ChatGPTで税理士の仕事はなくなる?AIの出現と転職について考える

「〇〇(AIやRPA等)の出現で税理士の仕事はなくなる」という話題が数年に一度は訪れます。
ここ最近はChatGPTが話題となっておりますが、やはりChatGPTなどのAIに仕事を奪われる職種の代表例として改めて税理士があげられるケースが多くなっています。

現在のところ税理士の仕事がなくなる兆しはないのですが、ChatGPTの出現はこれまでのテクノロジー進化とは少し違う部分もあり、AIによる社会構造の大きな転換点となることが予測されており、状況がひっくり返る可能性を秘めていることから先行きが予測し難くなっています。

そのため、常に最新の情報を取得し、今後の動向について警戒をしておく必要はあるかと思います。

こうした状況を踏まえてChatGPT(AI)と税理士について考察していきたいと思います。

ChatGPTで税理士の単純業務だけでなく付加価値業務もなくなる可能性がある?

税理士の業務に関して、これまではテクノロジーの発展で単純業務がなくなってしまうから付加価値業務(コンサルや相談)に力を入れていきましょうというような話題が多かったように思いますが、ChatGPTは対話型のAIですのでこうした相談やコンサル業務も無くなってしまう可能性が高いと言われています。

例えば、簡単な税金の計算についてChatGptに相談をしてみると、計算方法や考え方、それらを計算した結果などに関しての相談・回答をもらうことができます。

なお、GPT3.5ですと誤った回答が多く、使い物にならなさそうな印象がありましたが、GPT4であればかなり高い精度の回答をしてくれる他、対話をしながらしっかりと条件を整理してあげると正しい回答、個別具体的な事例ごとの回答が導き出せるケースが多くなっています。

条件を整理するにあたってはそもそも正しい知識・専門知識を有している必要がありますので、現時点でそのまま実用するのは難しく、利用者側に正しい知識が無いと正確な回答を導くことができないという点から素人がChatGPTを使って税金の計算をしたり申告をしたりすることは事実上できないと思いますが、数年あるいは数か月後には知識が無い方でも正確な回答を導き出せるようになる可能性はあるのかなという気がしてしまうくらいに早いスピードで進化しています。

こうしたことから、可能性として、税理士の付加価値業務の一部がなくなる、あるいは少なくなるということは有り得ると考えています。

あくまで進化のスピードから考えた際の将来の可能性の話ですので実際のところ本当にどうなってしまうのかはわかりませんが、想定しておくべきことの一つではあるかなと思います。

税理士の仕事は単純な税金の計算ばかりではないが複雑なこともAIで出来るようになる

「単純な税金の計算(個人の簡単な確定申告等)」「単純な相談」であればChatGptなどのAIに聞くことである程度問題が解決できるようになる気はしますが、税理士の業務は単純な相談・手続きばかりではありません。

国際税務、資産税(制度的なものだけでなく気持ちの問題等込み入った事情が多くあるケースがあります)、ビジネスの複雑化など様々な要因により難度の高い業務というのも存在しています。

ただ、いずれもある程度ルールがキッチリと決まっているので作業部分が自動化できるのはもちろんですが、各種事情もくみ取ってAI側で自動化できそうな雰囲気はあります。少なくとも機械的にできる工程については簡略化され、一部の作業において人手がいらなくなる可能性はあるでしょう。

また、現時点では人間の気持ちに寄り添った相談というのはAIには難しい部分もあり人間の方が得意と今のところ言われていますが、もし心の部分までAIが発展していったらどうなるかわかりません。現状、ChatGptで対話していてもたまに冗談チックなことを言う事があり(意図しているのかはわかりませんが)、笑わせてくれるので、将来的には人間が得意とする部分も奪ってくる可能性を感じさせます。

こうしたことから、現在付加価値業務と言われている分野も取って代わられる可能性というのはあると感じます。

本当にこれでいいのか?合っているのか?という疑問の解消が必要なので税理士の必要性は残ると考えられる

税務に限りませんがChatGPTなどのAIの回答が本当に正しいのか疑問に思うことが多くあるかと思います。

今後AIの解答に対する正確性や信頼度が高くなったとしてもAIが提示してくれていることが本当に合っているのかどうか不安は残るでしょう。税務という側面で見ると社会的な責任も大きいですので、AIに言われたとおりにそのまま申告するということは難しいでしょう。

そのため、最終確認をし、本当に問題がないかどうかお墨付きを与えるという点で税理士の価値はあるかと思います。

信頼性・信憑性という視点で見ると個人的には税理士の価値は高いと考えていますので、全面的に税理士の仕事がなくなるということはないかと思います。

ただ、そこに至るまでの過程はかなり簡略化できそうだという印象です。

「気軽な税務相談」というものは少なくなり、顧客との接点機会は減少していくことが予想されますので仕事の取り方なども変わっていくことが予想されます。

価値観という側面で税理士の仕事はかなり残ると思われる

個人的な意見・価値観にはなりますが、AIがどんなに発展しても人間に相談したいと思うような部分もかなり多いのではないかなと思います。

人に相談したくなる場面として考えられる一例が「自分が安心したいとき」なのではないかと思うのですが、経営者は常に不安を抱え、相談できる人を求めています。

そのため、現在時点でもこうした相談に強い士業というのは仕事が途切れずたくさん入ってきている状況かと思います。

私の仕事でも実務がほぼ0で相談だけする業務というのも何件かあります。手を動かすという意味ではほぼ何もしていない状況ですがお金をもらうことができるものがいくつかあります。

全てのケースに当てはまるわけではありませんが、相手が単に安心(あるいは不安の解消)が欲しいという場合も多いので、そういった場合は人に聞いて欲しい・相談したいと思うことが多いかと思いますので、そのあたりではAIに勝てるのではないかと想定されます(現時点では)。

また、「あなたに頼みたい」といった形で、あなたの個人的なキャラ設定等に魅力を感じて仕事を依頼してくる人も多くいらっしゃるかと思いますので、属人性というものは意外と大事なのではないかと思います。

実務的には誰に依頼しても良さそうな案件も多く存在していますが、そういった際は誰と仕事をしたいかで考えるかと思いますので、そうした気持ちや価値観の部分で仕事が進んでいくことも多くなっていくでしょう。AIが発展することによりテクニカルなスキルで差が出難くなってくることが予想されますので、そう考えると、税理士としての実務能力の高さだけではなく、個人のパーソナリティーがより一層重要になっていくのかなとも思います。

もっとも、AIにも独自のキャラ設定などができ、心地よいと感じる人柄設定等も容易となり、人間の感覚を麻痺させられるようなこともできるようになる気はしますので、そうなってくるとどうなってしまうのか怖い部分でもあります。ただ、直近で言えばそうではないので、今のところは個人性・属人性というところで差が生まれてくる状況かと考えます。

生まれた時からAIがある環境になったらどうなるかわからない

AIより人に相談したいと思うのは、AIが異質なものであると個人的に認識しているからかもしれません。これまでの30数年間(筆者は30代後半です)AIがない時代に生きてきたからそう感じているのであって、生まれた時からAIと共に育ってきたらどのように感じるのか定かではありません。

AIが当たり前にある時代に子供時代を過ごしたら様々なことをAIに相談するかもしれません。

現在時点で行くと、例えば、オンラインミーティングツールの拡充によりわざわざお客様の元へ訪問する必要がない時代となっており、そういう意味でかなり業務効率化が図れているのですが、一定以上の年代のお客様の中にはオンラインでのミーティングは失礼だ、必ず対面で打ち合わせをしないとダメだ、というようなことをおっしゃる方がいらっしゃいます。

もちろん対面で打ち合わせをした方が良いケースもありますが、そうでないのであれば個人的にはお互い時間が節約できるオンラインでやった方がメリットが高くて良いと感じるので、上記のような価値観は受け入れがたいです。

単純に価値観の差なのですが、AIの利用に関してもこうした価値観によるところは出てくるかと思いますので、自分の顧客ゾーンの価値観の変化なんかも見ていく必要があると思います。

こうした価値観の変化も起こっていくでしょうから税理士として状況に合わせた変化をしていけることが重要でしょう。

業務の超効率化は間違いなく起こる

結局のところ税理士の業務がなくなるかどうかは断定することはできませんし、定かではないのですが、間違いないのが業務はかなり効率化され始めています。

記帳代行なども現在時点でかなり効率化できるようになってきてはいます。もちろん完全自動化はできませんし、単純なものばかりではありませんのでやはり専門家の目を通して見ることに現状まだ高い価値があり、今すぐどうこうなるものでもないでしょう。

ただ、今後は複雑な業務含めて更に効率化できるようになるかとは思います。
単純業務以外のものもAI側で判断して作業できるようになるでしょうからかなり便利になると予想しています。
そして、ユーザー側のリテラシーも徐々にではありますが高くなってくるとは思います。

その際に、単に入力業務とか仕訳のチェックなどしかできないようなスキルしかないと仕事がなくなることは想定できますので、社会のニーズに応える意識を持ち、時代の流れに対応して変化しながら対応できる事務所で働くことで汎用的な能力が身につき、生き残りやすくなるのかなと考えられます。

そのため、勤務で働く20代・30代前半などの若い税理士や会計事務所スタッフの方はそのあたりを意識してスキルアップを目指していく必要があるでしょう。

税理士試験勉強中の方も多いかと思いますが、そういった視点も加味して事務所探しをしてみるのも良いかと思います。

一方で、独立している個人税理士などはむしろチャンスなのではないかと考えられます。

新しい仕事の取り方ができるようになってくる可能性はあります。

サービス内容によっては低価格化も起こるかもしれない

既に起きていますが、低価格路線の会計事務所というのも増えていますね。

ここでいう低価格というのは悪い意味で低価格にしている事務所のことを指しているのではなく、IT/デジタルに強い税理士の方が単純作業を超効率化し、数で勝負できるような仕組みにしていく事務所などが増えているというところです。

こうした傾向は今以上に進んでいくことが考えられますので、デジタル化・IT化対応・業務効率化という視点は最低限持っておきましょう。

キャリアという視点で見た際もこうしたデジタル化・IT化を積極的に取り入れている会計事務所を選ぶのも一つの手です。

管理部門などでも業務のデジタル化推進が活発なので、税理士側でもこのあたりは押さえておきたい知識の一つとなっていく可能性はあるでしょう。

直近数年であればAIを使いこなせない人が多発すると思われるから仕事はなくならない

どのような形でChatGPTを始めとするAI利用が発展していくのかわからない部分もありますが、おそらく多くの方がAIなどを使いこなすことが出来ないと思われますので、そういう意味で仕事はなくならないと想定されます。

今現在を見ても、簡単なオンラインのシステムに入力することすらできない経営者、チャットツールすら使えない事業者(そもそもFAXが主流等)が多くあり、そういう方々が多い現状だとAIがどんなに発展しても結局使えないという事態も考えられそうなので、直近という意味では税理士側の業務が便利になるだけで、顧客が少なくなって困るという事はないのかなと考えます。

そのため、今すぐに脅威に感じる必要はないと思います。

ただ、割と近い将来誰にでも使えるシステムとして形を変える可能性は高いので、動向を追いながら税理士としてどのようにAIを使っていくかという視点を持ち、社会構造の変化に合わせたサービス提供というものを考えていく必要はあるでしょう。

税理士だけの問題ではなく、社会全体が変わる可能性があり、不安もあるがチャンスもできると考えることは可能

画像生成AIの問題をニュースなどで見かける機会が増えているかと思いますが、画像以外にも音楽、文章(小説やコピーライティング等)、動画などあらゆるものがAIで一瞬で作れるようになってきています。

少し前まではAIに代替され難い仕事としてクリエイティブなものがあげられていましたが、むしろこうしたクリエイティブ領域の一部が真っ先にAIに奪われようとしています。

士業の領域でも単純な法律の当てはめだけでなく、判例を読み込み判断することができるようになっているので、単純な法律相談であればAIでも可能になっています(上記までで記載したように現在時点では正確性等の問題点がありますが)。

税理士などの士業の仕事がなくなるとかそういうピンポイントな問題ではなく、記載したように社会の構造が変わっていくことが考えられますが、大きく構造が変わる時というのは無くなるものばかりではなく、新しい需要が生まれ、チャンスができる時でもあります。

抽象的な表現になりますが、そうした需要・ニーズをとらえ、何を提供していくべきか、何に力を入れていくべきか見極めていくことでチャンスをつかむことができるのではないかと思います。

転職・就業先選びで考えること

現時点でChatGPTにより社会構造がどう変わるのか明確に断言することは不可能ですが、今よりも変化が激しい時代になっていくことが予想されますので、勤務されている方であれば、身を置くべき会計事務所もこうした変化に柔軟に対応していく姿勢を持っているかどうかを一つの検討材料にすると良いかと思います。

新しいものを取り入れ(触れて)思考錯誤していく意識があるかどうかは面接時にわかるものですので、そこは一つ材料にすべきと言えるでしょう。

ただ、あなたが現在置かれている状況にもよるところはあると思いますので、例えば現在税理士試験勉強中で合格の方を優先したいということであれば働きやすさを最優先にすべきでしょうから、あくまで会計事務所選びの基準の一つにすると良いかと思います。

最新のテクノロジーを毛嫌いする先生方も多くいらっしゃり、未だにクラウド会計の存在そのものに否定的な方もいらっしゃるのですが、そうした新しい事柄を検証せずに遠ざける傾向にある事務所は今後厳しいと思いますので、注意しましょう。

人間にしか出来ない業務という視点だけでなく、あなたに頼みたいを強く意識してブランディングしていく

AIが台頭してくることで無くなる業務というのも確かにあると思いますが、先程記載したように新たに発生する業務や需要というのもあるかと思います。

科学技術・テクノロジーの発展を止めることはできませんので、これらを活かして共存していくことを考え、また、こうしたテクノロジーに触れ、何を伸ばしていくべきか探りながら日々の業務に当たっていく必要があるでしょう。

人間じゃないとできない業務が重要になってくると以前から言われていましたが、現在まさにそれがやってきたという状況になっているかと思います。

また、加えて個人性(属人性)が重要になってきていると感じますので、あなたの個人性のアピール(スキル以外の魅力を伝え、また個人を磨く必要性)し、あなたと仕事をしたいと思ってもらえるようになる必要があると感じています。

今後どうなっていくかは未知数な部分もあり結論を出すことはできませんが、動向を注視し、最新の情報を常に取得していくことをおすすめします。

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樋口 智大株式会社インテグラルベース 代表取締役
公認会計士・税理士・経理などの士業・管理部門の人材紹介を行う株式会社レックスアドバイザーズで勤務し、転職エージェントや会計専門メディアの事業の立ち上げを経験。その後、株式会社インテグラルベース(厚生労働省特定募集情報等提供事業者51-募-000806)を創業。現在は転職・採用・人事に係わるコンサルティングや求人サイトの運営を行っています。 士業JOBでは、これまで培った人脈と10年弱に及ぶ転職や採用に関する業務経験・実績を活かして転職に役立つ情報の配信を行っている他、多数の人材紹介会社とも協業し、最新の情報をブラッシュアップしながら配信を行っています。また、行政書士として事務所を開設しており、自身も士業として活動しております。 執筆者・監修者・編集者情報へ