寝る前の食事は中長期的な血糖コントロールにはあまり影響しないのかもしれない

2021年10月15日

はじめに

不健康な生活習慣は肥満やメタボリックシンドローム、心血管疾患などを引き起こします
しかし、何をもって不健康な生活習慣とするのか、その基準は時に曖昧です。
実際、一般的に不健康と認識されている生活習慣の中でも、エビデンス的には不明瞭なものもあります。

今回は特定検診・特定保健指導(生活習慣病の予防のために、40-74歳を対象にしたメタボリックシンドロームに着目した健診)の質問項目の一つである「夕食後2時間以内の就寝が週3回以上あるか」に着目した研究をみていきます。

一般に就寝直前の夕食や間食(夜食)は体脂肪の蓄積に繋がりやすいと認識されていることから、糖代謝にも悪影響を及ぼすことが想定されます。

今回紹介する論文は、就寝2時間以内の食事習慣がHbA1cレベルに及ぼす影響に検証しています。

HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)は、赤血球中のヘモグロビンという色素のうち、どれぐらいの割合が糖と結合しているのかを示す指標です。
HbA1cは過去1-2か月間と比較的長期間の血糖値の状態を反映していることから、血液検査直前の食事による影響を受けにくいとされています。

論文概要

出典

Maw, S. S., & Haga, C. (2019). Effect of a 2-hour interval between dinner and bedtime on glycated haemoglobin levels in middle-aged and elderly Japanese people: a longitudinal analysis of 3-year health check-up data. BMJ nutrition, prevention & health, 2(1), 1–10. https://doi.org/10.1136/bmjnph-2018-000011

方法
岡山県で行われたコホート研究のデータを利用
対象者は岡山県のある地域で特定検診を受けた40-74歳の成人
開始時点でHbA1Cが6.1%以上の者は除外
2012年から2014年にかけての変化を分析
最終的なデータ分析者は1531人

調査・測定項目は生活習慣(22項目に関する質問紙)、身長、体重、BMI、血圧に加え、HbA1c、空腹時血糖値、HDLコレステロール、LDLコレステロールなどの血液指標

結果
・全対象者の平均のHbA1cは2012年が5.20%、2013年が5.58%、2014年が5.58%

・「夕食後2時間以内の就寝が週3回以上ある」と回答した率は男性が16.1%、女性が7.5%

・「夕食後2時間以内の就寝が週3回以上ある」は、HbA1cの増加と関係していなかった

・BMI、トリグリセリド、血圧、運動習慣、喫煙状況、飲酒習慣はHbA1cの増加と関係していた

解説

この論文は日本人を対象として、血糖コントロールの代表的な指標であるHbA1cの長期的な変化が就寝2時間以内の食事の有無と関係しているのかを検証しました。
その結果、就寝2時間以内の食事は、2年後のHbA1cに顕著な影響を与えませんでした。
一方で、BMIやトリグリセリド、血圧、運動習慣、喫煙の有無、飲酒習慣は、HBA1cの変化に影響していました。

この結果に基づき論文の著者らは、健康的な食事や十分な睡眠、喫煙や飲酒の習慣、太りすぎを防ぐといった方策に注意を払う必要性を述べています。
ただし、この論文では食事量は検討しておらず、就寝前に大量の食事を摂った場合も影響が出ないのか?といった疑問は残ります。

いずれにせよ、この論文は一般に認識されていることが必ずしも真実とは限らないことを示唆しています。

まとめ

就寝前に夕食をとっても数年後の血糖コントロールには悪影響を及ぼさない