付け焼き刃の覚え書き

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「コバルト風雲録」 久美沙織

2021-10-24 | エッセー・人文・科学
「このコに連絡を取ってちょうだい。イケるわ。つかえる感触がする。でも、まず、タテガキに、それに、もうちょっと濃いエンピツで書き直すようにいうのよ」
 「小説ジュニア」編集部の女性編集者のそのひとことで、久美沙織の応募作はボツ箱から救われた……らしい。

 そもそも「ライトノベル」という言葉は「最近のソノラマ文庫やコバルト文庫のように、表紙や本文にマンガ・アニメ的なイラストを多用した少年少女向けレーベル」をどう呼ぼうかという試行錯誤から生まれたもの。そのライトノベル誕生の根幹に位置していたコバルト文庫の盛衰と少女小説の歴史を、最初は読者として、やがて新人作家、看板作家の一枚としての立場から語り尽くした1冊。

 「コバルト文庫全点目録」とか見ていると、創刊当初の数年は少女小説の復刻をメインに展開してます。作家でいうと官能小説御三家とも称された富島健夫とか夫の借金返済のためにジュニア小説を執筆していた時期の直木賞作家・佐藤愛子とかによる、青春小説・少女小説のラインナップです。それが78年に若桜木虔の『宇宙戦艦ヤマト』のノベライズとか横田順弥のSF小説が加わり始めてから試行錯誤の時期に入り始めて、従来の少女小説はそのままに夢枕獏のロマンチック・ファンタジイ『ねこひきのオルオラネ』とか、草鹿宏のノベライズ『ベルサイユのばら』とか、はたまた女子中学生界隈でヒットして男子生徒はアレは何の本だと噂しあったローリングス『総集編 私は13歳』。13歳のイギリス人少女が同級生の男の子と体の関係をもって妊娠して……という話。

 そんなラインナップの変遷から新しい世代のオリジナルの作家が生まれてきて、正統派の少女小説家の後継である氷室冴子と、新しい文体を生み出して星新一が絶賛した新井素子が台頭して一気に爆発します。久美沙織言うところの「巨大新星」であり「まばゆいばかりの夜明け」です。男性読者はだいたいこのあたりから巻き込まれ始めます。
 こうしたコバルト文庫でおっかなびっくりデビューした創生期の一線作家である久美沙織が見聞きした、あれやこれやがほぼ話し言葉で語られているので、なにか講演録かと思ったくらい、毒舌混じりでそこまで言っていいのかの血と汗と涙のエピソードがあふれる証言録。コバルト文庫の歴史というより、そこで生まれ育った久美沙織の一代記で、コバルトを中心にした作家や編集者たちの回想です。

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