ゴールデンウィークで実家に自分の荷物を取りに戻るためにしばしの休息。そんな中で思う事をダラダラ書こう。


赴任した国立大学は国内30位くらいのランキングで医学部もある総合大学だ。


おおよそ一ヶ月がたったので、これまですごした大学がいかに恵まれた環境だったか、翻ると外部資金が潤沢じゃない残り全ての大学がいかに悲惨かがわかってきました。


若手大学院生ポスドクの皆様、もし読んでもらえていたら、えらい先生や文科省のみなさん。この中堅国立大学の現状をご覧ください。



その一

NMRが壊れていて治る見通しが立っていない。理学部化学科の所属で、NMRが共有で一台あったのですが、昨年末付近に壊れたらしく業者も直せないとのことで、新しくパーツを追加するか完全に新しく購入しなければいけないようです。


いつ直すのか教授たちに尋ねたところ、この先数年は直せないとのこと。


この学科の半分は有機化学系なのだが、NMR壊れていて研究になるのだろうか?NMRが化学科でもつ地位を分からない方向けに少し補足。僕の博士をとった大学は有機系1研究室1個ずつ持ってるようなものでした。これがないと有機化合物を使う研究がほとんど成り立ちません。


学生はみんな工学部の建物まで測定に行けるから大丈夫ですよ、と言ってるけどNMR取る度に先生に工学部の装置を予約してもらって片道徒歩10分以上かけて工学部棟でNMRをとっています…



その二

学科の教員がこの10年で18人→11人になったらしい。毎年基盤運営費を1%ずつ削っていった結果、ありとあらゆるものが削られていった。新しい人員は事務・教員どちらも補充できず、かなりの人数を縮小させたらしい。補充できないだけでなく本来業績的に昇進に十分な教員も昇進させられず、業績ある人ない人みんなほぼ同じ職位でここ10年がすぎたらしい。たいして若くない僕が超若い扱いをされる不思議な空間。

当然、研究の面白さも減少し修士に行く人の割合も減少、それに連れて先生も一年ずつの卒業研究で途切れ途切れの結果をなんとか研究にしなければならなくなり、負のスパイラル的に下がる魅力。


「来る前にはなんとかできるかなーと思ってたけど研究なんか無理だった。」って着任して数日後に教授に言われた。そこで人事公募に書いてあった文言を思い出した。それは「世界最先端の研究を進めることができる若手を募集する」。


さて、これは詐欺か、奇跡を待つ彼らの一縷の望みか。



その三

スピード感の欠如。着任したけど、メールアドレスもなければネットも繋がらない部屋に案内された。全て自分で部署に行って申請しろとのこと。1週間かけまわって、ネット環境をようやく整えた。そしてメールは学外からはVPNを繋がないと通知が来ないし見れない転送もできない。Gmailなどのアプリに入れられない。スマホで見ることもできない。


流石に学外でメール確認にVPNはやばいって思ってたら、VPNのパスワードが全員共通で繋ぎかたをTwitterで拡散した学生がいたため急遽システム変更で1週間使えなくなった。その後情報システム部になんとかならないのかと言いに行ったら、我々も問題だと思ってるけど、システムとセキュリティの観点から変更不可能。とのこと、貧すれば鈍する。


遅れているのは認識してるようだが、自前のシステムを使う手間、お金がない大学では更新できないようです。



その四

しかし学生は真面目でやる気がある。色々キャラがあるけど、学生は面白いかな真面目でやる気はある。ただ、NMRも自分の裁量で取れない(金銭と装置の関係で教員の許可制)と、自主性は損なわれて指示待ちが多くなってしまう。世界を変えるような発見ができる可能性は誰にも平等にあることを感じられずに、この大学はこんなもんですよって言い可能性に蓋をする。


かの有名なF田先生、A田先生など実は学部は旧帝大出身じゃないめちゃすごいケミストも多いのだが、流石に今いる大学のこの研究環境で、研究面白い!ってのめり込んでグイグイ行くような雰囲気はまだあるだろうか?


痩せ細った研究環境が、未来の卓越した研究者の出現をなきものにしている感すらする。大学の研究室のお金のあるなしが、将来を担う研究者のプールをかなり狭め、若手の生存競争は一部の有名なラボや分野の間でのみ行われる。


建物はあり人材はいるんだ。お金さえあれば、もっと研究ができる環境になる。そんな巨額の話をしてるんじゃない。ただNMRなどの共有機器の不調を直せて、もう少し潤沢に備品消耗品が使えればいいんだ。


10個の選ばれし大学を作る集中投資のために、都道府県に一個ある国公立大学を研究ができないレベルまで落とすのはどうなんだろうか。



とまあ、着任前から半ばわかってたことを嘆いても使用のないことです。



いっちょ世界最先端の研究をしますか!

ちなみに画像の魚は世界最大級の淡水魚、ピラルクー