yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

x=1は「xが1である」ということなのか?

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場合によりますが,「xに1を代入したときにのみ真になる条件だ」という意味であって「xが1である」という主張ではないと考えることもできます.
詳しく書いてみます(長い・・・).


xについての2次方程式x^2+x-2=0を解くと
 x^2+x-2=0
 (x-1)(x+2)=0
 x=1,-2
となります.


「xは1か-2なんですよね?」


そう生徒に聞かれたら,何と答えますか?


これが実話で,この文章のモチベーションです.
かなり難しいと思います.
実は中1に言われて,何と説明して良いか,けっこう大変でした・・・

結論は,「違うよ」です.

「未知数」と「変数」の違いと言えるのかも知れません.

ここでも大事になるのは,「命題」と「条件」の違いです.

先日書いた「x=1,-2における“,”は,
・数をつなぐものと見たら「と」
・条件をつなぐものと見たら「または」
です.つまり,順に
 「xとして適するものは1と-2である」
 「xは1であるか,または,xは-2である」
に対応します.
どっちでも構わないと思います.

大事なことは,
 x^2+x-2=0 …①
を成り立たせるような数が「1と-2」であり,条件①を要素の列挙として書き直すと
 x=1またはx=-2 …②
という条件②になるということ.

「解く」とは,「解全体の集合」を求めること!
「解」とは,「代入したときに方程式を成り立たせるもの」.
まさに,方程式を「条件」として見ていますよね.
(条件は,変数に数値を代入するごとに命題になるもの)
(命題は,真偽の確定する数学的な文や式)
なお,解全体の集合のことも「解」と言うのが,少しややこしいです.

つまり,「解く」というのは「①⇔②」を考えている“だけ”だということ.
・xに1を代入したときは①が成り立つ
・xに-2を代入したときは①が成り立つ
・xにその他の数を代入したときは①が成り立たない
が分かっただけです.

①も②も「命題」ではなく「条件」ですから,そのままで真偽が決まるものではなく,具体的な数値をxに代入することで命題になるものです.

①がx=2で成り立たないのは,x=2で②(つまり「2=1または2=-2」)が成り立たないからです.

だから,「①が真」と分かれば,解いているおかげで,「②も真」と分かり,そんなxは1か-2しかなので,xは1か-2です.

例えば,「ある長方形は,タテがヨコより1長く,面積が2である.ヨコは?」という問題で,ヨコの長さをxと表すと,タテがx+1で,面積を考えると
 x(x+1)=2
が成り立ちます.これは
 x^2+x-2=0 …①
なので,解くと
 x=1,-2 …②
です.長さは正だから
 x=1
です.

「ヨコは①を満たす」
「①は②である」
よって
「ヨコは②を満たす」
となり,「ヨコの長さは1である」が確定します!
「ヨコは①を満たす」が分かっているからです.
そして,「ヨコ=1」というのは「命題」で,しかも「真」となると思います.

「解く」は「2次方程式を同値な条件で書き換えること」により,「数値の列挙」の形にすることです.
加えて,「何かが2次方程式を満たす」ということが分かっていれば,解いた結果を用いて,その「何か」を求めることができるのです.

だから,解いた段階では「xは1,-2」とは言えません.
xは条件として表現するための「変数」だからです.
改めて考えると,「未知数」というときは,「ヨコ」のように,「求めたいものがあって,それを文字で置いている」ということなのかな,と思いました.

未知数のときは「ヨコ=1」で,これは命題(真).
変数のときは「x=1」で,これは条件(xに1を代入したときのみ真になる式).

あぁ,これを如何にして中1に伝えようか・・・