脳を科学する 自己の脳科学

なんでも確率を求めて曖昧さを嫌うのはなぜなのか?「エルズバーグのパラドックス」の意味を脳科学で探る

2021-11-21

曖昧性回避-A1

確率がハッキリしているものを好み、不確実で曖昧なものを嫌うのはなぜなのでしょう?

 

そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。

 

このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。

 

基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。

 

この記事を読んでわかることはコレ!

  • 曖昧さを回避しようとする「エルズバーグのパラドックス」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。

 

曖昧さを回避しようとする「エルズバーグのパラドックス」

曖昧性回避-1-min

「エルズバーグのパラドックス」の脳科学

  • 脳には確率がわからない不確かなものよりも、確率がハッキリしているものを好み、曖昧な決断を回避しようとする「エルズバーグのパラドックス」が働いています。
  • 世の中は予測できる「リスク」と予測できない「不確実さ」にわけられますが、その境界は不明瞭で混同しがちです。
  • しかし予測できる「リスク」と予測できない「不確実さ」を混同すると時に大惨事が起こり得ます。
  • 予測できない「不確実さ」=「曖昧さ」に耐える「曖昧性回避」を心がけてください。
へなお
みなさんは「エルズバーグのパラドックス(逆説)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

 

多くの人は聞いたことがないかもしれません。

 

しかし知らず知らずのうちに「エルズバーグのパラドックス」にしたがって多くの選択をしています。

 

「エルズバーグのパラドックス」とは、アメリカのハーバード大学の心理学者であり経済学者であるダニエル・エルズバーグ氏が1961年に発表した理論です。

 

エルズバーグのパラドックス

『エルズバーグのパラドックス(逆説)』 Ellsberg paradox

不確実な状況における意思決定に関する逆説で、期待効用理論における独立性の公理に対する反例の1つ。

 

へなじんさん
何を言っているのかさっぱり意味が分からない…

 

多くの人はそう思うでしょう…

 

へなお
では「エルズバーグのパラドックス」を簡単にご説明しましょう。

 

赤玉、黒玉、青玉の3種類の玉が入っている壺(つぼ)があります。

 

壺の中には赤玉が30個、黒玉と青玉が合わせて60個、合計90個の玉が入っています。

 

つまり黒玉と青玉のそれぞれの個数はわからない、という状況です。

 

みなさんには壺の中から球を1つ取り出してもらいますが、その際に次のような選択問題を考えてもらいます。

 

A:赤玉を取り出せば1000円もらえますが、黒玉か青玉を取り出すと何ももらえません。

 

B:黒玉を取り出せば1000円もらえますが、赤玉か青玉を取り出すと何ももらえません。

 

あなたならAとBどちらを選びますか?

 

さらに次のような選択問題も考えてみてください。

 

C:赤玉か青玉を取り出せば1000円もらえますが、黒玉を取り出すと何ももらえません。

 

D:黒玉か青玉を取り出せば1000円もらえますが、赤玉を取り出すと何ももらえません。

 

あなたならCとDどちらを選びますか?

 

多くの人は1つ目の問題ではAを選び、2つ目の問題ではDを選択します。

 

あなたはどうでしたか?

 

しかしこの選択の意思決定は期待効用理論における独立性の法則に反しています。

 

“期待効用の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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へなじんさん
いったいどういうことなのでしょう?

 

基本的に壺から赤玉を取り出す確率は1/3です。

 

この点は問題ないでしょう。

 

そして黒玉か青玉を取り出す確率は2/3です。

 

この点も問題ないでしょう。

 

ではそれぞれの選択問題について考えてみましょう。

 

1つ目の問題では青玉を取り出しても何ももらえません。

 

この点はAとBの両者に共通しているため、この部分は選択の意思決定に影響をおよぼすことはありません。

 

2つ目の問題では青玉を取り出せば1000円もらえる点に関してはCとDの両者に共通しているため、この部分は選択の意思決定に影響をおよぼすことはありません。

 

選択の意思決定に影響をおよぼしているのは赤玉と黒玉の部分です。

 

しかしこの点に関しても1つ目の問題と2つ目の問題では本質的に同じ確率で同じ問題です。

 

赤玉を取り出す確率は1/3で黒球を取り出す確率はわかりません。

 

ですからもし期待効用理論における独立性の法則にしたがうのであれば、1つ目の問題でAを選択する人は、2つ目の問題でCを選択するはずです。

 

Aを選択してBを選択しなかったということは、壺の中に入っている黒球は赤玉の30個よりも少ないと考えているということです。

 

つまり黒玉よりも青玉の方が多く入っていると考えていることになります。

 

それであれば2つ目の問題ではCを選んだ方が1000円をもらえる確率が高くなるはずです。

 

しかし脳はそのような選択はしません。

 

赤玉が30個という確実な情報に振り回されてしまうのです。

 

この矛盾した現象を「エルズバーグのパラドックス」と呼びます。

 

脳は確率がわからないものよりも、確率が少しでもハッキリしているものを好み、曖昧な決断を回避しようとするわけです。

 

予測できる「リスク」と予測できない「不確実さ」

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「エルズバーグのパラドックス」は予測できない「不確実さ」よりも、予測できる「リスク」を選ぶ傾向です。

 

ですから意思決定においては大きな利益を生み出す可能性がある場合でも、不確実で不透明なものはできるかぎり回避して、利益が少なくてもより透明感のあるものを支持しようとします。

 

”意思決定の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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へなお
では予測できる「リスク」と予測できない「不確実さ」ではどのような違いがあると言うのでしょう?

 

「リスク」の場合はものごとが起きる確率はすでに明らかになっていて、あなたはその値をもとにリスクが大きいか小さいかどうかを判断できます。

 

一方で「不確実さ」の場合はものごとが起こる確率を算出することはできません。

 

つまり「リスク」は算出できるのに、「不確実さ」は割り出すのは不可能なのです。

 

へなお
「リスク」と「不確実さ」は似て非なるものです。

 

「リスク」に関する学問は“統計学”として何百年も前から存在し、その学問に携(たずさ)わっている研究者はたくさんいます。

 

しかし「不確実さ」をあつかう学問は存在しません。

 

ですから脳は「不確実さ」をうまく処理できずに時に「リスク」のカテゴリーに押し込もうとしてしまいますが、この2つはまったく異なるものです。

 

たとえば天気予報では「明日雨が降る確率は30%です」といった「リスク」の推測が可能です。

 

ですから多くの人は天気予報を好んでみようとします。

 

しかし一方で「明日大地震が起こる確率は1%です」というのは「不確実さ」でありこのような推測は事実上成り立ちません。

 

脳は「不確実さ」に興味を示したとしても、予測できない「不確実さ」を信じることはなく、予測できる「リスク」だけを信じるのです。

 

「リスク」と「不確実さ」は混同してはいけない

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そうは言っても予測できる「リスク」と予測できない「不確実さ」を区別することはそう簡単ではありません。

 

時には両者が混同されて、誤った意思決定がなされてしまうこともあります。

 

しかし「リスク」と「不確実さ」を混同してしまうと時に深刻な事態におちいる場合あります。

 

たとえば2008年の世界金融危機は「リスク」と「不確実さ」を混同したことが原因とされています。

 

発端はアメリカでサブプライムローンの焦げつきが深刻化したことです。

 

サブプライムローンとは、アメリカの審査の甘く信用度の低い住宅ローンのことです。

 

ローン会社は住宅や車などを担保にして、当初数年間は低めの固定金利を適用したり、利息だけの支払いでよい形をとったりして借りやすくしています。

 

しかしその後は固定金利が変動金利に移行したり、元本の返済が始まったりすることで、月々の返済額が増えるため、所得の増加が見込めない人には不向きな高金利のローンです。

 

アメリカでは長い間、住宅価格が右肩上がりだったことで、購入した住宅の担保価値も上がり、その住宅を担保にして低金利のローンに借り換えることで、多くの低所得者が住宅を購入することができました。

 

そのため多くの人は楽観的な見通しを立てていたので、サブプライムローンは急速に普及しました。

 

サブプライムローンは、所得や信用力の低い人だけではなく、信用力を超えた借り入れを行って不動産投資を行う個人投資家もたくさん利用していました。

 

しかし、2006年にアメリカの住宅バブルがはじけ、ローン債務者は住宅を担保として借り換えができなくなったため、返済不能者が続出しローンの多くは不良債権と化しました。

 

その結果、サブプライムローンの債権を大量に保有していた大手投資銀行のリーマンブラザーズ社は倒産し、それを契機に問題は連鎖的に大手金融機関の経営危機を招き、世界的な金融危機へと発展していきました。

 

へなお
これが有名な“リーマンショック”です。

 

債務者も債券に投資した金融機関も、予測できない「不確実さ」を予測できる「リスク」と勘違いしてしまったわけです。

 

「リスク」と「不確実さ」を混同すると思いもよらない結末が待っているのです。

 

「曖昧性回避」を身につけよう

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予測できない「不確実さ」と予測できる「リスク」を混同することがいかに危険なことかはおわかりいただけたでしょう。

 

ではこの2つを混同しないためにはどうしたらよいのでしょう?

 

残念ながら「不確実さ」と「リスク」を混同しないようにすることはほぼ不可能です。

 

できることがあるとすれば“予測できない「不確実さ」”=“曖昧さ”に耐えることです。

 

へなお
その鍵を握っているのは脳の中の“扁桃体”です。

 

“扁桃体”の主な働きは“危険を察知して赤信号を出す”ことです。

 

何か出来事が起こるとそれが“安全なのか?”それとも“危険なのか?”を扁桃体は瞬時に判断し、危険と察知すると赤信号を点灯させてストップをかけてきます。

 

“扁桃体の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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 “曖昧さ”にどの程度耐えられるかは、扁桃体の働き具合によって決まっていす。

 

ですから扁桃体をうまく働かせて、 “曖昧さ”となんとかうまくつきあっていくしかないのです。

 

“曖昧さ”に耐えられない人ほど保守的な思考を持ち、“曖昧さ”を許容してしまう人ほど大胆な思考を持っている傾向があるとされています。

 

いずれにしても明確な思考をするには、予測できない「不確実さ」と予測できる「リスク」の違いをしっかりと理解しておくことです。

 

実は確率を明確に算出できる予測できる「リスク」はほんのわずかしかありません。

 

多くの場合は予測できない「不確実さ」を持ち合わせているので、わたしたちは常にやっかいな“曖昧さ”と付き合わざるをえません。

 

脳はそんな“曖昧さ”を少しでも回避しようとして「エルズバーグのパラドックス」なる現象が起こるわけです。

 

へなお
みなさんもできる限り“曖昧さ”に耐える習慣を身につけて「曖昧性回避」を心がけてみてください。

 

 

へなお
ぜひ参考にしてみてください。

 

“「エルズバーグのパラドックス」の脳科学”のまとめ

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曖昧さを回避しようとする「エルズバーグのパラドックス」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。

今回のまとめ

  • 脳には確率がわからない不確かなものよりも、確率がハッキリしているものを好み、曖昧な決断を回避しようとする「エルズバーグのパラドックス」が働いています。
  • 世の中は予測できる「リスク」と予測できない「不確実さ」にわけられますが、その境界は不明瞭で混同しがちです。
  • しかし予測できる「リスク」と予測できない「不確実さ」を混同すると時に大惨事が起こり得ます。
  • 予測できない「不確実さ」=「曖昧さ」に耐える「曖昧性回避」を心がけてください。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

 

今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。

 

最後にポチっとよろしくお願いします。

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  • この記事を書いた人

へなお

▶脳神経外科専門医でアラフィフおじさんの「へなお」です。▶日々脳の手術、血管内治療、放射線治療を中心に某総合病院で勤務医をしています▶一般の方でも脳についてわかりやすく理解していただけるように、あなたのまわりのありふれた日常を長年の経験からつちかった情報をもとに脳科学で探っていきます▶多くの方に脳に興味をもっていただき、少しでもこれからの生活の役に立つ知識をつけていただければと思います!

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