ペルーの大統領選は16日に1回目の開票が全て終了し、前回の記事でもお伝えしたように

1位は得票率19.098%で急進左派で小学校教師のペドロ・カスティーヨ氏 

2位は得票率13.368%で中道右派で、政治家のケイコ・フジモリ氏

と確定しました。ちなみに

3位は11.699%で右派で実業家のラファエル・アリアガ氏

4位は11.593%で中道右派で経済学者のエルナンド・デ・ソト氏

と続きます。

これで一回目の開票作業が全て終了しましたが、過半数の得票を得た候補がいないため、6月6日に再びフジモリ氏とカスティーヨ氏による決選投票が行われます。


それでは決選投票に進むことが確定した2名の候補者のうち、今回は1位通過したペドロ・カスティーヨ氏のプロフィールをご紹介します。


ペドロ・カスティーヨ氏とはどのような人物か

ペドロ・カスティーヨ氏(JNE候補者データより)

ペドロ・カスティーヨ氏はペルー北部のカハマルカ州出身で、1969年生まれの現在51歳。
大学では教育学及び教育心理学を専攻し、卒業後は現在まで故郷であるカハマルカ州の人口約400人の村で小学校教師として働いています。
また、彼は地元で20年以上ロンデーロとしても活動していたそうです。
※ロンデーロ(Rondero)とはロンダス・カンペシーナス(Rondas Campesinas)という農村の自警団のメンバーのことで、もともとは牛泥棒などの対策のため組織されたものでした。80年代には山間部で極左武装テロゲリラから地域を守るため全国で組織され、国から武器の提供を受け武装し地域を守っていました。テロの脅威が去った現在も農村部各地では治安維持のため活動しています。

そんな小さな村の教師の名を全国に知らしめたのは、2017年に発生した教員関係者による大規模なストライキです。彼はペルー教育労働者統一連合(SUTEP)という全国規模の労働組合から派生した「SUTEP再建全国委員会(CONARE-Sutep」という派閥のリーダーとしてストライキを主導しました。
SUTEPが政府と教師の給料を引き上げることで合意し、ストの中止を呼び掛けても、カスティーヨ氏が主導するCONAREは強硬な主張でストを呼びかけ続けました。結果、2か月以上にわたって一部でストライキが続きました。
彼が求めたのはCONAREを正式な労働組合として政府に認めさせることと、教師の評価制度を中止することでした。政府はその点に対しては譲歩せず、結果的にカスティーヨ氏らの要求は通りませんでしたが、「政府と戦う労働組合のリーダーとしてのカスティーヨ氏」というイメージが広がるには充分な出来事でした。

しかしカスティーヨ氏が率いていたCONAREは、その設立にセンデロ・ルミノソの政治フロント団体とみられている「基本的権利と恩赦の為の運動MOVADEF)」の関与が疑われています。
センデロ・ルミノソその残虐さから南米のクメール・ルージュとも呼ばれ、80年代から90年代初頭にかけてペルーを震撼させた毛沢東派の極左武装テロ組織のこと

MOVADEF(モバデフ)ロゴ

MOVADEF
は、センデロ・ルミノソの創始者アビマエル・グスマン受刑者(終身刑で服役中)の弁護士が設立した団体で、ペルー国家警察のテロ対策局によると、アビマエル・グスマン受刑者の「指示のもと」設立されたとする証拠があるとしています。

事実この団体は、武力闘争による権力の奪取を目指し活動した市民・警察・軍人などの釈放を求める活動をしており、アビマエル・グスマン受刑者の開放も求めています。

ゼネスト当時の内務大臣であったカルロス・バソンブリオ氏によると、「MOVADEFは設立時から教職員組合への浸透を目指しており、教職員ストライキを主導する派閥の1つであるCONAREの設立を推進したのもそのためだろう。」と主張しています。

SUTEPの報告によると、ゼネスト翌年の2018年5月26日、CONAREの総会にて、カスティーヨ氏とMOVADEFの創設者や、アビマエル・グスマン受刑者の弁護士たちが一堂に会してる様子が写真付きで報告されています。
SUTEP主流派組合員教師の多くは、左派・共産主義思想がありつつも、センデロ・ルミノソの思想・活動は拒否しており、そのフロント団体とみられるMOVADEF構成員の組合への浸透に危機感を抱いています。ちなみにこのSUTEPの主流派ペルー共産党「パトリア・ロハ」は、同じく大統領選へ出馬し6位だったベロニカ・メンドーサ氏の支援団体です。

ただ、カスティーヨ氏は自身がテロと戦ったロンデーロだったとして、センデロ・ルミノソMOVADEFとのつながりを否定しています。
しかしカスティーヨ氏とMOVADEF(またはそのメンバー)との関係がどのようなものかはともかく、「全く関係が無い」とすることは無理があるように思えます。カスティーヨ氏自身がセンデロ・ルミノソのような危険な思想・イデオロギーを持っていないにしても、MOVADEFとの繋がりは彼にとってマイナス要素でしょうし、国民への明確な説明をするべきでしょう。

また、現在カスティーヨ氏はFENATEPERÚという新たな労働組合を創設し、その代表者としても活動しています。
このFENATEPERÚも、CONAREと同様にMOVADEFとのつながりが指摘されています。


所属政党はペルー・リブレ(PERÚ LIBRE)党
カスティーヨ氏はペルー・リブレ党から大統領選へ出馬していますが、このペルー・リブレ党は元フニン州知事のウラディミール・セロン氏が創設した政党です。ちなみにセロン氏はフニン州知事時代に汚職で有罪判決を受けています。
セロン氏は今回の大統領選で副大統領候補としてJNE(全国選挙審議会)に届け出ましたが、汚職の執行猶予中を理由に拒否されています。
ウラジミール・セロン氏

セロン氏はペルー・リブレ党ホームページにて「ペルー・リブレ党は、社会主義・マルクス主義・レーニン主義・マリアテギ主義政党である。」と述べています。しかし「共産主義」というワードを避ける傾向があり、あくまで「社会主義」であるとしています。 
※マリアテギとはラテンアメリカの左派に大きな影響を与えた、ペルーの思想家。様々な左翼運動の象徴として、彼の思想とは程遠いセンデロ・ルミノソを含むあらゆる左派政治勢力が彼の名を使っています。

マルクス、レーニン、マリアテギは全て共産主義者なのですが…笑
とにかく急進左派で、社会主義を目指すことは間違いないようです。

あと、最近セロン氏が「左派が政権を維持する時が来た」「選挙に勝つことは革命的な行為に過ぎず、革命ではない」などと断言するビデオ会議の映像がインターネット上を騒がせています。

動画でのセロン氏の発言を一部抜粋しますと
「革命的行為はあるかもしれないが、それは革命ではない。革命的行為は政権を勝ち取ることはできるが、それは革命ではない。それは権力ではない【中略】選挙によって政権を獲得するというプロセスは、権力の歯車を形作る一つの要素に過ぎないということでだ。【中略】では、左派が学ばなければならないメッセージとは何か。政権を握った左派もまた、権力を維持しなければならないということだ。【中略】そして、それはベネズエラが行ったことだ。」

これを聞く限り、セロン氏は民主主義よりも権力の維持を尊重している方なのでしょう。
権力を維持するために、ベネズエラのように民主主義が全く機能していない国を目指すということでしょうか?
確かにペルー・リブレ党のホームページを見ると、外交政策に関しては自らを国際主義者、反帝国主義者とし、キューバ、ニカラグア、エクアドル、ベネズエラ、ボリビアなどの「革命的」左派政権を支持しています。

また、4月20日には元ボリビア大統領のエボ・モラレス氏が自身のツイッターで自身とカスティーヨ氏のツーショット写真と共に
「ペルーのペドロ・カスティーヨ氏は、私たちと同じようなプログラムを持っており、敬意と賞賛を表します。彼は平和で文化的な民主的革命を行い、天然資源を守り、社会的正義を実現するため、人々の利益のために制憲議会を推進しています。
ラテンアメリカ・カリブ地域の社会運動や先住民族運動は、私たちの要求のために戦い、奔走するだけでなく、構造的な変化を実施することを特徴としています。ペルーの変革を提案するペドロ・カスティーヨ氏に成功を。」
とエールを送っています。

また、La Republica紙の報道によると、ペルー・リブレ党選出のとある国会議員がテレビやラジオ番組を放送前に「評価」し、「クズ番組を排除しなければいけない」と述べた、とあります。
これはメディアへの「検閲」にあたり、表現の自由を侵害する可能性がある、とジャーナリストや有識者などから懸念の声が上がっています。
そこで実際にペルー・リブレ党の政権計画を見てみると、28ページに「『クズ』番組の排除」との項目があり、「一部のテレビ、ラジオが若い世代の心を歪めてしまっており【中略】テレビやラジオの放送前に教育文化省がその内容を評価し、ペルー社会の道徳や善良な慣習に反することがないようにしなければなりません。」と書かれているので、メディアの規制はペルー・リブレ党の政府政策として進めていく意向のようです。

カスティーヨ氏の政策
GESTIÓN紙報道によると、カスティーヨ氏は自分が大統領になったら教師としての今の給料を維持し、さらに国会議員や大臣の給与を半分にすると主張しています。また教育予算の拡充も主張していますが、GDPの10%を教育予算に充てる、という現実的にはおよそ実現不可能な主張をしています。

また、カスティーヨ氏は憲法の改正を主張しており、憲法改正のために制憲議会を招集し、共和国議会がそれを受け入れなければ共和国議会を閉鎖するとも述べていました。
また、憲法裁判所が憲法改正のプロセスに反対した場合、憲法裁判所を停止するとも主張しています。彼の言葉によると、憲法裁判所の判事たちは「すべての権利を終わらせ、国を略奪した憲法」を守っているからだそうです。そして、議会ではなく「国民の協議」によって選出された新しい憲法裁判所の創設を約束しています。

しかし、元憲法裁判所長官のオスカル・ウルビオラ氏は
「ペルーでは、(憲法改正プロセスに)2つの方法があります。1つは、共和国議会の絶対多数で承認された後、国民投票で批准されるという方法。もう1つは、同じく議会を起点とするプロセスで、2回の通常議会で承認されるものです。それ以外の選択肢は、我々の憲法では想定されていません。」 

と述べており、このような超法規的措置は、「クーデターが発生した場合など、憲法秩序が不規則または崩壊した段階から抜け出すため」だとも付け加えています。つまり制憲議会といった組織の招集は、「極めて限定的な状況で与えられるもの」という認識のようです。El Comercio紙


つまり、カスティーヨ氏とペルー・リブレ党が主張する「制憲議会」による憲法改正のプロセスは、現憲法に基づいたプロセスではないので、はたして憲法裁判所が認めるのかは疑問です。
そのプロセスにこだわるなら、まずは「制憲議会」による憲法改正のプロセスを現憲法で定めるための憲法改正をする必要があるのでは…。


また、経済政策としては鉱業、石油、ガスなどの分野でペルーの資源が「不当に搾取」されているとし、これらの経済分野の企業が新たな交渉条件を受け入れない場合、国有化も示唆しています。
事実、ペルー・リブレ党のホームページを見ると「企業が交渉条件を受け入れない場合の措置として、鉱業、ガス、石油、水力エネルギー、通信などの分野で国有化を進めるべきである」と書かれています。

このようにカスティーヨ氏及びペルー・リブレ党は政治・経済的にかなり「急進的左派」と言えます。しかし彼は、教育におけるジェンダーの平等同性婚安楽死および中絶反対しているという社会的には保守的な思想を持っているという点が、他の左派政党とは大きく異なっている特徴です。



カスティーヨ氏とペルー・リブレ党の主張を見ていると、ベネズエラにおける「21世紀の社会主義」を掲げた故チャベス元大統領の権力掌握の方法を明らかに模倣しているように感じます。

というのも、ベネズエラでは故チャベス元大統領が憲法改正を訴え、憲法に規定されていない「制憲議会」が作られ、その「制憲議会」がその権限を憲法改正だけに限定せず、旧憲法下での国家権力を超越した権力を自らに与え、共和国議会や最高裁への介入を始めました。
その後、新憲法が国民投票で承認されると、「制憲議会」は「移行体制」という名目で旧憲法下の全ての国家権力(共和国議会・最高裁・選挙管理員会 etc.)の解散または無効を宣言しました。
このようにチャベス政権は「制憲議会」を権力集中のための道具として使い、チャベス氏の後継者で現在ベネズエラを支配しているニコラス・マドゥロ氏まで20年以上「チャベス派」が権力を維持しています。
そこから、貧困率が9割を超え、400万人以上が難民として祖国を離れなければ生きていけない状況という現在の悲惨なベネズエラが出来上がってしまいました。


チャベス政権は、国民投票によってこれらの「民主主義制度への攻撃」を進め、権力の集中が起こったのですが、ベネズエラ難民が社会問題となっており、ベネズエラという国の惨状をよく理解している国民が多いペルーで、果たして同じことが起き得るのかは疑問です。
しかも、皮肉なことにケイコ氏の父であるアルベルト元大統領が「自主クーデター」によって憲法を停止し、共和国議会を解散させるという明らかな「民主主義への攻撃」を行ったというペルー国民の多くにとっては二度と経験したくないであろう「前例」があるんでね…。笑

ただ、憲法改正をしてはいけない理由は全くないので、多くの国民の支持のもと、より良い憲法に変えるのは何ら問題ありませんが、ベネズエラで起こったように制憲議会が政権による「権力確立の道具」とならないように気を付けなければいけませんね。

しかし、カスティーヨ氏は現在のベネズエラを民主主義が機能しているとし、「現在の問題はベネズエラ国内で解決すべきだ」という認識をもっており、カスティーヨ氏が勝利した場合、ベネズエラで起こったような「民主主義制度への攻撃」の危惧は拭えませんね…。

カスティーヨ氏の強み
ペドロ・カスティーヨ氏の強みは、既存の政治体制に縛られていない「アウトサイダー」としての性格でしょう。
カスティーヨ氏の対立候補であるケイコ氏の父、アルベルト・フジモリ氏も日系人で学者という既存の政治勢力とは異なる「アウトサイダー」として、1990年の大統領選挙でノーベル文学賞作家のマリオ・バルガス・リョサ氏を破りました。ペルーは、「弱い多数の政党が乱立するという政治的不安定さ」と、「地域や人種に基づく階級間の深刻な分断」という状況が、ペルーの大統領選挙における「アウトサイダー」の台頭を促しており、選挙戦のたび毎回のように現れています。

汚職が蔓延しているペルーの政治に対して、ペルー国民は不信感というよりも、もはや「失望」しており、政治家としての経歴や信用を失った政治家層とのつながりがないというカスティーヨ氏の「アウトサイダー」的性格が有利に働いていることは間違いないでしょう。ケイコ氏が資金洗浄の罪で起訴されているという点からも、これは大きなアドバンテージになると思います。


また、ペルーの「分断」という部分も選挙戦を理解する上で重要な視点です。
ペルーは近年、比較的安定した経済成長を成し遂げていましたが、地域間、特に「都市部」と「農村部」との格差は依然として大きく、都市部に住んでいないペルー国民の多くは経済成長の実感をあまり感じることができておらず、自分たちが「取り残されている」と不満を感じています。
リマ出身で、日系人というケイコ氏よりも、地方のカハマルカ州の農村部出身で、現在もそこで生活しているカスティーヨ氏の方が、こうした不満を持つ層から「自分たちを代表しており、自分たちに利益をもたらしてくれるのでは」との期待が集まっていることは間違いないでしょう。

また、これはカスティーヨ氏の強みではないのですが、ケイコ氏は「反フジモリ派」には徹底的に嫌われており、「相手が誰であろうとケイコ氏には投票しない」という層がけっこう存在しています。笑
これはカスティーヨ氏にとってかなり追い風になっていると思います。逆にケイコ氏以外の中道右派候補が決選投票に進んでいれば、その候補が確実に勝利したのではないかと思ってしまいますね…。笑



2人の解説を書こうと思っていたら長くなってしまったので、
ケイコ・フジモリ氏の解説は次回、「ペルー大統領選 その4」にてご紹介します。笑



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