佐藤優の「危ない読書」に思わず夢中になってしまう

2021~2022年の年末年始6連休中に読み終えた3冊の本のうちの2冊目は、佐藤優の『「危ない読書」~教養を広げる「悪書」のすすめ』であった。実におもしろく、思わず夢中になってしまった興味尽きない1冊だ。

「危ない読書」ということであり、ここで紹介される数々の本は、いずれも佐藤優が「悪書」とし、読むことが危険だと公言しているわけであるが、僕はもうおもしろくておもしろくてたまらなかった。思わず興奮してしまう何とも刺激的な本だった。

この1冊はちょうど既に紹介した池上彰の「世界を変えた10冊の本」に引き続いて読み始めた本だった。池上彰の「世界を変えた10冊の本」は、中には「道しるべ」のようなイスラム原理主義の教科書になったとされる「危険な本」も含まれていたが、基本的には古典中の古典と呼ぶべき名著ばかりであった。

続いて読んだものが、それとは対照的な「悪書」。このギャップに何とも言えない興味を焚きつけられ、夢中になって読んでしまったと言う次第。

紹介した新書の表紙の写真
中々強烈な印象を残す表紙である。佐藤優は「外務省のラスプーチン」と呼ばれていたが、本当にいかにもいかつい風貌だ。幅広の新書である。

佐藤優のことについて

佐藤優は僕が最も精力的に読み続けている作家の一人である。このブログの本の紹介の中では個別の作品としては1冊もまだ取り上げていないが、僕の中では立花隆と並んで、最も時間をかけ、熱心に読み続けている作家の一人なのである。

僕の以前のブログ記事の中に「小説なんか止めて、ノンフィクションを読め!これがお奨め‼️」という記事があるのだが、その中で取り上げた7人の作家のうちの一人である。

念のため佐藤優の略歴を示しておく。佐藤優は同志社大学神学部出身の元外務省主席分析官である。そして多くの読者がご存知のようにあの当時衆議院議員だった鈴木宗男との関係を巡って、2002年に背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。512日間に渡って勾留後、起訴され、2009年6月執行猶予付き有罪が確定した。2013年6月に執行猶予期間が満了し、刑の言い渡しが効力を失って今日に至っている。

膨大な量の著作を矢継ぎ早に発表

自身の逮捕、勾留中の一連の動向を見事な筆致で綴った「国家の罠」を皮切りに、「自壊する帝国」「獄中記」など雄渾なタッチの力作を次から次へと矢継ぎ早に出版し続け、右派からも左派からも一目置かれる論客として頭角を現す

今やどれだけの本が出されているのか皆目見当がつかないような状態になっている。

稀代の読書家としても知られ、正に立花隆亡き後の「知の巨人」、いや「知の怪物」と称されている傑物だ。

僕は、第1作の「国家の罠」を読んで、その類い稀な文章力と知的な分析力に魅了され、同じ同志社大学の後輩という事情とは関係なく、熱心な愛読者となり、佐藤優のほとんど全ての本を読み尽くしてきた。

ところが、ここ数年、毎月のように数冊単位で新刊が出版されるに及んで、遂にギブアップ。佐藤優の新刊を追い続けることは断念した。

どうしても追いつけなくなると同時に、あまりにも似たような傾向の本が繰り返し出版されてきて、少し食傷気味になってきたというのが本音である。

しかし、そうは言っても佐藤優は決して無視できない。彼の知識の膨大さと力量、スキルの高さは明らかに抜きん出ているし、その文章力も圧倒的である。

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久々に読んだ佐藤優の「危ない読書」はやっぱりおもしろい

これはズバリ佐藤優による「悪書」20冊を紹介した本である。本の帯に書いてあるように、独裁者の自伝から思想犯の手記まで、閲覧注意といった問題書ばかりが取り上げられている。

但し、「はじめに」によれば、選択の基準として次のようなことを意識したという。

・現代の日本人にとって異質さを感じる著者もしくは作品
・このまま歴史に忘れ去られてしまってはもったいない作品
・現実社会を動かした(動かしている)人物の書いた作品
・タブーに挑んだ作品もしくは人間の本質をえぐるような作品

佐藤優によれば「こうした基準から、荒唐無稽な内容の、いわゆる「とんでも本」は取り上げていない。あくまでもここで選んだ20冊は、特定の時代でのベストセラー、もしくは特定の国でのベストセラーであった作品ばかりである」とのことだ。

更に「悪書を読むことは自ら軋轢に飛び込むようなことである。その読書体験が人を成長させていく。大人の読者であればそれは「深い教養と高い視座」につながるし、若い読者であれば「自分探しの一助」を意味する」と書いている。

選ばれた20冊の悪書のラインナップ

こうして選ばれた20冊の悪書は以下のとおりである。

4つのカテゴリーに分類されている。

第1章 独裁者の哲学~彼らはいかにして人を操ったのか?

『わが闘争』 アドルフ・ヒトラー
『レーニン主義の基礎』 スターリン
『書物主義に反対する』 毛沢東
『金正恩著作集』 金正恩
『国体の本義』 文部省教学局

第2章 過激派の知略~彼らはなぜ暴力を用いたのか?

『戦争論』 クラウゼヴィッツ
『クーデターの技術』 クルツィオ・マラパルテ
『プロパガンダ戦史』 池田徳眞
『読書の仕方』 黒田寛一
『パルタイ』 倉橋由美子

第3章 成功者の本性~彼らは何のために富を得たのか?

『カルロス・ゴーン 経営を語る』 カルロス・ゴーン/フィリップ・リエス
『トランプ自伝 不動産王にビジネスを学ぶ』 ドナルド・J・トランプ/トニー・シュウォーツ
『告白』 井口俊英
『ゼロ』 堀江貴文
『死ぬこと以外かすり傷』 箕輪厚介 

第4章 異端者の独白~彼らはタブーを犯して何を見たのか?

⑯『わが闘争・猥褻罪ー捜索逮捕歴31回』 大坪利夫
『突破者ー戦後史の陰を駆け抜けた50年』 宮崎学
『邪宗門』 高橋和巳
『カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー
『地球星人』 村田沙耶香

紹介した新書の裏表紙。
裏表紙である。簡潔な解説が分かりやすい。帯には取り上げられた20冊んpタイトルが全て掲載されている。

池上彰の「世界を変えた10冊の本」とは裏表の関係

僕は今年の年末年始、先に配信した池上彰の「世界を変えた10冊の本」を読み終えた直後から、直ぐに本書を読み始めた。

つまり池上彰の「世界を変えた10冊の本」が正当な表の名作・古典なら、佐藤優の「危ない読書」は裏の問題作とも呼ぶべき20冊の紹介と捉えることができるのではないか、と考えたわけだ。

池上彰と佐藤優は気心の知れた盟友と呼ぶべき存在

表の10冊を紹介した池上彰と、裏の20冊を紹介した佐藤優。

テレビに出まくっている池上彰に対して、全くテレビには出演しない佐藤優とはあまりにも対照的すぎて、この両者が親しい関係にあると言っても多くの方はピンと来ないかも知れない。

だが、この二人は実際に非常に親しい関係にあると思われる。二人の対談本や共著は実は非常に多いのだ。

僕の手元にも、今、ザッと数えても8冊以上ある。

そんな二人による表と裏の30冊の本の紹介。そう捉えるといよいよ興味が尽きなくなってしまうことを理解してもらえるだろうか。

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本書の全体の作りは

この本は、昨年(2021年)9月15日に発行されたばかりのまだホヤホヤの新刊本である。

紹介されている「悪書」は全20冊であるが、本書のページ数は237ページ。このページ数を20で割れば1冊当たりのページ数は直ぐに割り出せる。
多少前後はあるが、1冊当たりおよそ10ページから11ページ足らずである。本を厚くしてでも、1冊当たりの紹介文をもう少し長くしてもらいたかったというのが本音ではあるが、止むをえなかったのであろうか。

但し、この新書は一般の新書よりは幅が2センチほど広い、少し形が大きな新書となっている。したがって1ページ当たりの行数は多少多いのかも知れない。とは言っても、良く見ると上下のスペースはかなり広めに取られているので、決して文字数が普通の新書よりも多いと言うことではないだろう。もう少し1冊当たりを詳しく紹介してもらいたかったと思わずにいられない。

悪書どころか名著、世界文学の最高峰まで含まれているが

さて、あらためて佐藤優の20冊の「悪書」の紹介だが、このラインナップを見て驚かれた方も多いのではないだろうか。

閲覧禁止!の悪書の紹介と言いながら、何とここには、世界文学の最高峰であるドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」が含まれているのだ。

これには何か特別な意図が隠されていると勘繰りたくなってしまう。

ドストエフスキーから仮に「悪書」を選ぶとしたら、「地下室の記録(手記)」しかないだろうと確信しているが、佐藤優の考えるところがあるのだろう。本書の中にその理由も示されているが・・・。

他にも、高橋和巳の「邪宗門」は、全共闘の学生たちから圧倒的な支持を受けたカリスマ作家による既に古典とも言うべき名作だろうし、倉橋由美子は石原慎太郎や大江健三郎と並び称せられる程の実力派作家であり、村田沙耶香は堂々の芥川賞作家である。

クラウゼヴィッツの「戦争論」はあまりにも有名過ぎる古典的名著だし、僕はあまり知らなかったのだが、クルツィオ・マラパルテの「クーデターの技術」は、今世紀の「君主論」(マキャベリ)とも呼ぶべき大変な名著のようだ。

また、カルロス・ゴーンの「カルロス・ゴーン経営を語る」は、ゴーンの絶頂期に大ベストセラーとなった非常に有名なもので、僕も読んだことがある。

ゴーンが最後にあんなことになってしまったことは抜きにして、経営者としては相当な力量を持っていたことは間違いないわけで、あの本の価値がなくなるわけでは決してない。これは本書の中で佐藤優も強調していることである。

そんなわけで、表の名作に載せても全くおかしくないような作品も並んではいるが、多くは大変な問題作、ズバリ「悪書」ばかりが選ばれている。

具体的な本について簡単に触れていきたい。

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人を思いどおりに操った独裁者の哲学

ここに挙げられた5冊が最も問題を孕んでいることは間違いないだろう。

ヒトラーの「わが闘争」のことは今更もういいだろう。だが、この問題の書を一度はじっくりと読んでみる必要も確かにあるのである。

本国ドイツでは、終戦後ズッと「わが闘争」は禁書扱いされていたが、昨年から堂々出版された事情はかなり有名だ。

スターリン、毛沢東という共産主義の独裁者による本も中々エグいものがある。

だが、僕は毛沢東のこの本の紹介を佐藤優解説で読んで、実におもしろい、その内容に非常に魅力を感じたと正直に言っておきたい。こういう人間が文化大革命などに洗脳されてしまうのだろうか。

毛沢東が書いていることは、本当に至極真っ当で、おっしゃるとおりだと頷かずにはいられなかった。

金正恩の本などはさすがに読む気にならないが、佐藤優解説を読んでみるのも悪くない。

日本の戦前にどのような教育がなされていたのかをあらためて知っておくことも悪くないだろう。ただ闇雲に避けているだけでは、問題は解決しないのである。

「クーデターの技術」は興奮必至のおもしろさ

「戦争論」は古典的名著なので、政治と戦争に興味のある人は必読。

ここで是非とも知っていただきたいのは、上述したマラパルテの「クーデターの技術」である。

これはイタリアの優れたジャーナリストであり作家でもあったクルツィオ・マラパルテが、主にロシア革命の際の実際の革命の手法、10月革命の際の軍事クーデターを事実を基に具体的かつ詳細に再現し、分析したものである。

「クーデターの技術」の著者マラパルテの写真
これがマラパルテである。いかにもオシャレなイタリア人という印象だが。

特にトロツキーの類い稀なクーデター技術を描き尽くしているらしい。

他にもナポレオンの「ブリュメール18日のクーデター」や、作者の本国イタリアのムッソリーニの「ローマ進軍」による政権剥奪、ドイツの「カップ一揆」やヒトラーの政権掌握など、20世紀に実際に起きたクーデターを徹底的に描いているとのことだ。

佐藤優は本書の中で「トロツキー、レーニン、ナポレオン、ムッソリーニ、ヒトラーなどの事例研究を通じて、クーデターを徹底的な技術論として捉えた画期的な書」と解説している。

佐藤優解説をもう少し紹介させていただく。「発売当時この作品は「反ファシズム」「反共産主義」の書としてイタリア、ドイツ、ソ連などで発売が禁止された。しかい、日本では戦前に木下伴治訳で『近代クーデター史論』というタイトルで発売になり、革命を志す青年将校や右翼思想家に影響を与えたが、内容があまりにも危険なので検閲を恐れて伏字だらけの本になってしまった過去がある。
 警戒される理由は単純だ。国家を守る側が読めば防衛マニュアルになる一方で、国家改造を志す側が読めば国家転覆マニュアルになるからである」と。

マラパルテは元々ムッソリーニの盟友で、若い頃はファシスト党の理論家として活躍し、ローマ進軍にも参加したが、この作品が大きなきっかけとなってファシスト党を除名、マラパルテは逮捕され、裁判にかけられて、5年間もリパリ島への流刑処分を受けている。

この佐藤優解説を読んで、本書「クーデターの技術」に非常に興味を持った僕は、直ぐに注文して、今、熱心に読み始めている。これがめちゃくちゃおもしろいのである。興奮必至の素晴らしい本との出会いとなった。

「クーデターの技術」の文庫本の写真
中公文庫で普通に入手できる「クーデターの技術」。スマホで写真を撮る様子が黒い表紙に反映しているのが困る(笑)。
「クーデターの技術」を立てて撮った写真。厚い。
これはかなり厚い本である。読み応え十分の力作だ。

富を得た成功者たちの本性

ここはあのドナルド・トランプやホリエモン始め、馴染みのある名前が並ぶ。ゴーンのベストセラーについては前述したとおり。

僕が非常に興味を覚えたのは、井口俊英の「告白」だ。これは当時大きなニュースになったので、ご存知の方も多いと思うが、1995年9月に発覚した大和銀行(現りそな銀行)ニューヨーク支店の巨額損失事件。その事件の当事者である現地採用の日本人ディーラー、井口俊英氏が獄中で残した手記が「告白」である。

佐藤優は「日本の銀行の本質を読み解く資料として、もしくは一人の人間の金銭感覚が狂っていく様子を描いた物語として読んでも、実に面白い」と書いているが、実際に最終的な損失額は11億ドル(960億円)という天文学的な数字となった。そのことの経緯、決して横領などの犯罪ではないことから始まったことが、最後にはここまでの損失を与えてしまうという驚嘆すべき世界。そしてそれが長期間に渡って見過ごされてきたということも信じられない。本書をじっくりと読んでみたいという気になった。

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タブーを犯した異端者たちの独白は

この異端者にドストエフスキーが選ばれ、取り上げられた作品があの空前の名作である「カラマーゾフの兄弟」である点は、やはり違和感があるが、それ以外にも実に興味深い異端者の名前が並ぶ。

逮捕歴31回に及んだ性解放運動のリーダーや、一時はあの「グリコ・森永事件」の最重要人物「キツネ目の男」としてマークされた人物など、毒を持った曲者揃いだ。そんな異端者たちが書き残した自叙伝が紹介されている。これは興味を持たないわけにはいかない。

芥川賞作家の村田沙耶香による「地球星人」に対しても、「一切のタブーを持たない人間が出現したらどうなるかという思考実験を、村田氏の強靭な思考力と構想力、表現力でやり抜いたことだと思う」とありったけ刺激してくる。

これも一読の価値が大いにありそうだ。

とうことで稀代の読書家である「知の巨人」が選んだ20冊の危険な「悪書」。

紹介されたオリジナルの本そのものを、数冊でも読むことができれば非常に有益だと思うが、先ずは本書、佐藤優のこの紹介本を読んでみることをお勧めしたい。

 

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