NTTドコモの「ahamo」とウィンチェスターライフルの失敗

2020/12/10

雑記

 


2020年12月3日、衝撃的なニュースがNTTドコモ(以下ドコモ)から発表されました。

携帯電話の月間利用データ量20GBまで2,980円/月(税別)という新プラン「ahamo(アハモ)」の登場です。諸手続きをオンライン上のみに限定することで低価格を実現しており、5分間の無料通話もセットという至れり尽くせりのプランです。

これによって、ドコモはKDDIやソフトバンクに先んじて、菅政権の掲げる通話料値下げの目標に応えた形となります。

新プラン「ahamo」については、これを歓迎する意見がほとんどだと思います。私個人としても喜ばしいことだと考えています。

ここで重要なのは、もちろん単純に料金が下がったこともそうですが「デジタルネイティブ世代への負担が軽減された」ことです。つまり、これまではドコモショップの店頭で手取り足取り操作を教えてあげなければいけない旧世代のアナログ人間のためにかかっていたコストを、デジタルネイティブ世代までもが負担していたわけです。若者や機械に強い中高年にとってはサービス・商品と対価が不釣り合いだったわけです。

本来このような不均衡は商品・サービス全体の価値を低下させ、顧客離れを招くものなのですが、長年大手3社で独占されてきた携帯電話市場ではなかなかそうもいかなかったのでしょう。ともあれ「商品に見合った代価を」という資本主義の原則に立ち返ったことは喜ばしいことです。


さて、顧客の求めるものと商品そして価格の乖離が致命的な惨事をもたらした事例があります。それがこれからご紹介するウィンチェスターM70ライフルの事例です。

ウィンチェスター社(Winchester Repeating Arms)といえば、1850年にアメリカで創業された歴史と伝統のある銃器メーカーです。その製品の中でも1936年に登場したM70は、量産ボルトアクション式ライフルとしては最高峰の出来で、その高い精度は世界中のプロフェッショナルから愛されました。

ところが、1960年代に入るとM70ライフルはひとつの転機を迎えます。

ベトナム戦争の開始です。

アメリカ海兵隊の正式装備に採用されていたM70は大量のオーダーを抱えることになります。ここでウィンチェスター社は致命的なミスを2つ犯してしまいます。

一つは、ライバルであるレミントン社(Remington Arms)スプリングフィールド・アーモリー社(Springfield Armory)にM70の生産を一部委託したこと。二つ目は生産数を増やすために銃のクオリティそのものを大幅に下げたことです。

本来、高級な狙撃用ライフルというのは高品質な部品を職人が吟味し、試射と調整を繰り返して仕上げていくものですから、この判断はある程度やむを得ない部分もあります。しかし、当然というか名門ウィンチェスターの看板を信頼していたユーザーからは大きな反発を受けました。低質な"新"M70の人気は急落。おまけに銃は腐りませんから、それまで市場に出ていた大量の中古品の価格が高騰する始末です。

一方その影で着々と力をつけてきたのがレミントン社です。1962年に登場したM700は元々生産性を考慮した設計がなされていた上に、後発だけあってその精度もM70に劣らない素晴らしいものがありました。こちらも軍用モデルのM40が1966年に海兵隊に採用されていますが、レミントン社の賢いところは、銃本体や各種パーツに複数のグレードを設けて、ユーザーの予算に応じたクオリティの製品を提供し続けたことです。軍民問わず多くの支持を集めたのは当然M700の方でした。

結局、M70は現在では歴史的遺物としての存在となり、M700はいまだ現役で第一線に立ち続ける存在となりました。

それにしても、ウィンチェスターと同じ失敗を現代では行っていないと、我々ははっきり言うことができるでしょうか?



【執筆:K.I.】