戦車用エンジン フォードGAA 諸元

2020/12/04

データベース 軍事

 


概要

第二次世界大戦で最も著名なアメリカの戦車と言えばM4中戦車である、といって差し支えないだろう。本車は当時最先端であったアメリカの工業力を集約したもので、急速な増産計画にも関わらず、高い信頼性を有する仕上がりとなっていた。特にM4A3が搭載するフォード製のGAA型エンジンは何種類か搭載されたエンジンの中でも、あらゆる面で優れた名作として知られている。

本エンジンの開発が合衆国陸軍より要請されたのは、1941年6月のことであった。もともと中戦車用のエンジンとしては、航空機用の空冷星型9気筒エンジンを転用したライトR-975EC2ワールウィンドが用いられてきたが、航空機用エンジンの需要増大と戦車増産の見通しから早期に代替エンジンの完成が求められたのである。

フォード社では、かねてより開発中であった航空機用V型12気筒エンジンを8気筒に改め、地上用にデチューンすることで対応可能であると判断。1941年9月から開発に着手すると、早くも翌年1月には試作品を完成させてしまった。その出来上がりは素晴らしく、瞬く間にM4A3用エンジンとしての採用を受けると、1942年中に各種試験と設計改善を終え、量産体制を整えたのである。
戦後には、再び12気筒としてパワーアップさせたGAC型が登場し、T29重戦車に搭載されている。最終的な生産台数は17,000台超に上る。


特徴

従来型の"ワールウィンド"エンジンと比べ、GAAが好まれたのにはいくつかの理由がある。まず、低速でのトルクが大きく操縦が容易であったこと、整備性に優れていたこと、そして稼働中の故障が非常に少なかったことである。

整備性について言えば、星型のワールウィンドは当然ながら放射状にシリンダーが配置されており、車体上部のハッチを開いただけではヘッド部を一望することが出来ない。飛行機に取り付けられているときは後ろ側から支えられて宙ぶらりんの状態になっているので、エンジンカウル(覆い)を外すだけで良かったのだが、車載用エンジンとしては大問題であった。車体後端部にも観音開きのメンテナンスハッチが有るには有ったが、ここも大径のエアインテークダクトと各種パイプに阻まれて、エンジン本体へのアクセス性は十分とは言えなかった。しかも悪いことに、ワールウィンドは長時間のアイドリングで点火プラグが汚れやすいという性質があり、頻繁な交換整備を必要としていた。結局、この作業のためにはエンジンを丸ごとクレーンで吊り上げなければならなかった。V型エンジンとなっただけでもGAAの存在意義は大きかったのである。しかも、補機類は効率よく集約配置されていたから、整備にあたる兵士たちからは大歓迎された。

信頼性の面でもGAAは400時間の連続運転試験をパスしており、バストーニュへの大行進(※)を始めとする重要局面で、遺憾なく性能を発揮している。一方のワールウィンドは、車両の走行距離が伸びるとともにオイル漏れを頻繁に起こし、最悪車両火災を起こすなど、決して評判の良いエンジンではなかった。ただし、これでも当時の諸外国のエンジンと比べれば格段に故障が少なく、実際に供与された同盟国では高い評価を得ているということを念の為に付け加えておく。

※この時、第4機甲師団第37戦車大隊のM4A3E2ジャンボがバストーニュ一番乗りのペイントで記念撮影している写真は有名である。


諸元/Ford GAA

タイプ:60°V型8気筒液冷
弁方式:32バルブDOHC
総排気量:1,100cu in(18L)
ボア*ストローク:5.4in*6in(137mm*152mm)
圧縮比:7.5
最高出力:500ps/2,600rpm
最大トルク:1,050lb-ft(107kgfm)/2,200rpm
全長:59.02in(1,499mm)
全幅:33.25in(844mm)
全高:47.78in(1,213mm)
乾燥重量:1,470lb(667.8kg)
材質:アルミ合金+鋳鉄製ドライライナー
指定燃料:ガソリン 80オクタン


エンジン性能曲線図


【執筆:K.I.】