へえ

 


ちょっと前に「トリビアの泉」といういろいろな分野の雑学を扱ったバラエティ番組がありました。新しいトリビアに関するVTRを見た出演者が「へぇボタン」を「へぇ」と思った数だけ押して評価するという流れでした。久しぶりに昔の映像を見てみると、「へぇボタン」押しながら出演者が口にしているのは意外にも「へぇ!」ではなく「えぇ!」が多い印象でした。「へぇ」と「えぇ」にはどんな違いがあるのでしょうか。

会話の中で新しい情報を伝えるときのやり取りにはパターンが見られます。まず、話し手が新情報を伝え、受け手が反応します。この時の受け手の反応は【新しい情報を受け取ったよ】ということ以外に二つの別のスタンスを示します。

一つは「あ、ほんとに?」のように【新情報に関する詳述を話し手に促す】スタンス、もう一つは「ふーん」のように【新情報に関する詳述を話し手に促さない】スタンスです。新情報に対する反応が【詳述を促す】ものだった場合、話し手はそれに応じ情報の詳細を伝えます。そしてその後で受け手は新情報に対する自身の見解や感想を伝えます。リストにすると 以下のような流れです。

① 話し手: 新情報

② 受け手: 詳述を促す反応

③ 話し手: 新情報に関する詳述

④ 受け手: 新情報に対する見解

「へぇ!」と「えぇ!」はリストの別の位置に表れます。以下の会話では典子と恵美がアメリカの大学教員の給料制度について話しています。

典子: そいで、だから夏は入ってないでしょ。

 
恵美: えぇ!テニュアもらってても?
    だからハミルトン[先生ももらえないの?   
 
典子:                         [そうそう。
    そうよ。

恵美: へぇ!知らなかった。

まず、典子が新情報を伝え、恵美は「えぇ!」と反応しています。そしてさらに詳細な情報(テニュアをもらってても夏の期間の給料はもらえない)を得た後に「へぇ!」と反応しています。

「えぇ」は【新しい情報を受け取ったよ】+【でも、新しい情報は私がすでに持っている知識や物の見方と合点がいかないよ】ということを示すのに使われ、「へぇ」は【新しい情報を受け取ったよ】+【そして、新しい情報は私がすでに持っている知識や物の見方とも合点がいったよ】ということを示すのに使われているようです。我々はつねに、新しく入ってきた情報が自分の中の既知情報とどのように結びつくのかを考え判断しているということだと思います。そしてそれを相手に伝える言葉があるのです。

「トリビアの泉」も、まずトリビアの概要VTRを見て出演者が反応し、そのあとにトリビアの詳しい内容を確認VTRを見てさらに反応するという構成になっていました。概要VTRの後は「えぇ」が多い印象でしたが、確認VTR後の出演者の反応をチェックしてみると会話の例と同じ「へぇ」、そして他にも「はぁ」「なるほどぉ」などを口にしていました。まだ番組が続いていたら「へぇ」の機能もトリビアとして扱ってもらえたかな。


引用・参考文献

Tanaka, Hiroko. 2013. The Japanese response token Hee for registering the achievement of epistemic coherence. Journal of Pragmatics 55, 51–67.

用例の出典

Tanaka, Hiroko. 2013. The Japanese response token Hee for registering the achievement of epistemic coherence. Journal of Pragmatics 55, 51–67.

Mori, Junko. 2006. The workings of the Japanese token hee in informing sequences: An analysis of sequential context, turn shape, and prosody. Journal of Pragmatics 38, 1175–1205.