあるでしょう。これらの情報の何が正しく、何が間違っているのか、最終的には一個人が情報を収集し、分析しなければならない部分があります。

とはいえ、日常生活を生きながらこのような活動を行うことには限界があります。そのためにもまず、簡単でもいいので、陰謀論と呼ばれる言説を論理的に分類することが重要ではないかと思います。
 

 



何が正しいかをその時その場で断定するのではなく、ひとまず多様な思想・信条を配置する地図を描くこと、誰が真実を語り、誰が嘘をついているのかを判断するための情報を空間的に配置する作業を行う必要があるのではないかと思います。

 

まとめ


一言で陰謀論といっても、宗教的立場、歴史認識、論理的または科学的観点、現代社会の状況、政治の可能性に関する捉え方は人それぞれ多種多様です。私はそれぞれの陰謀論をすり合わせるためには、この世界がどのような世界なのかを考える方法の在り方の違いを埋める作業が必要なのではないかと考えています。

陰謀論とは世界がどういったものなのかという議論です。ここに世界を私たちがどのように捉えているのかという議論を加える必要があります。

陰謀を議論する上で、私たちが行うことができる議論、行う必要がある議論を発見するためにも、現在存在する陰謀論を情報として収集し、分類する作業というのは非常に重要なのではないかという点を強調することでまとめにしたいと思います。

最後まで目を通していただきありがとうございました。