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死刑確定囚・野比のび太 – 第二十二話・静の怒りと武の苛立ち

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武のいらだちと咆哮

「私、もう限界!」

静香の声が、朝の静けさを破った。

自宅のリビングでコーヒーを飲んでいた武は、新聞を置き、眉をひそめながら静香を見た。

「何がだよ?」

「野比くんのことよ!」

静香は食卓の向こうから一歩近づき、苛立ちを隠そうともせず続けた。

「小学校の時から、あの人のことが薄気味悪いと思ってた。変なこと言ったり、いつも、じっと私を見つめて……私、本当にあの視線が嫌なの!」

武はため息をつき、テーブルに肘をついた。

「静香、お前、それ言い過ぎだろ。あいつも、昔からの幼馴染なんだぞ」

「幼馴染だから何?現場の人たちだって言ってるじゃない!『なぜ、あんな男を雇ったんですか?』って。武だって分かってるでしょ?」

静香の苛立ちはさらに高まり、武の目を真っ直ぐに見据えた。

「何が『助けてやる』よ。あの人不真面目だし、周りに迷惑をかけてるだけじゃないの!」

「分かってる……分かってるよ!」

武は、苛立たしげに声を上げた。

「でもな、放っておいたら、どうなるか分からないだろ?俺たちくらいしか、あいつをどうにかできる奴がいないんだよ」

静香は黙り込んだが、顔にはまだ不満の色が浮かんでいた。

武は視線を逸らし、ため息混じりに言葉を続ける。

「それに……明日からの中国出張が控えてるんだ。こっちもギリギリの状況なんだよ。頼むから、余計なことで俺を煩わせないでくれ」

静香は言い返すことなく、無言でキッチンに戻った。

その背中を見つめながら、武は苛立ちを抑えきれずに頭を掻きむしる。

武の苛立ちは、そのまま会社へと持ち越されたが、火に油を注ぐ事態が待っていた。

倉庫へ行った時、社員たちからの報告で、のび太がまた勤務中にいなくなったというのだ。

「社長、また野比がいません。トイレに行ったっきり戻ってこないんです」

倉庫主任の声に、武は一瞬目を閉じた。

そして、深い息をついて立ち上がると、冷静さを失わないよう努めながら答える。

「分かった。俺が探す」

倉庫の隅々まで見て回るうちに、最初は勉めて冷静にしようとした心が、なかなか見つからない苛立ちによって、だんだん熱くなっていく。

そして、外へ出て自社のビルと隣の会社のビルの間の陰にしゃがみ込んで居眠りしているのび太を見つけた時、もはや限界を超えた。

「のび太!!!」

武の声は鋭く、とてつもない大声であり、眠っていたのび太は飛び起きた。

「な、何……」

寝ぼけた表情ののび太に、武の中の怒りが一気に爆発した。

「ふざけるなよ!!」

武は、のび太の腕を引っ張り立たせると、その場で怒鳴りつけた。

「お前、何やってんだ!ここは遊び場じゃねえんだぞ!!」

のび太は、怯えた目で武を見上げたが、武の怒りは収まらない。

「いいか、周りを見てみろ!みんながどれだけ必死で働いてるか分かってんのか!!お前の態度が、どれだけ迷惑かけてるか……分かってるのか!!」

武の剣幕に、周囲の作業員たちも動きを止め、様子をうかがう。

その怒りは普段穏やかな武を知る社員たちにとっても衝撃的だったのだ。

のび太は、泣きそうな顔をして何度も「すみません」と繰り返したが、武はそれでも怒りを収めることなく言い放った。

「いいか、これが最後だ!次に同じことをしたら、クビにするからな!!!」

武の声が倉庫全体に響き渡り、のび太は、怯えながら小さく頷いた。

その日、のび太は定時まで黙々と働く。

周囲の視線を気にしながら、怒られないようにと、必死な様子が見え見えだったが。

やがて定時になると、逃げるように帰宅した。

しかし、家に帰るとその恐怖が、次第に別の感情へと変わることになる。

「ちょっと休んでただけなのに……なんであんなに怒鳴るんだ……!それもみんなの前で!」

のび太は、暗い部屋の中で独り言を呟いた。

「やっぱり……ジャイアンは見下してるんだ。いや、それだけじゃない……あいつ、わざと僕を雇って、こんな辛い仕事をさせて見せ物にしてるんだ……今日、怒鳴ったのもそうだ!あいつは、昔から僕をいじめて楽しんで……おかげで、僕は何をやっても自信がなくなって……、こんなふうになったのは、あいつのせいだ!」

滅茶苦茶な思考が、のび太の中で膨らんでいく。

「……ジャイアンなんて、いなくなればいい」

のび太の心の中に、とてつもない闇がどす黒く広がっていった。

続く

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