小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

軍儀戦略概論

 こんにちは。ヱチゴニアです。

 今回はハンターハンターという冨樫義博先生による大人気バトル漫画の中に登場する軍儀というボードゲームについて書きます。といっても、軍儀ハンターハンターの物語の中でどのように登場するのか、あるいは軍儀とはどのようなルールなのかといった話はしません。より実践的な軍儀の戦略の話をします。

 何故かと言うと、ググっても軍儀の戦略を真面目に考察している人があまりいなかったからです。

 

 

 とはいえ、軽く前提は確認しておきます。今回の記事で扱う軍儀ユニバーサルミュージック合同会社の販売したものであり、ルールはその中の上級編に従います。細かいQ&Aに関しては公式ホームページを参照ください。*1

 

 

 さて、最初から抽象的な話をするとイメージしにくいので、まずは単純で具体的なシチュエーションから考えてみましょう。

 今後断りが無ければ、黒を先手、白を後手として扱い、駒の名前の後に(黒)(白)のように表記することでその駒の色を表します。

 

 図1の状態で白が済みを行いゲームが開始したとします。

図1

 先手が帥(黒)の左に大(黒)を新すると、王手となるため、後手は別の列に帥(白)を逃がすしかありません。列をずらして逃げた帥(白)に対して先手は大(黒)を1つ斜め前に移動させることで追いかけていくことができます。(図2)

図2

 これを繰り返すと、いずれ帥(白)と大(黒)が1マスを挟んで向かい合う状態になります。その後は帥(白)が横に移動したら忍(黒)や弓(黒)を新していくことで帥(白)を詰めることができます。(図3~図5)

図3

図4

図5

 図は帥(白)が真横にのみ移動した想定ですが、斜め前に移動していたとしても、手順が増えるだけで同様の方法で詰めることができます。

 

 とても単純なやり取りですが、ここから学べることがいくつかあります。

 まず、孤立した帥は、大や忍、弓を使うことで帥の射程外から詰めることができるということです。同様に中や槍、馬、筒、砲を組み合わせて詰めることも可能です。大事なのは射程外から攻めることです。帥の射程内に駒を入れると、帥にツケられてしまうため好ましくありません。

 もちろん、帥にツケられても勝てますし、射程にこだわらずにツケていって詰めることも可能ですが、一旦は射程の話にとどめておきます。いずれにせよ、帥が孤立した状態で攻められると助からないということです。

 次に注目するべきは、新できる範囲の重要性です。最初にジリジリと大(黒)が帥(白)に近付いていったのは、そうしないと忍(黒)や弓(黒)を大手がかけられる位置に新できなかったからです。同様に、白が合駒をせずに左右に逃げるのは、そもそも駒が帥(白)しか無い状態では帥(白)よりも前に合駒を新できないからです。

 敵の帥の近くに新ができると、攻め手の選択肢が増えるため非常に有利です。なので、自駒を1つでもいいので敵陣の奥深くに送り込んでおくことは、新の範囲を増やすという観点から重要です。

 

 帥(白)の合駒の話をしましたが、実は軍儀では合駒は役に立たないことが多いです。例え図1の状況から帥(白)の前に合駒を新できたとしても、図6のように合駒の上にツケられてしまうからです。相手の駒の段数が1段高くなるため状況はむしろ悪化し、下手をすれば一手で詰んでしまいます。

図6

 敵の段数が上がってしまうため合駒が役に立たないということは、逆に考えれば、敵に攻められた場合はこちらの帥の段数を上げることで対処が可能なことを示唆しています。ただし、こちらの帥の段数を上げるためには事前に他の駒を帥の周囲に配置しておく必要があります。つまり、このゲームでは帥を孤立させるべきではないということです。

 

 

 

 以上のことを踏まえて、最序盤に注意すべき罠が2つあります。

 

 まず、基本的に先手は初期配置の2駒目に自分の帥の前に何かしらの駒を置かなければなりません。いくつかの例外を除いて、そうしなかった場合は負けます。

 

 例えば、初期配置の1駒目に後手が先手と同じ列に帥(白)を新し、2駒目に先手が図7のように大(黒)を新し、後手が帥(黒)と同じ列の3段目に大(白)を配置したとします。

図7

 この状態で後手が済みをしてゲームを開始した場合、先手は最初から王手をかけられている状態なので、まず帥(黒)を動かさなければなりません。動かし方によって大まかに以下の3パターンに分類できます。なお、合駒をした場合は図6のように1手詰めとなります。

 

 A. 右側に逃げる

 B. 大(黒)に帥(黒)をツケる

 C. 大(黒)にツケずに左側に逃げる 

 

 Aの場合は、右側のスペースのみを使って逃げ続けると図3~図5で確認したように帥(黒)が孤立している状況なので後手が射程外から帥を詰めることができます。途中で大(黒)のいる方に逃げた場合は、BやCの場合に合流します。ただし、大(白)の前線が押しあがっている分だけ後手の新可能な範囲が増えており、最初からBやCを行った場合よりも不利になっているだけなので、今回は最初からBやCを行った場合のみを考えます。

 

 Bの場合は、後手が図8のように大(白)の距離を近づけます。

図8

 この場合、先手は帥(黒)を動かすか別の駒を新するしかありません。別の駒を新した場合は、後手が大(白)の上に弓(白)を新して王手を仕掛けてくるのに対して帥(黒)を移動させる以外の対処ができません。そして、分岐が多いため細かい手順は省略しますが帥(白)が移動して1段目に降りた後は、ひたすらに射程外から王手を仕掛け続けることで詰めることが可能なので先手は負けてしまいます。

 先手が新せずに帥(黒)を動かした場合も、同様に王手を仕掛け続けて詰めることが可能で、先手は負けてしまいます。

 この際に、帥(黒)以外にどこにどのような駒を配置しているかは関係ありません。確認すれば分かりますが、必ずその駒の効きを避けつつ帥(黒)の射程外から王手をし続けることが可能です。(あるいは、王手ではなくとも"詰めろ"をかけることができます)

 

 Cの場合も、後手は図8と同じ位置に大(白)を移動させます。(図9)

図9

 後手は次の手番で中(白)か砲(白)を新することで王手を仕掛けることが可能で、そこから連続して王手をかけ続けることで先手を詰めることができるため、先手はこのターン中に何か手を打つ必要があります。

 帥(黒)を大(黒)の上にツケるとBに合流するだけなので負けてしまいます。帥(黒)の斜め右前に駒を新しても、大(白)にツケられて、そのまま連続王手でゴリ押されて負けてしまいます。相手の中(白)と砲(白)の新の置き場所を全て1手で妨害することはできません。帥(黒)を左側に逃がしても、大(白)で追いかけて王手ができ、そこから詰められてしまいます。

 また、大(黒)で帥(白)の射程外から帥(白)に王手を仕掛けることもできないため、先手が後手を詰めることもできません。

 Bと同様にCの場合にも、帥(黒)の前に大(黒)がいることは後手側が王手を仕掛けるための障害にはなっていません。例えどのような駒を配置していたとしても、その駒の守備範囲の外側から王手を仕掛け続けることが可能だからです。興味があれば試して確認してみてください。

 

 以上のように、初期配置で後手が先手と同じ列に帥を置いて、先手が2手目に自分の帥の前に駒を置かなかった場合は、基本的に先手は負けてしまいます。

 帥の列や大を置く位置によって、例外的に負けないパターンも存在しますが、それは後手番からも確認できるため、そういったパターンの配置になった場合は後手番が2手目で済みをしないだけの話です。

 

 この先手必敗の罠は、先手がゲーム開始後の最初のターンを王手から逃げるために消費してしまうことによって、擬似的に先手と後手の手番が入れ替わってしまうことが原因となり先手が負けてしまう、と解釈することできます。

 逆に言えば、(当たり前ですが)このゲームは先手が有利であることを示しています。また、孤立している帥に王手を仕掛けることができれば、一方的に攻め続けることができます。

 

 もう1つの罠は、後手の必敗パターンです。

 1つ目よりも大分簡単な話ですが、後手は初期配置で帥を最下段に置かないと敗北します。

 

 初期配置で4駒以上を配置する場合は、後手の帥が先手の3段に重ねた砲の射程圏内に入ってしまうため、先手の最初のターンで帥を取られてしまうのです。3段に重ねた砲の射程は5マスと非常に長く、また、帥の前にどれだけ駒を重ねても飛び越えてくるため防ぐことができません。砲の射程から逃れるためには、帥を最下段に置くしかないのです。(図10)

図10 色付きの範囲は砲の射程

 後手が3駒以下の初期配置で済みを行う場合、つまり先手が3段目に砲を置く前にゲームを開始する場合についても考えてみましょう。

 

 1駒(=帥のみ)で済みを行った場合は、互いの帥が孤立しており先手が先に王手を仕掛けられるので、既に考察したように、先手が勝ちます。

 

 2駒で済みを行う場合は、先手は後手の帥のいる列の3段目に侍(黒)を配置し、初手で侍(黒)の上に大(黒)を新することで勝つことができます。仮に後手の2駒目が後手の帥の前に置かれていなかった場合(図11)は、そのまま先述の1つ目の罠と同形になるため、攻めている側である先手が勝利します。

図11

 後手の2駒目が後手の帥の前に置かれている場合(図12)は、後手は大(白)を動かすことができないため、何をしても先手の2手番目で大(白)の上に大(黒)をツケられてしまいます。大(白)の上に別の駒を新していても、大(黒)も2段目の駒なので、その上にさらにツケられてしまいます。そして、ルールとして帥の上に駒をツケることはできないため、後手が何をしても1手番では大(白)の上にツケられた大(黒)を排除する手段を構築することはできません。その後は帥(白)が孤立するため、先手が王手をかけ続けて勝利します。

図12

 3駒で済みを行う場合が最も複雑です。

 複雑ですが、先手が行うことは変わらず、2駒目で後手の帥のいる列の3段目に侍(黒)を配置し、3駒目で侍(黒)の上に大(黒)を配置します。後手の選択肢は無数にありますが、初手で大(黒)に帥(白)を取られないように、帥(白)の前には何かしらの駒を配置している必要があります。もう1つの駒は自由ですが、帥(白)の前に1つの駒が置かれることが確定しているため、それ以外の場所には2段以上の段数を築くことはできません。つまり、ゲーム開始時点では、後手は帥(白)とその前に2段の駒、もしくは3つの駒が1段目に存在している状態ということになります。そのため、先手は2段目にある大(黒)で必ず帥(白)の前の駒の上にツケることで王手を仕掛けることが可能であり、尚且つ、後手はツケられた大(黒)を取り除く手段を持ちません。詳しくは割愛しますが、そこからは、王手を仕掛け続ける(あるいは詰めろをかけ続ける)ことによって先手が勝利します。手順の分岐が多いため、もしかしたら確認漏れがあるかもしれませんが、基本的に先手有利であることに変りはないでしょう。もし確認漏れで後手が負けないルートがあった場合は、ぜひコメントで教えてください。

 

 ここまで2つの罠を紹介してきました。

 先手にも後手にも初期配置の最初の2駒以内に必敗になる罠があるので要注意です。

 

 

 

 ここからは、もう少し抽象的な戦略に踏み込んでみようと思います。

 前述のように、後手は初期配置の1駒目で済みを行うと負けます。では2駒目や3駒目で済みを行うとどうなるでしょうか。基本的には先手が有利だと考えられます。

 盤面上に出ている駒が少ないほど、状況はシンプルになりますが、状況がシンプルなほど、1手差が大きな価値を持つようになるからです。

 初期配置における新もゲーム開始後の新も同じ新であると見なせば、初期配置の1駒は、ゲーム開始後の1手と同じ価値を持つと考えられます。そのため、1駒で済みを行った場合の先手の初手では、先手は後手の2倍の手番を行った計算になります。一方で20駒を配置した後に済みを行った場合の先手の初手は、21手番vs20手番なので手番差の比率が5%程度に縮まっていることが分かります。このように、済みのタイミングが遅くなるほど手番差は縮まるため、後手は済みを遅くした方が手番差の不利を解消できます。

 では先手の済みのタイミングはどうでしょうか。先手が済みを宣言した後も後手は駒を配置し続けることができるため、早い段階で先手が済みを行うことは、先手にとって不利に働きます。例えば、先手が1駒目で済みを宣言し、その後に後手が10駒を初期配置してゲームを開始した場合、先手の初手は2手番vs10手番と換算できるため、先手が非常に不利です。仮に先手が1駒ではなく5駒で済みをしていたとしても、6手番vs10手番であり、やはり先手が不利のように感じます。

 この考えを単純に拡張していくと、究極的には先手は23駒以下の初期配置で済みを宣言すると初手の時点で手番差で不利に立たされるということになってしまいます。

 

 このように単純な手番差で有利不利を規定すると、先手と後手の両者に済みのタイミングを遅らせるインセンティブがあることが分かります。

 しかし、直感的には当たり前ですが、実際には25駒全てを初期配置で盤面に展開するべきではありません。

 

 初期配置できるのは自陣3段目までであり、攻めに使う駒に関しては自陣内に初期配置するよりも、攻めている途中に敵陣の近くで新した方が、移動の手番が省略できて手番数を得できるからです。要するに役割分担であり、守りに使う駒は初期配置に回し、攻めに使う駒は手元に残しておくという話です。

 そして、その際に重要になってくるのが、新のできる範囲を如何に増やすのか、敷衍すれば、どうやって前線を押し上げていくか、ということです。

 敵陣に隙があれば、大や中や砲で一気に敵陣まで攻め入ることも可能です。ただしその場合は、それらの射程の長い駒を盤に配置してしまうことになり、相手に余裕を与えてしまうことにもなるので、一長一短です。射程の長い強い駒が相手の手元に残っている状態は、思考リソースを新を防ぐことに割かざるをえず、強いプレッシャーになります。諜も残っている場合はなおさらです。

 つまり、射程の長い駒を手元に残しつつ前線を押し上げていければベターです。ただし、射程の長い駒は攻めと同時に守りでも活躍することができるため、必ずしも手元に残した方が強いとは限りません。細かくは相手の攻めの圧力とのバランスになるでしょう。

 

 どのような駒を使うにせよ、ゲームの序盤では互いに前線を押し上げることを目指す必要があります。仮に前線を押し上げることに成功したとして、次の悩みはどのように攻めるかです。敵の駒を取るのかツケるのか。自分の駒を新する際にも1段目なのかツケるのか。

 私の現時点での結論は、駒得を重視せよ、ということに尽きます。

 

 軍儀では2段目や3段目にツケられた帥の機動力は圧倒的です。3段目では最大で24マスの移動範囲を持ちます。このような状況で帥に王手を仕掛けても、必ず逃げられてしまうでしょう。しかも、3段目の帥に王手を仕掛けるには自分も3段の駒を敵陣近くに築く必要があります。そして、軍儀の駒は横移動に難があるため、せっかく敵陣近くに3段の駒を築いても、敵の帥が真横に逃げていった場合、その3段はほとんど無駄になってしまいます。

 このことは守る側のヒントになります。将棋の穴熊のように密集した陣形の真ん中に帥を囲んでいるよりも、2段の塔を自陣内に距離を置きながら配置しておき、その上を帥が立体的に逃げ回る方が守りやすいということです。王将が1マスずつしか移動できない将棋と同じ感覚で陣形を組むべきではありません。

 

 体感としては、このように帥の逃げ道が立体的に確保された陣地を組まれた場合、帥をテクニカルに詰めることは困難であり、地道に敵陣を崩していく他ありません。そして、軍儀では将棋とは異なり取られた駒は再利用できないので、必然的に駒得を重ねることが重要になるのです。

 

 大や中のような強い駒は例外として、基本的に自分の駒1つで相手の駒を2つ以上取れれば駒得です。そのためには、相手の射程外から相手の多段の駒に攻撃を仕掛けることが重要です。

 あるいは、取らなくても、相手の駒が戦線離脱すれば擬似的に取ったのと同じです。例えば、帥から離れた列で敵陣の奥まで行ってしまった侍や槍、小、弓、諜は基本的に役立たずです。

 つまり、自分の射程の長い駒や横移動が苦手な駒を上手く配置し、あいての長射程の駒と横移動が苦手な駒をスカしつつ、如何に有効打を叩き込むかという戦いになります。

 この観点から考えても、自分の横移動が苦手な駒を初期配置で全て展開してしまうことは不利に働くかもしれないため、やはり最初から全ての駒を初期配置することはお勧めしません。

 

 さらに詳細には、如何に相手の射程外に立ちまわるのか、そのためにはどのような陣地を形成するべきなのか、といった話や、先手は初手で砲を敵陣にぶっ放すべきなのかといったような議論がありますが、今回はこのあたりにしようと思います。読んでいただきありがとうございました。