2021年4月7日水曜日

(3)フランスの水道PPPの推移(コンセッション、アフェルマージュ)

ここではフランスの水道事業の経緯や契約形態の概要を記載します。

フランスでは、昔から民間企業への水道事業の委託が実施が一般的であり、水道PPPの方式で知られるコンセッションやアフェルマージュは、フランスで実施されてきた方式です。

また、スエズ社やヴェオリア社といった水メジャーが形成され、一時期途上国の水道民営化(コンセッション)で大きな批判も受けました。途上国で失敗が続いたため、両社とも水道民営化については以前より消極的になっている印象です。

(多くの情報は、この資料に基づいて記載します。レビューも参考にしてください)


1)フランスの水道PPP事業の過去経緯

1778年:パリで初の民間水道企業であるパリ水道会社が設立される。
1832年:パリでコレラが発生。衛生・下水道の重要性が認知される。
1853年:ヴェオリアの前身、ジェネラル・デゾー社がリヨン市で業務開始
1860年:パリ市とジェネラル・デゾー社が50年のコンセッション(主に料金徴収業務)を開始。
1880年:スエズの前身、リオネーズ・デゾー・エ・ドゥレクレラージュ社がカンヌ市で業務開始
1985年:パリのコンセッション開始(セーヌ川を境に2分割し、パリ市とヴェオリア社、スエズ社系の会社が25年のアフェルマージュ契約を締結)
2010年:パリ(2地域)のコンセッションが終了し、再公営化

フランスでは1800年代後半から、主要な都市で民間企業の運営が始まっていました。このため、水メジャーとなったスエズ社やヴェオリア社は、100年以上の経験を有しています。

パリ市は古くから業務委託をしていますが、直近では1985年~2009年まで2分割した地域で、2社とアフェルマージュによる委託実施をしていました。建設発注方法や過度の利益確保などが批判され、2010年の契約終了を機に再公営化されました。


2)水道PPP事業の実施方式

コンセッション:公共調達法典で規定。報酬は水道料金。民間は料金徴収、維持管理、施設の建設・更新など水道事業の大部分の業務を実施。性能発注で実施され、事業期間は最長20年。

アフェルマージュ:アフェルマージュは法令上明確に定義されておらず、一般的な概念しかない。報酬は水道料金の一部として受領する。初期投資、大規模な建設投資は公が実施する。

※水道事業のPPP方式の比較は「水道事業のPPP方式の比較」で説明していますので参考にしてください。(上のフランスの定義と異なる点もあります)

適用される方式の人口割合:上水道事業のレジー(公営)とDSP(民間委託)の人口比は2015年時点で41%:59%とDSPが多い。DSPのうち、コンセッションとアフェルマージュの比率は、12%:88%とアフェルマージュが高いそうです。私も知りませんでしたが、フランスの水道事業は人口比で見たところ、アフェルマージュ方式によるサービス提供割合(52%=59%x88%)が最も大きくなっています。

3)料金政策

水道事業はフルコストリカバリー(料金で費用をまかなう)が基本です。一方、下水道事業は下水料金で半分程度賄い、残りの雨水排除などに対して補助金が支出されています。

公的運営(レジー)と民間運営(DSP)の平均料金を比べたところ、公的運営と比べて、民間による業務の上下水道料金が1割程度高くなっています。

平均上下水道料金の比較

i)公(レジー): 合計3.87Euro/㎥(上水1.93Euro/㎥、下水1.94Euro/㎥)

ii)民間(DSP):合計4.20Euro/㎥(上水2.09Euro/㎥、下水2.11Euro/㎥)

(2018年時点、税・補助金分も含む)

4)再公営化に関する意見

パリの再公営化について、少し前に話題になりました。「昔から実施しているフランスのパリ市でも水道民営化が失敗し、市民は再公営化を選択した」という内容です。配当や財務費用等が高く、そのために水道料金が高騰しているとの批判があり、民間企業が過剰な利益を上げることは大いに批判されるべきです。

ただし、フランスでは複数ある選択肢から最適と思われる方式を選んでいる状況であり、民間運営が致命的な事故を起こしたというわけではありません。各国の事例を見ても、公的機関の運営により非効率化される事例も多いため、一時的な感情論で批判するのではなく、技術・財務指標、料金改定などの推移を、10-20年かけて注意深く評価する必要があると思います。

資料:

フランスの上下水道経営―PPP・コンセッション・広域化から日本は何を考える(2020)




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