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死刑確定囚・野比のび太 – 第二十話・のび太の初出勤: 恐れと葛藤

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交錯する視線

のび太にとって、剛田商店への初出勤は人生で最も恐ろしい挑戦だった。

長年引きこもっていたため、家から一歩も外に出たくないばかりか会社で働くということ自体が初体験なのだ。

「絶対にイヤだ」という思いと闘いながら剛田武の説得によってなんとか初出社に至ったが、職場に到着してからも、その恐怖と緊張は消えることはなかった。

工場の倉庫は忙しさに満ちており、社員たちは黙々と作業をこなしている。

のび太は、自分の場違いな存在を痛感しながら、恐る恐る荷物の仕分けを始めた。

しかし、働くという経験が全くなかっただけでなく長年運動不足で肥満した彼にとって、簡単な仕分け作業ですら重労働。

数箱を運んだだけで息が上がり、膝に手をついて休む始末だった。

「ちょっと野比さん!そんなペースじゃ仕事にならないよ!」

作業場のリーダーらしき中年男性が、厳しい声を飛ばす。

のび太は「すみません」と、蚊の鳴くような声で謝るしかない。

額にはじっとりと汗が滲み、体力のなさを呪うような思いだった。

そこへ、武が通りかかり、のび太に向けて明るい声をかけた。

「のび太、焦るなよ。お前はまだリハビリ中だ。少しずつ慣れていけばいいさ」

その言葉に一瞬ホッとしたものの、「社長の幼馴染だから入れた使えそうにない奴」と周囲の社員たちの目は冷たく、それがのび太の心をさらに締め付ける。

そんな倉庫内の空気が張り詰める中、外から高めの女性の声が聞こえた。

「みなさん、今日もご苦労様です」

「おはようございます、専務。」

のび太は、その声にハッと反応した。聞き覚えのある声――静香だった。

倉庫の入り口から、シンプルなスーツに身を包んだ静香が現れた。

そして、のび太を驚かせたのは何と小さい女の子の手を引き、二歳くらいの男の子を乗せたベビーカーを引いていることだ。

「おお、おはよう。葉音と優士を保育所に預けてからでいいから、打ち合わせに来てくれないか?」

「うん、わかった。すぐ行くから」

武と静香は自然体接し合い、短い会話を交わす。

「どういうことだ?あの子供たちは?」

のび太はその光景を呆然と見つめる。

静香の存在そのものが彼の記憶をかき乱す。

静香が、武の会社で働いている?

それだけでもショックだったのに、さらに彼女が二人の子供を連れているのを見て、彼の思考は止まった。

静香がふと視線を倉庫内に向けると、そこで初めて、のび太の姿に気づく。

彼女の顔は一瞬固まり、まるで見てはいけないものを見たかのように声を失った。

その反応が、のび太には痛烈に突き刺さる。

「どうした?誰か分かるか?」

静香の表情を察した武が、軽い調子で声をかけた。

「のび太だよ。ほら、ガキの頃、土管の空き地によく来てた。うちで雇うことにしたんだ」

静香の目が、再びのび太に向けられる。

その視線は困惑そのもので、まるで言葉を探しているようだった。

「そうなの……」

静香はそう答えるのがやっとで、次に武を見上げる目には、どこか戸惑いと複雑な感情が浮かんでいる。

その会話の一部始終を聞きながら、のび太は衝撃で頭が真っ白になった。

武と静香は結婚していたのだ、しかも子供まで――その事実が、彼を深く突き刺す。

そして、二人の子供たちに目を向けると、幼い女の子の方が武に似ていることに気づく。顔の輪郭、目元――どれを取っても武そのものだった。

「結婚してからずいぶん経つのか……」

のび太は心の中で呟き、視線を落とす。

現実を受け入れることができなかった。

あの未だ片思いの静香が、よりによってジャイアンと……。

静香は最後にもう一度のび太を見たが、その目には近づきたくないという距離感が見え隠れしている。

その後、子供たちを連れて足早に去っていった静香の後ろ姿を見送りながら、のび太は呆然と立ち尽くすしかない。

その日は初出勤だったにもかかわらず、のび太は仕事が手につかなかった。

何もかもが崩れ落ちた気がして、彼はただ自分の無力さを噛みしめるしかなかったのだ。

続く

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