もしもじゃない「たら」


「たら」の機能は?と聞かれたら、「もしタイムマシンがあったら」のような想像の仮定や「日本に行ったら」のような条件を表す用法がまず頭に浮かびます。さらに頭をしぼって考えてみると、助言・提案の「~たら?」、願望の「~たらなぁ」、定型句的な「よかったら」など、いろいろな用法があります。

これらの「たら」に共通しているのは、空想の世界であれ現実であれ、まだ起きていないことについて言及していることです。

しかし、「たら」はすでに起こった出来事について話す時にも使われます。過去の出来事に使われる「たら」は、以前のコラムにも登場した「て形」の用法と似ています。

以下の例は、言語学の実験で3~7歳の子供に『サザエさん』を見てもらい、その内容を知らない ((てい)) 大人にあらすじを説明してもらうという課題からの抜粋です。

(1)うんとね、お兄ちゃんのね、うんとね、コーヒーにね、ケーキが入ってね、お兄ちゃんの顔にね、うんとね、あのね、コーヒーがとんでね、うんとお兄ちゃんがね、うんとね、怒った。(3歳11ヶ月)

(2)イクラちゃんワカメにね、怒られて、イクラちゃん泣いちゃったの。(4歳6ヶ月)

この実験は20代の大人相手にも行われましたが、大人も子供も登場人物の言動や事象を起こった順番に繋ぐのに「て形」を使用していました。「て形」の使用頻度は圧倒的に高いですが、「て形」の次に多く見られたのが「たら」でした。

(3)ワカメちゃんがね、学校から帰ってきたらね、あ、うんとね、赤ちゃんがね、んん、クツ投げちゃってね・・・(5歳1ヶ月)

(4)あのね、カツオくんとね、ワカメちゃんがね、行ってね、覗いてみたらね、本当にね、カタツムリがいたのね・・・(6歳6ヶ月)

「て形」も「たら」も時系列上連続した言動や事象を順番に言い表すのに使われる点では同じですが、「たら」の場合すぐ後に言及されるのが何かしらの『発見』であることが多いのが「て形」とは異なります。『発見』といっても歴史に残る大発見である必要はなく、目で見たり鼻で嗅いだり、五感(あるいは六感)で認識できる何かに対する気付きなら何でもオッケーです。

「ワカメちゃんが家に帰ってきたら、赤ちゃんがクツを投げているのを発見!」

「カツオくんとワカメちゃんが行って覗いたら、カタツムリがいるのを発見!」

もちろん「たら」を使わず「て形」のみで淡々と語ることも可能ですが、「たら」を使うと次に何が起こるのか期待感を高める効果があるようです。話にメリハリもつきますよね。この実験では4歳から「たら」を使っていたそうです。ちなみに「て形」は3歳から。サザエさん家のタラちゃんは確か3歳なので「たら」は使わなくても「て形」は使っていてもおかしくないということですね。無論タラちゃん語にはどちらも存在しませんが。


引用・参考文献

Clancy, Patricia. 2020. To link or not to link: Clause chaining in Japanese narratives. Frontiers in Psychology 10.3008.

用例の出典

Clancy, Patricia. 2020. To link or not to link: Clause chaining in Japanese narratives. Frontiers in Psychology 10.3008.