蚕が繭になって絹糸ができるまで!一つの繭から取れる糸の長さや生糸と紬糸の違いは何?

着物の素材

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お蚕さんが繭になって、
繭から絹糸ができるまでを知ってますか?

着物には様々な素材が使われていますが、
なんと言ってもその代表と言えるのは絹ですよね。

その絹の原料である繭糸は、
天然繊維の中でも最も長い繊維を持っているため、
多種多様な織り方が可能なのです。

絹糸は織り方によって、
たとえば羽二重と縮緬では、その風合いは異なりますが、
いずれも織られた生地は柔らかく腰があり、
吸湿性や放湿性にすぐれ、美しい光沢を放っています。

絹糸は草木染の天然染料や化学染料のどちらにも染まりやすく、
また、染め上がった生地を着物に仕立てて、
実際に着てみると、
軽くて暖かいことが実感できます。

絹は繊維そのものが熱を伝えにくい上に、
セリシンを取り除き精錬した糸や織物には、
空気がたくさん含まれているため、
肌に触れると温かみを感じるのです。

この絹の美しさの秘密は、糸の構造にあるといわれています。

絹糸は蚕が作り出したタンパク質からできた繊維ですが、
その組織は、
膠質であるセリシンと繊維質であるフィブロインの二重構造で、
繊維の断面は不均一な三角形をしています。

そのため、光があたった時の反射角度の違いによって、
絹の輝きが生まれるのです。

繭から採れた糸は『繭糸』といいますが、
繭糸のまわりにはセリシンが付いています。

そのセリシンが付いた繭糸を、
数本引きそろえて糸にしたものを『生糸』といい、
精錬してセリシンを除去したものを『絹糸』と言います。

ちなみに、繭一個で約1000m近い糸が取れるそうです。

生糸は蚕の繭から作られています

蚕を育てて生糸を作る養蚕製糸の技術は、中国から伝えられ、
弥生時代には絹織物がつくられていたといいます。

やがて日本各地に養蚕を始め、
製糸や染色の技術が広まって行きました。

明治時代以降は日本が開発した蚕の品質や製糸技術をもとに
世界一の生糸輸出国となり、
日本の経済や産業、社会の近代化に貢献しました。

現在は国際競争力の低下から、日本の生産量は激減し、
製糸工場も数えるほどになってしまいました。

こうした状況の中でも、日本国産の蚕を育てて、
美しい糸を生み出す努力を重ねている人たちがいます。

蚕にもたくさんの種類がありますが、
衣類などの原糸としては『家蚕』と『野蚕』に大別されます。

『家蚕』は、室内の飼育に適するように改良されて、
桑の葉を食べて成長します。

『野蚕』は、野外でクヌギなどの葉を食べて育つものです。

日本で育ち、利用されている『野蚕』には、
『天蚕』と呼ばれるものがあります。

お蚕様を育てる一般的な『家蚕』について

蚕を育て、繭を作る養蚕農家では、
桑畑から桑の葉を枝ごと切り出して、
新鮮な柔らかい葉だけを蚕に与えます。

卵から孵化した蚕は、
休眠と脱皮を4回ほど繰り返しながら、
もりもりと桑の葉を食べて成長し、
体内でセリシンとフィブロインを主成分とする絹タンパク質を作ります。

五齢の熟蚕になると、液状の絹タンパク質の糸を口から吐きはじめます。

「まぶし」と呼ばれる蚕が繭を作る部屋に、
繭を一個ずつ移すと、
自分のカラダを包み込むように∞字状に吐き出し、
3日ほどかけて繭を作ります。

蚕が「まぶし」の枠の中で繭を作るときの、
温度や湿度、寒気の具合などによって繭の品質が決まります。

その後、蚕は繭の中でさなぎになり、
さらに蛾になって繭から出ていきます。

そして、交尾の後に約500粒の卵を産卵して一生を終わるのです。

このように蚕は、幼虫から成虫へと完全に形を変える昆虫で、
ライフサイクルは約1ヶ月ほどです。

繭から生糸ができるまで

繭からできる糸の種類は大きく分けて3つです。

繭を原料とする糸には、
主に繰糸機(そうしき)で作る『生糸』と、
真綿から手で紡いで作る『紬糸』、
そして、
繰糸中にできた繭くずなどを用いた『絹紡糸(けんぼうし)』があります。

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繭から生糸として出荷するまでの全工程を総称して、
『製糸(せいし)』といいます。

そのうち、蚕が吐いた繭から糸を取り出し、
何本か合わせて一本の生糸にすることを『繰糸(そうし)』といいます。

繰糸には、機械を使う方法と手で行う方法があります。

専用の繰糸機で糸を巻き取る生糸の作り方


繭を湯の中に入れて、ほぐれやすくします。

柔らかくなった繭から正しい糸口を探し出し、
目的の太さになるように何本か合わせます。

一つの繭の糸が繰糸し終わったり、途中で繭糸が切れたりして、
繭糸の本数が足りなくなると、新しい繭糸を補給して、
常に目的に合わせた太さの生糸を作り出すというシステムです。

現在この作業は、ほとんど専用の自動繰糸機で行われます。

手で生糸を引き出す座ぐり繰糸


一方で、昔ながらの人の手によるものも残っており、
これを『座ぐり繰糸(ざぐりそうし)』といいます。

煮繭から糸口を見つけて本数を目的の太さにし、
手で糸を引いていく座ぐりは、絹糸張力が低くて繭糸に優しく、
理想的な方法ですが、
手間がかかる上に熟練の技術が必要です。

生糸や化学繊維のような、長繊維の太さを示す指標は、
「繊度(せんど)」といわれ、
この単位は『デニール(d)』で表しています。

9000m当たりの糸の重さのグラム数がデニール数と一致します。

従って、糸が太くなると“繊度値”は大きくなり、
9000mで27gある生糸は、27デニールとなります。

現在つくられている生糸は、27デニールを中心に、
21~32デニールのものが主流です。

通常は用途に応じて、
何本かの生糸を撚り合わせて利用されています。

人の手によって生糸を引いていく『座ぐり繰糸』は、
繰糸中に自然に発生する節や、
繊度のむらが特有の風合いを生み出すことから、
好んで座ぐり生糸を使用する人もいます。

繭から絹紡糸を作る袋真綿ができるまで


繰糸による糸の引き出しができない玉繭やくず繭は、
煮てセリシンを除き、
棒状に伸ばして真綿にします。

真綿は中綿や布団綿などに利用されますが、
この真綿を少しずつ引き出して、
手で撚り合わせて紡いだものが紬糸です。

膨らみがあって暖かく、
結城紬などの高級紬織物の原糸になります。

高価であっても「紬は普段着」のイメージがあるのは、
かつてくず繭から作られていたからです。

現在は玉繭などのほか、
生糸を作るのと同じ上質の繭が使われています。

まず、繭を選別し、
汚れているものや極小のものなどを取り除きます。

使う繭を袋に入れて、ぬるま湯や水に1時間以上つけてから、
沸騰したお湯に重曹を入れ、そのお湯に袋ごと繭をいれます。

繭が均等に煮えるように、途中で袋をひっくり返しながら、
中火で約1時間ほど煮ます。

煮あがった繭を袋から出して、
水で重曹などを洗い流します。

水分を良く切って、一粒ずつ分けた繭は、
いよいよ袋真綿を作る工程へ入ります。

ぬるま湯の中へ繭を浸け、一粒ずつ繭を綿状に平に伸ばしていきます。

繭層の薄い部分を指で開き、
三角形に引き伸ばしたらそれをクルッと裏返して、
中の蛹や脱皮殻を取り除きます。

伸ばした綿をそのまま左指三本で持ったまま、
同じ作業を5~6回繰り返して、綿を重ねていきます。

左指三本で5~6枚の綿を持っているので、
それをまとめて途中まで大きく伸ばします。

途中まで伸ばした袋の中に拳を入れて、
幅15㎝長さ30㎝の大きさまで伸ばします。

絹は丈夫なので、
優しく扱えば伸ばしても切れることはありません。

水気を切った真綿は、竿にかけて陰干しにします。

二日間ほど乾燥させたら、
きれいに束ねて袋真綿の出来上がりです。

人の手によって、あっという間に袋真綿が出来上がっていくのですが、
袋真綿を上手に作れるよう、熟練者になるには3年はかかるということです。

袋真綿から紬糸(真綿糸)を作るには、
袋真綿を専用の台にひっかけて、手で糸を引き出して紡ぎます。

あとがき

養蚕農家の方が『お蚕様』といって蚕を大切に育て、
蚕の作った繭から、あの光沢の美しい絹糸ができるまでって、
たくさんの人の手が関わり、
色々な苦労の結果、実ったものだということを、
あらためて実感しました。