劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

「詞」――歌われるための文学~オペラおよび歌曲を中心として⒇(終)

2022年10月30日 | オペラ
 クラシック音楽界で活躍する人材によって結成されたオペラカンパニーによる『雪女の恋』(東京文化会館小ホール/2019年2月)以前に、主宰していた「演劇ユニット 東京ドラマポケット」では、公演vol.2『Shadows<夏の夜の夢>に遊ぶ人々』(北沢タウンホール/2010年8月)、公演vol.3『全体演劇 わがジャンヌ、わがお七』(両国・シアターχ/2012年8月)において「コロスドラマ」を上演しているが、これらは全てオペラや演劇作品の一翼を担う役割としての「合唱」であった。
 
 筆者はこれらの実践とは別に、合唱を単独で前面に押し出す試みを「劇的表現の一環」として行っている。「言葉の音楽」というモチーフで、詩作品をいわゆる朗読形式ではなく演劇的に表現するパフォーマンスである。
 ある試演会では、N.ヒクメットの『死んだ女の子』(訳:中本信幸)を取り上げた。音域の異なる3つのグループを設定し、メロディを付けずあくまでも言葉としての強弱(フォルテシモ~ピアニシモ)・高低・硬軟・上昇下降(クレシェンド/デクレッシェンド)・直線的・放物線的という多様な<合唱表現>を目指し、そのために原詩をもとに上演台本を作成した。その一部は以下の通りである。

 開けてちょうだい たたくのはあたし
 あっちの戸 こっちの戸 あたしはたたくの
 こわがらないで 見えないあたしを 
 だれにも見えない死んだ女の子を
―――――――――――――――――――――
開けてちょうだい
開けてちょうだい 
開けてちょうだい 
開けてちょうだい
たたくのはあたし たたくのはあたし
あたし あたし あたし

あっちの戸 こっちの戸 
あっちの戸 こっちの戸 
あたしはたたくの 
たたくの たたくの たたくの
こわがらないで 見えないあたしを 見えないあたしを
だれにも見えない死んだ女の子を 女の子を 女の子を
―――――――――――――――――――――――――
 3つのグループは、一カ所に固まりまた分散し立体的に交差する。ヒロシマで亡くなった少女になりきって、叫ぶのではなく語り掛け、目線や表情を変える。ソプラノ・メゾソプラノ・アルトの音声が厚みのあるポリフォニーを生み出す。

 さて、クラシック音楽に戻ろう。
 独唱や重唱とは全く異なる合唱の魅力、合唱表現の可能性は幅広くあるだろうが、筆者にとっては、以上のような「言葉の音楽」の試みを発展させた「合唱による音楽作品」の創作に関わりたいと考えている。「合唱」の存在価値を高め、独自の音楽表現が誕生することを念願している。

(写真:新宿混声合唱団)

 合唱(がっしょう)は、複数の人が複数の声部に分かれて各々の声部を複数で歌う声楽の演奏形態のこと。器楽における「合奏」の対語でもある。クワイア(choir)、コーラス(chorus)とも呼ばれる。※出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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