脳科学が行き着く先は量子の世界?心の存在を量子力学で論破できるか?

幽体離脱 精神神経科

今回からは、抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬などの精神疾患治療薬について投稿となります。
「精神疾患治療薬とは精神に作用するクスリの総称」と書いてありましたが、精神とは人間の脳を指すのか?心を指すのか?自分でその場所を自覚することができません。

 

また、「向精神薬」と「抗精神病薬」って、どこがどう違うのか?疑問に思われている方も多いと思います。ちなみに、向精神薬=精神疾患治療薬(広範囲)、抗精神病薬=統合失調症の薬(限定的)となり、抗精神病薬は向精神薬の一つと言えます。

 

精神疾患治療薬の日進月歩に伴い、「置いてけぼり感」を強く感じているので、今回は昔習った知識をアップグレードしたいと思います。

 

精神疾患にはどんなものがあるの?

大まかなものとして「統合失調症」「うつ病」「双極性障害(躁うつ病)」「不安障害」「適応障害」「てんかん」「ADHD(注意欠如・多動症)」について簡単に整理してみました。

 

統合失調症(昔は精神分裂病と言っていた)

①統合失調症

統合失調症の病態に関連しているのは、緑の線青の線です。
緑の線だけを切断できれば良いのですか、「定型抗精神病薬」と言われる従来からある古いある薬は、ドパミン神経経路をすべて切断(抑制)してしまうため、青の線陰性症状(思考の貧困、意欲の欠如)、赤の線錐体外路症状(筋肉のこわばり、振戦など)、オレンジの線プロラクチンの増加(生理が止まったり乳汁分泌)が発出してしまいます。

 

「非定型抗精神病薬」と言われる新しい薬は、ドパミン受容体への結合が緩やかなため、元々あるドパミンの働きを完全に阻止しません。このため、錐体外路症状が出にくいとされています。

 

うつ病

②うつ病

抗うつ薬は、脳の神経伝達物質(モノアミンと称されるセロトニン・ノルアドレナリン・ドパミンなど)の減少がうつ病の原因と考えるモノアミン仮説に基づいて開発されました。しかしながら、この仮説だけでは説明できない点もあり、今では、コルチゾール仮説(視床下部-下垂体-副腎系仮説)の他、いくつかの仮説が提唱されています。

 

SSRISNRI再取り込み阻害だけを、NaSSAは、SSRIやSNRIの作用に加えて、ノルアドレナリンの遊離を促進させる作用を持っています。また、SSRIやSNRIは効果発現に時間を要する(モノアミン仮説では説明できない点がある)ので、治療開始時にはベンゾジアピン系抗不安薬を併用します。

 

一方、S – RIM(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬)は、セロトニンの再取り込み阻害に加えて、セロトニンの受容体を調節することで抗うつ作用を発揮します。また、セロトニンだけでなく、ノルアドレナリン、ドパミン、アセチルコリン、ヒスタミンの遊離も促進します。現在、この種の抗うつ薬はトリンテリック(ボルチオキセチン)のみです。

 

抗うつ薬の副作用として、シナプス後部にある多くの受容体を過度に刺激してしまい、上図に示した副作用が発出する場合があります。

 

双極性障害(躁うつ病)

③双極性障害

 

双極性障害は一般的には「躁うつ病」という名前で知られています。一見「うつ病」に似ていますが、両者はまったく違う病気で治療薬も異なります。

 

「うつ病」は単極性うつ病ともいい、気分が落ち込んだり、やる気がなくなったり、不眠といったうつ症状だけですが、「双極性障害」はうつ状態と躁状態を繰り返す病気です。

 

現在、診察で「双極性障害によるうつ状態」か「うつ病によるうつ状態」かを区別できる有効手段はなく、双極性障害の確定診断には平均7.5年も要するとの報告があります。

 

不安障害と適応障害

④⑤不安、適応障害

不安障害

心配や不安が過度になり過ぎて心と体に様々な変調をきたす病気です。症状として、パニック障害「呼吸が苦しくなり死んでしまうと思う」、社会不安障害「人が多い場所で強い苦痛を感じる」、強迫性障害「火の元や戸締りを何度も確認する」などがあります。

 

抗不安薬は、不安・緊張を軽減させる向精神薬全般をさし、現在はベンゾジアゼピン系が主流です。ベンゾジアゼピン系薬には(1)抗不安作用(2)鎮静・催眠作用(3)筋弛緩作用(4)抗けいれん作用(5)抗うつ作用があるため、抗不安薬にも睡眠薬にも使われます。

 

適応障害

転勤や配置転換などの新しい人間関係に耐え難いストレスを感じた結果、気分や行動面に現れる症状です。不安感が強くなり、涙もろくなったり、過剰に神経が過敏になります。

 

ストレスの原因がはっきりしているので、そのストレスから逃れられれば症状は改善しますが、ストレスから離れられないと症状が慢性化することがあります。

 

てんかん

てんかん

てんかんは脳の病気で、本来、神経細胞のスイッチがバランスよくオンオフを繰り返して 正しい情報を送るのですが、てんかん患者の大脳は、一斉に多くの神経細胞にスイッチを入れてしまい、 正しい情報が送れず 様々な症状(発作)を引きおこします。

てんかんは子どもから大人まで発症する病気で、その割合は約100人に1人といわれ、国内には約100万人もの患者がいると考えられています。発症の原因や予後も様々となっています。

 

ADHD(発達障害)

ADHD

 

発達障害は現れる特性困りごとによって、大きく3つのタイプがあります。
・ASD(自閉症スペクトラム)
・ADHD(注意欠陥・多動性障害)
・LD(学習障害)

 

自閉スペクトラム症:ASD(Autism Spectrum Disorder)
ASDは、「対人関係が苦手で強いこだわりがある」という特徴を有する発達障害の一つで、早ければ1歳半の乳幼児健康診査でその可能性を指摘されることがあります。

 

最近の調査では、子どものおよそ20~50人に1人が自閉スペクトラム症と診断され、男性が女性の約2~4倍という報告があります。

 

以前、自閉症は、目立ち方や言葉の遅れの有無などによって分類され、例えば「アスペルガー症候群」は言葉の遅れがなく、比較的コミュニケーションも取りやすいという特徴がありました。

 

しかしながら、どの分類でも「対人関係の難しさやこだわりの強さ」が共通しているため、これらを別々の障害として捉えるのではなく、虹のようにさまざまな色が含まれる一つの集合体として捉えることとなり、「自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)」という表現になりました。

 

自閉スペクトラム症は病気というよりも、持って生まれた「特性」と考える方がよく、その特性を薬で治すことはできません。家族や周囲がその子の特性を正しく理解し、不登校やひきこもり、自傷行為など二次的な問題を最小限にとどめることが、自閉スペクトラム症への基本的な対応となります。

 

 

注意欠陥・多動性障害:ADHD(attention-deficit hyperactivity disorder)
ADHDは、発達障害の一種で、症状として、年齢に見合わない「不注意さ」、好きなこと以外に興味を示さない「多動性」、思いついたら即座に行動に移してしまう「衝動性」が見られます。(混合型もあります)

 

大人になってから診断がつく場合が多く、現段階で詳しい原因はわかっていませんが、「前頭前野の機能調節に偏りがある」「脳内の神経伝達物質が不足している」ことが示唆されています。

 

ADHDは、子どもの20人に1人、成人の40人に1人いるとされていますが、周りに理解されづらく、仕事や学業、日常のコミュニケーションに支障をきたすことがあります。社会全体で理解することが最も大切と言われています。

 

不眠障害

不眠症

 

不眠で悩む人は極めて多くいるため、精神科や心療内科を受診しなくても、内科や整形外科でも睡眠薬が多く処方されています。従って、不眠障害は精神疾患と呼ぶには大げさかと思われます。

睡眠と覚醒を調整する3つのシステム(調整系)があります。

  • 体内時計系のメラトニン
    脳の「松果体」から分泌される「メラトニン」は、夜の20時から22時頃に急上昇して、体内時計を調節しています。メラトニンは人間の体内リズムを24時間周期に調整しています。

 

  • 覚醒調節計系のオレキシン
    大脳下部の視床下部より「オレキシン」が分泌され、オレキシンの増加で覚醒を保持し、逆にオレキシンの減少で覚醒から睡眠の方向に進みます。

 

  • 恒常性調節系のGABA作動性ニューロン
    GABA(γ-アミノ酪酸)受容体は、リガンド作動型のCl-チャネルで、GABAによって受容体が活性化されると、Clイオンが脳の神経細胞に取り込まれ、過分極が起きて脳の活動が沈静化します。

 

 

精神疾患は脳の病気なのに…なぜ「脳病」と呼ばないの?

精神疾患は「心の病気」だと言われても「脳の病気」です。本来、心臓病や肝臓病のように「脳病」と言っていいはずなのにそうは呼ばれません。理由として、脳の病気として(仮説を含め)ある程度解って治療している疾患と、原因がわからず「心の病気」として分類しておき、対症療法で乗り切っている疾患があると思われます。脳と心を線引きしない方が患者への説明としては都合がよいのかも知れません。

 

 

脳病

 

 

脳の働きは極めて神秘的で複雑なもので、全容解明には相当な時間がかかると思われます。私たちの脳がもつ予知能力や想像力など、コンピューターに真似できない不思議な能力を解明するには量子力学を踏まえた研究が必要になるかもしれません。脳全体のしくみと疾患が、ミクロの領域で確証をもって解明されれば「脳病」という言葉が使われるかも知れません。

 

幽体離脱

 

投稿に際してはアメリカ精神医学会のDSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)、WHOの『ICD-10』(国際疾病分類第10版)を押さえるべきですが、挫折しましたのでその点をお含みおきください。

 

 

精神疾患治療薬って…今どうなってるの?

クスリの使われ方が1対1から1対他へ?

昔は「統合失調症にはメジャートランキライザー、抗不安障害にはマイナートランキラーザー…」と習い、使用するクスリ疾患は1対1の関係でした。(え~、トランキライザーと言ったら古い?)

 

ところが、最近の薬物療法は大きく変化しており、一つのカテゴリーの薬が多様な疾患に用いられています。意外なのはメジャートランキライザーで、元々は統合失調症の薬だったのに、今では難治性のうつ病や双極性障害(躁うつ病)に対して頻繁に用いられるようになりました。今後も、昔からあるクスリが意外な疾患に用いられることがあるかと思われます。

 

薬と適応症

 

一覧表

 

 

精神安定剤と気分安定薬ってどこが違うの?

トランキライザーは古い言葉になってしまいましたが、本来「不安や動揺を静穏化する」という意味だったのに、強力な精神安定(メジャートランキライザー)、穏やかな精神安定剤(マイナートランキライザー)と解釈され、多くの医療現場で「トランキライザー」を「安定剤」「精神安定剤」と呼び、患者さんも「気持ちを落ち着かせるクスリ」として認識しています。

 

ところが、厄介なことに双極性障害の治療に用いる「気分安定薬」「安定」「精神安定剤」「安定」が混乱を招いているようです。

 

「気分安定薬」は英語で「ムードスタビライザー」と言われ、スタビライザーは「気持ちを落ち着かせる」という意味ではなく、 双極性障害(躁うつ病)に表れる「大きな気分の波」を抑えて安定化させるという意味なのです。

 

従って、最近では、マイナートランキライザーのことを「安定剤」と呼ばずに、「抗不安薬」と呼んでいるようです。

 

各ジャンルの「絵とゴロで楽しく覚えるクスリの名前」は次回以降投稿します。

 

 

 

くすりのレビュー、国家試験の勉強に役立つYouTube動画

yakulab info 下田武先生

統合失調症治療薬①:9分32秒

統合失調症治療薬②:14分35秒

統合失調症治療薬③:13分17秒

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