観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

同志少女よ、敵を撃て(2021 逢坂冬馬)

今年に入ってからAmazon Audibleを聴き始めた。
デブ防止のために毎日行っている散歩の時、ただ黙々と歩くのに飽きてしまうので、最初は音楽を聴いていた。
が、それもあっという間に飽き、次にオードリーのオールナイトニッポンRadikoのタイムフリーやPCで録音したりして聴いていたのだがすぐにネタがつきた。
他のサブスクもいろいろ検討して、その中でも月額が高いAudibleを正直選択したくなかったのだが、聴きたいコンテンツが一番多かったので仕方がない。
その中でも本作はいずれ小説を読もうと思っていたところにAudibleの定額読み放題で聴取可能だったので飛びついた。
それにしても表紙の絵とタイトルでガルパンみたいな話だと勝手に思っていたが全く違った・・・

1942年、ナチ・ドイツとの戦争が激化するロシアの農村で、母親エカチェリーナから猟銃の使い方を教わりながらひっそりと暮らしていたセラフィマ。ドイツ軍が村へやってきて母をはじめ村人を次々に殺し始め、セラフィマも射殺される寸前だったが、ロシア赤軍の助けが入り一人だけ生き延びる。
そして赤軍の女兵士イリーナに問われ、狙撃兵として入隊することを決意する。
ロシア各地から集められた狙撃兵候補の多くの少女たちは、イリーナ教官の元、訓練を続けたが、その厳しさのあまり、いつしか人数は減っていき、セラフィマを含め数人を残すのみとなった。
訓練が終わった後、少女狙撃兵たちはそのままイリーナの配下に入り、戦争の重要拠点となるスターリングラードへと赴くが・・・

あまりにもタイミングが良すぎて、何かのプロパガンダなのかと最初は錯覚したのだが、2021年のアガサ・クリスティー賞を受賞しデビューとのことなので、そうではないということだろう。それにしてもというシンクロニシティ
第二次世界大戦における独ソの戦争についてはほとんど知識がないので(世界史の成績も悪かった)、本作の内容がどれくらいよく調べられていて史実に基づいているのかはよく理解できていない。申し訳ないです。
ただ、フィクションとしてのリアリティは非常に高い。厳しい軍における活動や日常、そして日々追い詰められていきながらも国や家族のために身を粉にする兵士たちの様子が描かれており、その描写に一切の妥協がない。登場人物たちも歯を食いしばっているが、読んでいるこちらも相当歯をギリギリと言わせることを要求され、読むだけで体に力が入って激しく疲労する。
それは主人公のセラフィマを始めとする兵士たちが、皆兵士である前は日常生活を謳歌していた一般人であり、家族や友人を殺され、悲しみと怒りを仕方なく戦闘への力に変換して戦っていく、そのやるせなさがこれでもかと言わんばかりに入念に表現されているからである。
また、女性が兵士となることは、少なくとも当時は様々な抵抗や差別やハラスメントを当たり前のように受けるということであり、その葛藤とも戦わなければならない。
もちろんのことながら少女であるセラフィマは、それぞれのエピソードに傷つき、苦しみ、悩み続けるのだが、その過程の中でも狙撃兵として成長・熟達していく、軍や戦争になじんで行ってしまう様が逆に残酷で心に沁みる。

それはそれとして、イリーナとの関係がまんま「エースをねらえ!」だなぁ、と思った。最初は厳しくて理不尽で鬼のような存在として忌み嫌っていたコーチだが・・・的な。
なにか懐かしい関係性をまた見せてもらったような。
正直に言うと終盤のストーリー展開はかなりかっとび過ぎていて、ついていけないところもあったが、物語としてただの疑似ノンフィクションにするわけにはいかなかっただろうからなぁ。

それにしてもナレーションの青木 瑠璃子さんがとてもよかった。聞きやすいし演じ分けも見事だし、ストレスなく最後まで聞くことができた。
このクオリティが揃っているなら、しばらくAudible使ってみよう、と思った。