て形と連用形の使い分け


動詞のて形と連用形はどちらも節や文を繋ぐのに使われますが、私たちはどのように使い分けているのでしょうか。まずは、以下の例をご覧ください。これはセリフのない6分の超短編映画を見た後に、映画の内容を口頭または筆記で第三者に伝えるという実験で得られたデータです。

(1)に乗ったとすれ違って、それにとれてて、それでにつまづいちゃって、倒しちゃって・・・

(2)狭い道で反対側からやはりに乗ってやってくに気を取られ、道に転がっていたにぶつかり転倒してしまう。

一読しただけでどちらが口頭でどちらが筆記かすぐにわかりますよね。動詞の形を見てみると(1)は「すれ違って」「見とれてて」「つまづいちゃって」「倒しちゃって」と、全て『て形』なのに対し(2)は「取られ」も「ぶつかり」も『連用形』です。

スピーチなどのように原稿を読み上げる場合を除いて話しことばでは圧倒的に『て形』が使用されているようです。試しに日常会話の中で意識して『て形』を使わず『連用形』のみで話そうとするときっとかなり難しいんじゃないでしょうか。そして周りの人は【一体どうしちゃったんだろう?この人は】と心の中で思うでしょう。

では、書きことばでは『連用形』しか使われないのでしょうか。上の(2)では連用形のみが使われていますが、小説やレシピなんかを見てみると『て形』も『連用形』も両方使われています。さらに詳しく分析してみましょう。以下の二つのレシピの文を見てください(それぞれ別のレシピから)

(3)ざるに広げて水を切り、塩こしょうをする。

(4)フライパンに油を熱し、片栗粉をまぶしたカジキを強火で焼いて火を通す。

(3)も(4)も『連用形』の動詞「切り」「熱し」の後には読点(、)が使用され、後続の節には新たな材料や調味料「塩こしょう」「カジキ(マグロ)」が登場しています。一方、『て形』の動詞「広げて」「焼いて」の後には読点はなく、後続の節に新たな材料や調味料も登場しません。

書きことばでは、次に起こることとの連続性が低いこと示したい場合には『連用形』を、次に起こることとの連続性が高いことを示したい場合には『て形』を、という使い分けが可能です。

実際に自分が調理しているところを思い浮かべてみると分かりやすいと思います。

(3)はざるに広げてるのは牡蠣(かき)なんですが、「ざるに牡蠣を広げて水を切る」はひとつの動作ですが、そこから塩こしょうをするには一旦ざるを置き塩こしょうを手に取らなくてはなりません。(4)は「カジキを強火で焼いて火を通す」とありますが、「焼いて」はどのように火を通すのか手段を表しているので「焼く」と「火を通す」は同じ行為ですよね。

ただし、書きことばの『て形』と『連用形』の使い分けはプロの書いた文章には見られますが、素人の書くレシピなどでは『て形』または『連用形』のどちらかしか出てこないものも多く見られます。こと書きことばにおいては、読んで理解する能力と実際に自分が書く時に使えるかどうかという生産的な能力にはかなりのギャップがありそうです。


引用・参考文献

Clancy, Patricia. 1982. Written and spoken style in Japanese narratives. In D. Tannen (ed.), Spoken and written language: Exploring orality and literacy (pp. 55–76). Norwood: Ablex.

Ono, Tsuyoshi. 1990. Te, i, and ru clauses in Japanese recipes: A quantitative study. Studies in Language 14(1), 73–92.

Kaneyasu, Michiko and Kuhara, Minako. 2020. Dimensions of recipe register and native speaker knowledge: Observations from a writing experiment. Pragmatics 30(4), 534–559.

用例の出典

Clancy, Patricia. 1982. Written and spoken style in Japanese narratives. In D. Tannen (ed.), Spoken and written language: Exploring orality and literacy (pp. 55–76). Norwood: Ablex.

Kaneyasu, Michiko and Kuhara, Minako. 2020. Dimensions of recipe register and native speaker knowledge: Observations from a writing experiment. Pragmatics 30(4), 534–559.