フルータリアンの備忘録

フルータリアンとは、果物を主食にしているベジタリアンのことです。人間は果食動物? 果食動物で死ぬ?

世界一の長寿民族は"燃料の乏しい"地域に住んでいた――90 年前のフンザ人に学ぶ

2021-03-29 | 20 世紀に学ぶ
■ ますます想像力の狭まる世界へ突入

2021 年を迎え、健康的な食事に関する想像力がますます狭まる世界へ突入したと感じています。
世界中から長寿民族が消滅しようとしているからです。
20 世紀後半、外部から現代的な食品がもたらされるようになり、長寿民族の短命化が始まりました。
最終的には長寿民族・長寿文化自体も消えてしまうのではないかと危惧されていましたが、今、それが現実になろうとしています。

それに相まって、フィールドワークをベースにした長寿研究も少なくなっています。
長寿民族の近くにはいつも、その健康の秘密を解き明かそうとする医師がいました。
このような医師は、「病気とは何か」よりも「真の健康とは何か」について強い関心を抱いていた人たちです。
彼らのおかげで、大衆は「真の健康」に対する想像力を膨らませることができました。
長寿文化が世界中から消えようとしている今、それを研究する医師もいなくなり、
「真の健康とは何か」に対する想像力がますます失われようとしています。

しかし、私たちは幸いにも 20 世紀の長寿研究から学ぶことができます。

長寿研究の話しになると「そこまでして長生きしたくない」という声も聞こえてきそうですが、「命の長さ」自体はそれほど大事ではありません。
西洋の研究者たちが長寿民族を知って驚いたのが、癌・心臓病・糖尿病などの生活習慣病が極めて少なかったということです。
長生きしたくないという人も、さすがに癌や糖尿病になっても構わないという人はいないはずです。

また「日本は統計的には世界一長寿なのだから、もう十分なのではないか」という人もいるかもしれません。
しかしそこには統計上のからくりがあります。
日本は、新生児死亡率および乳児死亡率が世界最低水準であるため、それが原因で平均寿命が押し上げられています。
本来は平均寿命まで生きる予定の人が、新生児または乳児の段階で亡くなってしまうわけですから、当然、新生児死亡率・乳児死亡率は平均寿命の統計に大きな影響を与えます。
既に成人した人が残り何年生きるかという観点で見た場合、実は他の国とさほどの違いはありません。
生活習慣病が当たり前のように蔓延しており、生活実感としても、日本が長寿であることを実感できない人が多いのではないでしょうか。

フルータリアンの食生活に関心がある人にとって、最も興味深いのが、世界一の長寿民族と言われたフンザ人でしょう。
パキスタン北部、7,000 メートル級の高山に囲まれ「世界最後の桃源郷」と呼ばれる秘境にフンザ人は暮らしていました。
肥満になる人はおらず、生活習慣病とも無縁で、老いてもなお若者たちと同じように労働に励んでいたと言われています。
フンザ人はいったいどのような食生活を送っていたのでしょうか?

今から約 90 年前、1930 年代に行われたフンザ人の食生活調査
(『健康の輪――病気知らずのフンザの食と農』、著者:G.T.レンチ、出版社:日本有機農業研究会)
を参考にしながら、6 つのポイントにまとめたいと思います。

■ フンザ人の食生活 6 つのポイント

(1)食事に占める動物性食品の割合はわずか 1 パーセント

日常的には肉を食べず、特別な日のお祝い事などの際に肉が振る舞われる。
肉を食べる頻度は、1 週間に 1 度程度。
社会的地位によっては、1 ヶ月に 1 度しか肉を食べない者もいる。
牧草地に適した土地がないので、畜産自体が難しい。
肉以外では、家畜の乳から作った発酵ミルクが飲まれている。
鶏は農地を荒らすため、飼われていない。
よって、卵は食べない。

食べている動物性食品は肉と乳製品であるが、食事に占める割合はわずか 1 パーセントである。
これら極少量の動物性食品がフンザ人の栄養状態にどのような影響を及ぼしているかは不明。
ビタミン B12 の補給源であるとの見方もあるが、それにしてはあまりにも少なすぎる量である。

(2)食事の 99 パーセントが植物性食品

小麦、大麦、エン麦などの穀類を食べる。
穀物の大部分が粉になるように挽き、塩と混ぜて、全粒粉のパン「チャパティパン」を作って食べる。
チャパティパンには、ヒヨコ豆やグリーンピースなどが混ぜられることもある。
この全粒粉のパンが、フンザ人の健康に大きく貢献していたと考える研究者は多い。

さまざまな葉物野菜、根菜類が食べられている。
果物もよく食べられている。
ヒヨコ豆などの豆類もよく食べられている。
じゃがいもなど芋類は、1890 年代に外部からもたらされて初めて栽培されるようになった。
ブドウで作ったワインも飲まれている。
米は食べない。
お茶は飲まない。

(3)砂糖、精製された穀物、加工食品を食べない

砂糖は食べない。そもそも精製する技術を持ち合わせていない。
精白小麦粉などの精製された穀物は食べない。穀物はいつも全粒粉の状態で食べられる。
現代人が常食している加工食品類、つまり、砂糖・精白小麦・油脂類などを用いて加工された食品類を食べない。

(4)燃料が乏しいがゆえに、生食率が非常に高い

燃料に乏しいという理由で、野菜の大半は生で食べられ、豆類も発芽させてから食べる。
野菜を蒸すこともあるが、少量の水で蒸し、野菜自身の水分も活かすようにして蒸す。野菜の煮汁は捨てずに、食される。

「野菜は、特に燃料が乏しいという理由で、生で食べられる場合は生で食べている。
彼らは、生の若いトウモロコシ、若葉、人参、カブが好物で、豆類は、まるで鮮度を崇拝するかのように、発芽させて食べたり、双葉 (first green) を食べたりする。、、、」
(『健康の輪』141 ページより)

(5)果物が豊富で、家畜や犬さえも果物を食べている

アプリコット、メロン、桃、ナシ、プラム、ブドウ、イチジクなど果物が豊富に採れる。
フンザ人にとって果物は主食とも言える。

「フンザの食事の大きな特徴は、果物を食べる量が多く、夏には新鮮な物を、他の季節は乾燥した物を、それだけで食べたり小麦のケーキに入れて摂ることだ。
フンザにはたくさん果物があり、家畜でさえ、果物食になっており、ロバ、牛、山羊が、落ちた桑の実を食べている。犬も果物を食べていて、、、」
(『健康の輪』31 ページより)

(6)主な保存食はドライフルーツ

フンザでは、ドライフルーツが主な保存食である。
特に、アプリコット (あんず) を大量に天日干しにして、秋・冬に備える。
食料に乏しい冬には、このアプリコットだけで一日を過ごすこともあった。
食糧自給という観点からは極めて危険な状態だが、
これが小食効果とデトックス効果をもたらし、長寿につながったとの見方もある。


現在でも、フンザの天日干しアプリコットを購入することができます↓

酸味と甘味のバランスがちょうど良くて、飽きない感じです。
私は、普段ドライフルーツを食べないのですが、
長時間の移動を伴う旅行やイベント事などの際には、前もって大量のドライフルーツを用意しておくことがあります。

■ 道路が建設された途端、短命化が始まった

フンザには肥満の人は全くいませんでした。
現代人は、肥満率ゼロの社会集団を想像することができるでしょうか?
もし、そのような社会集団が現実に存在したら、総じてネガティブな反応を示すはずです。

「みんな痩せていて、栄養が足りていないのではないか」
「きっと早死にが多いのだろう」

中には、専門家の研究を持ち出してきて「小太りぐらいがちょうど健康に良いのだ」という人もいるでしょう。

しかし、現代人が絶対に忘れてはならないことは、フンザの世界に近代食が流入し始めた途端、短命化が始まったということです。

1970年代、パキスタン政府によって外部につながる道路が大々的に建設され、フンザの若者を中心にして、
缶詰食品、菓子類、精白小麦粉食品などが知られるようになりました。
これらの食品が当たり前になるほど、それまでには見られなかった病気が現れるようになりました。

何千年もの間続いてきた長寿文化が、驚くほど速く変容を遂げていくのは悲しいものがあります。
若い世代ほど伝統的な食生活を捨て去っています。
そして、何よりも悲しい現実は、親よりも先に子や孫が亡くなってしまう「逆さ仏」が多く起こってしまったことです。
この「逆さ仏」は、今、沖縄で現実に起こっていることです (沖縄も 20 世紀に世界的な長寿地域として知られていました)。

■ プラス思考じゃなくたっていい、孤独でもいい、でも体は正直

長寿研究の中には、「前向きでプラス思考であること」「コミュニティに属していて孤独ではないこと」などの心理的要素に重きを置く研究も多くあります。
しかし、私はこれらの心理的要素が健康・長寿にもたらす効果はかなり小さいと思っています。

驚くほどプラス思考で勇敢な精神の持ち主でありながら、若くしてガンなどで亡くならざるを得なかった人達を
現代社会は嫌というほど目撃しています。
また、多くの人に愛されて孤独とは無縁でありながら、病に倒れてしまう人は後を絶ちません。

「プラス思考であること」を強調し過ぎて問題になることは、影のある芸術家タイプの人格が排除されてしまうことです。
芸術家など、才能のある人ほど、光と影の両面を持ち合わせているものです。
また「孤独ではないこと」を強調し過ぎると、孤独と向き合って内的に成長するチャンスが失われてしまうこともあります。
何か大きなことを成し遂げる人ほど、孤独な時間を大切にしているものです。

どのような心持ちでいるにせよ、体がいつも資本になります。
体だけは驚くほど正直に日々の食事から影響を受けています。
フンザの長寿研究が示していることは、生涯健康であり続けるためには日々の食生活がいかに重要かということです。

最後に、フンザ人が世界一の長寿民族であった理由を以下のようにまとめたいと思います。

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独自の有機農業を発達させ、果物・野菜・豆類・穀物に恵まれた。
食事に占める植物性食品の割合は 99 パーセントである。

砂糖や精製された穀物は食べず、いわゆる現代的な加工食品は存在しない。

燃料が乏しいがゆえに、生食に頼ることが多かった。
野菜は生で食べることが多く、豆類は発芽させてから食べる。
果物も、そのまま食べるか、天日干しにして食べるかで、調理されることはなかった。

「豊富な植物性食品に恵まれながら燃料に乏しいという希有な環境に住んでいたこと」、
そして
「外部から閉ざされていたため現代的な加工食品が流入しなかったこと」、
この二つの要素がフンザ人を世界一の長寿民族にした。
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3 コメント

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Unknown (フルータリアンになりたい)
2021-04-04 12:30:42
はじめまして。
フルータリアンの食生活をしたいのですが、仕事が重労働で、フルーツだけだと吐き気や倦怠感に襲われてしまいます。
これはしばらく耐えれば乗り越えられる好転反応なのでしょうか?
ナッツを食べると吐き気などは無くなります。
Unknown (管理人)
2021-04-04 16:59:16
コメントありがとうございます。
吐き気や倦怠感は、好転反応の典型的な症状としてよく挙げられていますよね。好転反応は個人差が結構あるみたいで、私の場合ははっきりした不快感を経験しませんでした(ただ、大量の便が排泄されてビックリすることがありました)。私の場合、ヴィーガン→ローフードの導入→フルータリアンと、段階を経て少しずつ食生活を変えていったので、はっきりした好転反応がなかったのかもしれません。
果物重視のヴィーガンから始めて、少しずつ変えていくというのもいいかなぁとは思います。そういう意味では、この記事にあるようなフンザスタイルの食事(果物多めのヴィーガン)から始めるのもよいのかもしれません。フンザの人たちも、それなりの重労働をこなしていたものと思われます。
今まで普通の食事をしていた人が、フルーツベースの食事を始めたときに、おそらく体重の減少があるかと思います。
この体重の減少がある初期の期間は、好転反応を伴う可能性が高いのかなと思っています。
この体重の減少が止まって、ある体重で安定する時期が来ると思いますが、その頃には不快感がかなり少なくなっている、というのが私の予想です。
Unknown (フルータリアンになりたい)
2021-04-05 12:56:37
なるほど!そうかもしれません!
ありがとうございます。
現在、ヴィーガン歴は約8年で、最近は果物中心のヴィーガン生活です。
果物やナッツだけだとガッツリ体重が減りますが、休日に炭水化物や油物などをドカ食いしてまた体重を戻したりを繰り返していました。
穀物などへの未練も無くなってきたので、安定するところまで体重を落としてみようと思います!

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