生体内の大化学工場

まずは食べないとね...そして出す!

要らない物は捨てないといけません。だって、要らないものを持っていると重たくてしょうがないしゴミだらけになってしまうから。

重いだけなら疲れるのを我慢すればよいのですが、大抵の場合、生物が出した要らない物はそのまま体の中にあると「毒」になってしまいます。だから排泄はとても大事なのですね。

さて、吸収された栄養素が必ず通るのが肝臓でした。言わば代謝の入り口なのですけれど、肝臓の役割はそれだけに留まりません。体内で要らなくなった物質を排泄するためにせっせと代謝活動をする大事な出口でもあるのです。

一言ではなかなか役割を片付けられません。

そこで生物学の教科書などで肝臓について良く書かれているのが「生体内の大化学工場」。この工場の中でありとあらゆる物質が形を変えていくのです。

まずは代謝の入り口から

WEBでの調べ物はみんな上手になりました。お父さんが検索サイトとキーボードの使い方を教えてからいろいろなブックマークが勝手に増えていきます。

様々なジャンルのWEBサイトへとリンクしている、言わば入口となるサイトもあり、ポータルサイトと呼ばれています。

ポータルとは「玄関」の事。すなわちポータルサイトを知っていれば、関連するジャンルのサイトに素早くアクセスできるから知っていると便利なのですね。

体内にもポータルと呼ばれる組織があります。

ポータルヴェインと言いまして、日本語では門脈と呼ばれています。消化管に酸素を届けた血液は心臓へと帰る途中、全てが門脈を通るようにできています。

食事で吸収した栄養素がなぜ必ず肝臓を通るようにできているかと言うと、門脈が肝臓に繋がっているからと言うのがその答えになります。

肝臓は、ご飯・パン・麺類などの食事から摂った糖質を一時的にグリコーゲンの形に変換して貯蔵しておき、必要に応じてこれをグルコースの形に変えて体に供給しています。中性脂肪は長期保存用エネルギーでしたが、こちらはすぐに使える形の貯蔵エネルギーです。

食事性のグルコースの他にも、別の分子からグルコースへと変換する事も出来ます。糖新生と言って食事が肉食中心になって必要な糖質が得られない場合に必要です。

こうした分子の変換機能で血液中の糖分は一定の値に保たれているのですが、この調節がうまく動かず、グルコースが血液中に過剰に出てくると糖尿病と言う病気になります。ですから、肝臓も糖尿病の発症にも関わっていると言う事が出来ます。

肝臓で形を変える分子

エネルギーの基としては、糖質だけではなく脂肪も大事。消化管から脂肪酸と言う形で吸収された脂肪分が肝臓で中性脂肪に形を変えます。

脂肪酸をそのまま血液に乗せて全身に運ぶ事ももちろん出来るのですが、いっぺんに大量に運ぶには中性脂肪の形にするのが効率的です。でも中性脂肪と言うのは油ですから水が主成分の血液とは相性が悪い。

そこで、油を全身に届けるために中性脂肪が肝臓内でタンパク質とコレステロール1と混ぜ合わされ、リポタンパク質と言う大きな塊に形を変えるのです。

テレビの健康番組でHDLコレステロールとかLDLコレステロールと言う単語は聞いたことがあるでしょう。あれはリポタンパク質の種類の事を言っているのです。

HDLコレステロールは全身から脂質を回収して来る時の形。そしてLDLコレステロールは肝臓から全身に脂質を供給する時の形なのです。どちらも体にとっては重要な役割を持っているのですが、LDLコレステロールが「悪玉」なんて呼ばれてしまうのは少しかわいそうな気がします。

さて、糖質と脂質の代謝の他にもタンパク質やアミノ酸代謝も肝臓の役割です。

血液中に最も多く存在するタンパク質であるアルブミンは肝臓が作って供給しています。その部品であるアミノ酸は食事で摂ったお肉や大豆などのタンパク質由来です。

古くなったタンパク質の分解も肝臓で行われますので、その時にできたアミノ酸ももちろん新しいタンパク質の製造に使われています。

また、タンパク質を分解した時には、同時に有害なアンモニアも発生してしまいますのでそうした廃棄物の処理も肝臓の重要な役割なのです。

そして出口へ

廃棄物の処理として量的に最も重要なのがビリルビンの代謝です。古くなった赤血球からできるビリルビンを水に溶け易い形に代謝して胆汁中に排泄しています。これについては後で詳しく紹介します。

胆汁を作り出すのも肝臓の役割です。

コレステロールを原材料にしてに胆汁の主成分である胆汁酸へと変換しています。

胆汁は一旦胆嚢に溜められた後、食事の反射によって十二指腸に分泌されます。 胆汁は油分と相性が良いので、食事に含まれる脂肪の吸収を助けます。

そして、体内に生じた毒性物質の解毒も重要な役割です。

外から取り込まれた薬物や有害物質を解毒(代謝/分解)します。特に肝臓にあるCYP(シップと呼ばれる酸化酵素群)は様々な種類の医薬品を代謝するために医薬品の体内動態を考える上で重要になります。

こんなにも重要な機能が集中していますので、ダメージが蓄積するとその影響は深刻。肝臓はいたわってあげましょう。

ビリルビンと排泄物の関係

骨髄で赤血球が生まれてから、脾臓・肝臓で壊されるまでの寿命はおよそ120日と言われています。生まれる量も死んでいく量もものすごく多いので、日々肝臓は古くなった赤血球成分の処理に追われています。

重要なのが赤血球の中のヘモグロビンと言う成分。ヘムとグロビンからできているからこんな名前です。

ヘムを分解すると鉄とポルフィリンと言う成分になり、ポルフィリンは肝臓の中でビリルビンと言う物質に形を変えます2

ビリルビンは水に溶け難い性質を持っているために排泄するのに都合の良い形に変換されます3。肝臓がビリルビン分子に糖を強引にくっつけてしまうのです4

代謝されたビリルビンは胆汁と一緒に出て行き糞便中に排泄されていきますので、ウンチの色があの色をしているのはビリルビンがたくさん入っているから。特に生後間もない赤ちゃんのウンチの色はとっても鮮やかな黄色をしており、これがビリルビンの本来の色です。

また、新米ママ&新米パパが緑色のウンチにうろたえる事がたまに有りますが、これは腸の中で空気と良く混ざったためにビリルビンが酸化されビリベルジンになった時の色で、大きな問題は有りません。

問題なのは肝臓から胆汁中にうまくビリルビンが排泄されなくなってしまい、血中にビリルビンが溜まってしまった時です。

全身に黄色い色素がばら撒かれるわけですから体が黄色くなります。これが、かの有名な黄疸5と言う現象。

黄疸が出ているのは肝臓がうまく動いていない証拠だから、肝臓のその他の機能もみんなダメになっているに違いないという事で臨床上とても大事な所見なのです。


お父さん解説

  1. コレステロールと言うのは細胞膜の構成成分でもある。
    単一の脂質として量的に最も多く体内に存在するので代謝される量もハンパ無く多く、日々、胆汁酸もたくさん出来上がる
  2. 臨床検査で見かけるT-Bil/D-Bilと言うのはビリルビンの種類の名前で、赤血球が寿命を迎えてヘモグロビンの中のポルフィリンが分解/代謝される時に出てくる中間代謝産物の略称。
    T-Bilは、total bilirubinの略称で日本語では総ビリルビンと呼ぶ。
    D-Bilは、direct bilirubinの略称で直接ビリルビンの事。
    その他にも、indirect bilirubinの略称でI-Bilと言うのもある。
    生化学/代謝の観点からは、ビリルビンと言うのは、ヘムが開環して還元され、ビリベルジンと言う緑色の色素ができた後にさらに還元されてできる黄色の色素の事
  3. 糖がくっつくから水に溶けるようになる。この反応を「抱合/conjugation」と言う
  4. 血中には抱合されたビリルビンと抱合されていないビリルビンの両方が混在している。
    抱合されたビリルビンの事を臨床検査法による分類の都合で直接ビリルビン、抱合されていないビリルビンの事を間接ビリルビンと言う。そして両方を足し算したのが総ビリルビン
  5. 黄疸:真っ先に白目の部分でわかるのでお医者さんはそこを見る。もし肝障害が起きて黄疸が出そうな時には、ビリルビンは尿中にも出てくる
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